経済産業省では、長期的・持続的な日本経済の発展のため、大学や、高専等の機関を中心とした研究拠点より、企業ネットワークのハブとして活躍している産学連携拠点を評価・選抜 (国際展開型と地域貢献型の2類型) する 「J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜事業」 を令和2年度より行っている。また、令和5年度より 「地域の中核大学の産学融合拠点の整備」 についての補助事業終了後から新たにプラットフォーム型としての選抜も始まっている。
令和6年度についても、令和5年6月25日から7月29日までの公募期間中、5件の申請があり、第6回目として地域貢献型1拠点が選抜された。
本連載では、新たに選抜された拠点およびプラットフォーム型の取組等を紹介する。
J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜制度 プラットフォーム型拠点 ~国立大学法人東京科学大学 tip
国立大学法人東京科学大学(旧東京医科歯科大学)は、より良い医療と人々の健康が増進される社会の実現に向けて、三菱地所株式会社とともに2021年8月にイノベーションプラットフォーム拠点であるtip (バイオ・医療スタートアップ増強・オープンイノベーション推進拠点) を開設した。
tipは、医療現場・研究現場発イノベーションコミュニティであり、本郷・御茶ノ水エリアを世界有数のバイオ医療コミュニティに発展させ、新産業の創出を目指している。
大学内のスペースやリソースを活用したtipの設備
tipでは、企業向けウェットラボの運営と個人会員制のコミュニティの運営を行い、研究・教育・医療現場に近接した環境下で産学官が時間・空間・英知を共有することで、アイデアの創出からプロジェクトの加速の実現を目指して、トータルヘルスケアイノベーションに取り組んでいる。
tipには現在360名を超える会員登録があり、部屋貸オープンラボについては全15室で常時90%を超える入居率を誇る。「共用機器利用可能なシェアラボ(貸実験台)」
については、スタートアップ及び起業を目指す学内外者の利用を対象としていて、学内用ベンチと学外用ベンチに区分して運用している (学内10、学外17)。
シェアラボの大きな特徴は、tipの企画・営業・運用面を担当する 「tip事務局(医療イノベーション機構、三菱地所)」
と、シェアラボにおける実験安全面管理を担当する学内共同利用実験施設運営の 「御茶ノ水リサーチファシリティ(ORF)」
が、役割分担・連携をしながら、協力して運営している点にある。
様々なバックボーンや事業目的のスタートアップ研究者が同じ研究室を共用することから、バイオセーフティをはじめとした実験安全を担保することは非常に重要であるため、ORFには各種実験機器の扱いに長けた専門スタッフ、危険な細菌やウイルスを含む病原性微生物を取り扱う専門家が所属するBSL3ユニットや学内の実験手続きやルールに精通した教員や技術職員が在籍し、これらの全面バックアップを受けることができる。また、ORFに設置する各種実験機器を学内者と同じ料金で利用できるサービスもある。

臨床現場に近い最先端の実験機器と、多様なプレイヤーの交流を促進
tipの強みは、臨床の現場に近い場所で実験ができることである。敷地内(8号館等)にある最先端の実験機器を時間単位で利用することが可能(要別途費用)で、バイオセーフティレベル2の実験室も予約して利用することができる。実験スペースは、部屋貸しタイプの 「tipオープンラボ」
から、ベンチ貸しタイプの 「tip-RCCシェアラボ」 まで、研究目的や成長フェーズに応じた実験スペースを用意している。さらに、学内研究者向けに実施している実験安全講習とtip利用者向けに行うバイオセーフティ実習のプログラムを用意しており、安全に実験できる環境を整えている。
また、「毎週水曜日はtipの日」 と題し、研究力強化と東京科学大学発の医療イノベーション創出に向けたtip
BB(Blue Bird)セミナーや学内研究者とtip会員との交流会、起業セミナー、ランチミーティングといった多彩なイベントを毎週水曜日に開催し、研究者およびtip会員(産学官)発の現場の課題や連携ニーズを発信し、課題解決の糸口を探す場としている。
このように、tipでは最先端の実験機器や実験スペースだけでなく、多様なプレイヤー同士の交流促進を進めることでイノベーションを加速させている。
さらに、大学の知・資産を活用したスタートアップ創出支援体制の強化や、大学を起点とした多様なステークホルダーとの共創によるオープンイノベーション促進のため、東京科学大学が運営する医療系産学連携ネットワーク協議会(medU-net)を通じ、得られた成果を全国の大学へ共有するなど、国全体のイノベーション強化に貢献する公益性の高い施設を目指している。
tipのこれから~世界に伍するバイオ医療コミュニティを目指して
tipの今後について、東京科学大学医療イノベーション機構長の飯田香緒里氏は、以下のようにコメントしている。
「東京科学大学が、前身の東京医科歯科大学の肝いり事業として2021年から運営するライフサイエンス領域のイノベーションプラットフォーム“tip”に、2024年4月より新規開設したベンチ貸しのシェアラボです。これまでもtipではオープンラボ(部屋貸し占有ラボ)の企業宛貸出をしていましたが、数が限られていたこともありすぐ満床となる状況で、ライフサイエンス領域の企業やスタートアップの根強いニーズに対し本郷・御茶ノ水エリアで共用機器を備えたウェット対応シェアラボの供給は依然不足している状況でした。これを経済産業省の「地域オープンイノベーション拠点選抜制度(J-Innovation HUB)」により、本学附属病院に隣接する研究棟内に整備し、多様なプレイヤーの交流促進機能を拡充することでイノベーション創出を加速させ、このエリアを世界に伍するバイオ医療コミュニティに育てあげ、新産業の創出に貢献することを目指しています。」

国立大学法人東京科学大学
tip (バイオ・医療スタートアップ増強・オープンイノベーション推進拠点)
https://tmdu-tip.jp/
Jイノベ選抜拠点の記事一覧はこちら
https://finders.me/series/kqJTU6YwMDMwNTU
