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マイクロソフト8兆円買収の目的と背景を現役ゲーマー弁護士に聞いたら、予想もつかない答えが返ってきた【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(12)
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  • 2022.02.18
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マイクロソフト8兆円買収の目的と背景を現役ゲーマー弁護士に聞いたら、予想もつかない答えが返ってきた【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(12)

聞き手・文・構成:Jini

1月18日、マイクロソフトはゲーム企業大手Activision Blizzardを、総額687億ドル(約8兆円)で買収する意向を発表した。

8兆円という圧倒的な買収額と、近年の動きが著しいマイクロソフトの存在感、 さらにはメタバース等とも絡められて注目を集め続けるゲーム業界の大きな動きということもあり、このニュースはゲーム業界外からも大きな注目を集め、日本の新聞、テレビでも報道された。

しかし、普段ゲーム業界のニュースがマスコミで論じられる機会が少ないためか、報道の内容も表面的な事実の確認か、あるいは疑わしい憶測が続いた。筆者は自分のnoteで本件に対する考察を執筆したが、まだ不明な点も多かった。

そこで今回、ゲーム業界に詳しく、かつM&Aなどの法務を専門とする弁護士の松本祐輝さんに取材をお願いしたところ快諾いただき、話を伺う運びとなった。

皇居の目の前にオフィスを構える日本最大手の弁護士事務所、西村あさひ法律事務所に所属し、実際にゲーム業界でも様々な企業と取引を重ねてきた松本弁護士。果たして、松本氏はどのようにこの買収を見たのか?実際に質問すると、予想もつかない答えが次々に返ってきた。

西村あさひ法律事務所 より

松本祐輝

西村あさひ法律事務所 弁護士

2014年に東京大学法学部卒業。2017年に国内大手証券会社M&Aアドバイザリー部門へ出向。その後、株式会社アカツキへ出向し、eスポーツ事業を担当。現在は、西村あさひ法律事務所にてM&A、コーポレート業務をおもに取り扱っている。このほか、eスポーツチームやeスポーツ事業に関連する法的アドバイスや、慶應義塾大学等におけるセミナー・講演や執筆の実績も豊富であり、日本におけるeスポーツ法務の第一線で活躍している。

――まずは、松本さんご自身について聞かせてください。

松本:弁護士としてM&A・企業法務全般を専門分野としており、ゲーム領域では、国内外のゲーム会社、esportsチーム、大会運営会社など広い領域のクライアントの案件に携わらせていただいています。また、私が所属する西村あさひ法律事務所も、同様にほとんどのクライアントが法人企業となっております。

――つまり、ゲームにもM&Aにも極めてお詳しい弁護士の方と。まさにMicrosoftによる買収のお話を聞くのにこの上ない専門家ですね。

松本:ありがとうございます。私の弁護士としての大きな目標のひとつは、ゲーム業界を大きく動かすようなM&Aを弁護士として主導することなので、今回のテーマは私も非常に関心があります。

まずは弁護士目線で現状の論点を整理

Photo by Shutterstock

――では早速本題に入らせてください。先日、Microsoftが8兆円でActivision Blizzardを買収したというニュースが大きな話題となりました。客観的に見て、大きなニュースと言えるでしょうか。

松本:日本企業が直接関係しないということもあり、日本のM&A市場からはあまり重たく受け止められていないかもしれませんが、8兆円というのは相当大規模な買収だというのは間違いないと思います。

――初歩的な質問ですが、そもそも、ここでいう「買収」「M&A」とはどういう意味なんでしょうか?

松本:基本的にM&Aは「会社を売る・買う取引」という認識で問題ありません。場合によっては、それが統合、いわゆる「会社と会社を合併して2つの事業を行う会社を作る」ということも含めて「M&A」と呼ばれることもあります。

――M&Aと聞くと、よく「買収」と解釈されますが、当然「売却」でもあるわけですね。

松本:はい、買収側の対極には売却側がいます。企業と企業の間で会社を売買することもあれば、上場企業のように一般の人も含めて株主の多い会社の場合は「1つの会社が色々な株主から株を買い集めて買収をする」というようなこともあるのではないかと思います。

――なるほど、ただ企業同士が納得するだけでなく、上場企業であれば株主からの納得も必要になると。

松本:今回のActivision Blizzardの案件はそのパターンになります。現時点では買収が成功したわけでなく、「この後に買収を進めていく」というお知らせを出しているにすぎませんので、実際にそれが完了するかどうかはまだわかりません。

――もう一つ、買収にかかる懸念としては独占禁止法に触れるのでは?という点もありますね。

松本:MicrosoftもActivision Blizzardもゲーム業界ではかなりの大企業であり、アメリカをはじめとする各国の市場に対する影響が大きすぎるため、買収を中止させられる可能性もあります。アメリカだと「反トラスト法」と呼ばれる法律群があり、これに基づいて審査されるのではないかという報道もBloombergなどで確認しました。だから、そういった審査を今後実施していき、各国でOKが出れば実際にその手続きに進んでいくのではないかと思います。

――具体的に「独占」はどの点が問題視されるのでしょうか。例えば、Microsoftは買収した『Call of Duty』シリーズをライバルであるSIEのPS5にも供給すると発表しましたが、タイトル独占などはファンも気にしますよね。

松本:ゲームビジネスの中で影響力を持つ2社が合併すると、市場のシェアが上がります。場合によっては「独占的なビジネスが生まれることで消費者が不利益を被るのではないか?」、あるいは「他の企業が競争力を失ってしまうのではないか?」というような懸念をケアするのが「反トラスト法」です。日本だと「独占禁止法」がその役目を担っています。

フランチャイズの独占は、ユーザーにとっても法律的な観点から見ても非常に重要なところです。そもそも、MicrosoftはXboxというプラットフォームを持っているのにもかかわらず、大きなパブリッシャーを買収するのは何故か?という疑問もありますから。

次ページ:何故Microsoftは8兆円規模の買収に踏み込んだのか?

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