EVENT | 2022/12/23

2022年のゲーム業界を揺るがした「4つのビッグニュース」。エルデン1750万本の大ヒットから難航する過去最大の買収劇まで

2022年もゲーム業界にとって激動の一年となった。2021年に世界全体で約22兆円の市場規模を記録したゲーム業界は、世界...

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2022年もゲーム業界にとって激動の一年となった。2021年に世界全体で約22兆円の市場規模を記録したゲーム業界は、世界各地で進むデジタル化、若者たちの熱烈な支持、通信環境の改善等によって今後ますます成長するものと考えられ、事実2022年は過去10年で最大とも言える業界の変化が見られた。

例えば、(1)2021年から現在まで続くMicrosoftによるActivision-Blizzardの「687億ドル」買収計画を始めとした、大手企業によるM&A。(2)アメリカのビッグテックが苦戦を続ける中、(3)日本のゲーム企業が1000万本を超える大ヒットを連ねたのも、対照的と言える。(4)一方で、依然として続くウクライナ紛争はゲーム業界にも被害を及ぼした。

そこで本稿は2022年におけるゲーム業界のビジネスニュースを4つピックアップし、今年ゲーム業界に何が起きたのかをまとめたい。

【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(20)

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ

続く大型M&Aと巨大化するスタジオ

ゲーム業界の今後5年、10年に注目した場合、今年も続いた大型M&Aの影響は大きいかもしれない。

最も注目された事例は、昨年から続くMicrosoftによるActivision-Blizzardの「687億ドル」買収計画だ。日本円にして約9兆円という買収規模はゲーム業界でも前例がないどころか、あらゆるM&A事例を含めても歴史的なものといえる。当然その金額相応にActivision-Blizzardも『CoD』シリーズや『Diablo』シリーズで有名な企業であったため、大きな話題となった。一方、その巨額から独占禁止法に抵触するおそれがあり、12月9日には米連邦取引委員会(FTC)がMicrosoftを提訴することが明らかになるなど、買収は困難を迎えている。

なおFINDERSでは今年、このActivision-Blizzard買収への見解を西村あさひ法律事務所の松本祐輝弁護士にインタビューしたが、松本氏は(各メディアが買収実現を確信していたことと裏腹に)「反トラスト法への抵触がありうるため、実際に買収が完了するかどうかはまだわからない」と当初から話している。

一方、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるHousemarqueやBungieの買収、任天堂のSRD子会社化、またスクウェア・エニックスによるCrystal Dynamics、Eidos Montreal、Square Enix Montrealの売却など2021-22年の間にゲーム企業の大型M&Aが相次いだ。その背景には開発費の高騰、人材の流動化、経営の見直しなど考えられるが、いずれにせよこの動きは来年以降も続き、5年後、10年後のゲーム業界は勢力図が大きく変わる可能性もある。

本格参入に苦しむテックジャイアントたち

一方、不景気な話題といえばGoogleが2019年に意気揚々とゲーム業界に本格進出すべく投入した「Google Stadia」が、9月29日に突如終了したことだろう。

Google Stadiaはサーバーから直接送られる情報をもとにゲームをプレイできるクラウドゲーミングのサービスで、ハイエンドなPCやゲームハードを持っていないユーザーでもさまざまなゲームを楽しめるのが魅力だ。しかし、サーバー越しのラグがゲームプレイの障壁となり、その評判は決して芳しいものではなかった。またGoogle Stadiaならではのコンテンツもそこまで充実しておらず、当初こそ話題になったが次第にフェードアウトした印象だ。

また「メタバース」の到来を確信し、社名を「Meta」に変更した旧フェイスブック社も苦戦を続けている。同社はVRデバイスを開発するOculusを買収し、「Meta Quest 2」等のデバイスを販売したり、次世代のメタバースサービス「Horizon World」の開発を進めたりしているが、その結果が芳しくない。

同社のメタバース全般を扱う部門のReality Labsは2021年でも100億ドル(約1兆4000億円)もの損失を出しており、2022年も同じく100億ドル以上の赤字が予想されている。同社のCEO、マーク・ザッカーバーグは「毎年100億円投資する」と当初から強気に宣言していたものの、株価は2016年以来の水準にまで下落している。ザッカーバーグが自ら投稿した「Horizon World」のスクリーンショットが期待を下回ったのも、追い打ちとなっているようだ。

両社の動向を見ていると、いかに「テックジャイアント」と称されるGoogleとMetaの二社であっても、ゲーム(メタバース)に参入することは中々難しいことがわかる。特に両社はサービス(デバイス)こそ優秀でもコンテンツが不足している共通の欠点を抱えていることを鑑みると、そのコンテンツを作るために買収を進めたMicrosoftや、同社よりも早く投資を展開した中国・テンセントの判断が正しかったと見るべきだろう。

一方、Googleは「Google Stadia」こそ失敗したものの、Android用ゲームの配信プラットフォームであると同時に、世界最大のゲームプラットフォームといえる「Google Play」を持っており、その点で実はGoogleは未だ世界でもトップクラスの「ゲーム企業」だ。MetaもFacebook内に月に3億5000万人のユーザーが遊ぶカジュアルゲーム集のFacebook Gamingを所有しており、両社は一見「苦戦」しているようだが実は「既に成功した地盤」があったうえで投資を行っていることも踏まえておきたい。

国産ゲームの度重なる大ヒット

そしてあらためて注目したいのが、2022年における日本製ゲームの度重なるヒットだ。その筆頭は言わずもがな任天堂。同社のハードウェアNintendo Switchは今年で5年目に突入するが、その勢いは一切衰えていない。

まず自社開発では3日で国内345万本というロケットスタートを記録した『スプラトゥーン3』の成功に加え、世界的IPである「ポケモン」から『Pokémon LEGENDS アルセウス』『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の2本が立て続けにリリースし、前者は2022年11月時点で1390万本、後者はたった3日で1000万本という驚異的なヒットを記録。他にも『星のカービィ ディスカバリー』や『ゼノブレイド3』など独占タイトルにも恵まれた。

しかし任天堂のようなプラットフォーマーではなく、純粋なサードパーティでありながら前代未聞の大成功を収めたのがフロム・ソフトウェア、宮崎英高監督の最新作『エルデンリング』。

同作は発売から1年たたず1750万本という売上を得たばかりか、12月に開催されたばかりの「The Game Awards」の「Game of the Year」をはじめ世界中でアワードを受賞。売り上げだけでなく、文化・芸術的にも極めて高く評価されており、間違いなく2022年、日本のあらゆる芸術の中で「もっとも世界から評価された作品」だろう。

もちろん海外においても『Horizon Forbidden West』や『God of War Ragnarok』などの作品がヒットし、さらにインディーゲームからも『TUNIC』や『IMMORTALITY』など評価の高い作品も続々と生まれたことから、激動の2022年においても「面白いゲームが生まれ、ちゃんと評価され、売れる」という理想が変わらず確認できたのは何よりもうれしいニュースだ。

今も続くウクライナ侵攻と、ゲーム業界への影響

最後に、現在も続くロシア連邦によるウクライナへの侵攻について触れたい。2014年に行われたロシアのクリミア半島実効支配、あるいはそれよりも以前まで遡るこの紛争は、2022年2月24日にウクライナ本土への侵攻により本格化し、国連によればウクライナの市民が少なくとも6826人(うち子ども428人)が亡くなり、ウクライナから亡命した人数も1633万人以上、そして今なおウクライナ・ロシア両軍の将兵の命を残酷に奪い続けている。

無論この紛争の影響は、ゲーム業界においても甚大なものとなっている。まずウクライナに拠点を置くスタジオの多くが活動停止あるいは延期を余儀なくされており、具体的には世界で600万本売れた『Metro Exodus』等を開発した4A Games、『シャーロックホームズ』のゲーム版を開発するFrogwares、来年発売を予定する『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chernobyl』を控えたGSC Game Worldなど、世界的に注目・評価されるゲームスタジオおよびゲーム開発者が、この紛争により甚大な影響を受けており、また各スタジオはウクライナ支援を呼び掛けている。中でも4A Gamesの『Metro Exodus』は、恐縮ながら筆者が2019年に同年のベストゲームとして紹介していたが、同スタジオのシニアアニメーターAndrii Korzinkin氏がウクライナ軍に従軍し、作戦中に戦死したことは、悔やみきれない。

またesportsの文脈においても、ウクライナは「Natus Vincere(NAVI)」などの強豪チームの拠点であるほか、『VALORANT』の国際大会「VALORANT Masters Copenhagen」にて優勝した「FunPlus Phoenix」のキャプテン、ANGE1のような名プレイヤーも多数存在し、彼らへの精神的・身体的な影響は極めて大きなものとなっている。

FINDERSでは、ANGE1が祖国の国旗をまといながらTwitterで発したコメント「私は毎日何百人もの市民が死んでいく国から、ロシアが廃墟か植民地になることを望んでいる国から来た者だ」と発したコメントも紹介している。

一方、Necrosoft Gamesのスタッフが主にインディゲームを扱うゲーム販売サイト「itch.io」で、総額6500ドル相当のゲームをわずか10ドルの寄付から入手できる「Bundle for Ukraine」を販売し、合計637万ドルを慈善団体に寄付するなど、ゲーム業界あるいはゲームコミュニティが積極的に支援を試みた点も触れておきたい。またウクライナ市民の視点で紛争が描かれるビジュアルノベル『Ukraine War Stories』のような作品(日本語でプレイ可能)も存在する。

よい「作品」が売れ、評価される業界

かくして2022年のゲーム業界の動向を振り返ると、まずゲーム業界外で起きたウクライナ侵攻およびコロナ禍の影響を受けながらも、拡大する市場規模からテックジャイアントは参入の機会を伺い、プラットフォーマーはM&Aを進めている。そうした環境の変化を受けつつも、作品レベルでは『エルデンリング』をはじめ多くの素晴らしい作品が生まれ、評価され、売れるという好循環が続いていることに、ひとまず安心といったところか。

ここから鑑みるに、これまでゲーム史においては数十年の短い歴史の間で、技術的にさまざまなパラダイムシフトが起きたが、少なくとも一貫しているのは「面白いゲーム」が評価され、ゲーム業界を盛り上げたことだ。技術も、資本も、そうした環境はあくまで作品を作り、遊ぶための土台に過ぎず、逆に作品も環境に応じてどのように変化し、新しいアイデアを詰め込むかが問われてきた。

結局、大手プラットフォーマーのM&Aにせよ、テックジャイアントの進出にせよ、素晴らしい作品を作り、それを世界に届けたいという理念は、どの企業も変わらないように思われる。2023年以降もゲーム業界は変化していくだろうが、何より注目すべきは、やはり「作品」なのは変わらないだろう。