通路面に壁を建てるデザインは本当にNGなのか
第3回となる今回は、展示会ブースデザインにおいて、これまた 「それ、普通やらないでしょ」 ということを書いてみたい。テーマは 「壁」。
「通路面に壁を建てると来場者が入ってくる」、という手法を説明しよう。
ブースをデザインし、出展者にデザイン案をプレゼンする段階でなかなか説得に苦労するのが、この 「ブースの通路面に壁を建てる」 というもの。多くの出展者や展示会関係者は展示会ブースの 「通路面に壁を設置する」 ことに強く警戒心を感じる。
「壁があると来場者が入って来ないじゃないか」、と。
しかし、デザインをする立場としては、そんなデザインをしてみたい、という時もあることだろう。デザイン的にそうしたいけど、上司やクライアントがなかなかOKを出してくれない。そんな悩みを持つデザイナーも多いのではないだろうか。
通路面に壁を建てても全く問題はない
そもそも、集客を考えた時に、通路面に壁を建ててもよいものなのだろうか。ちゃんと来場者が寄って来てくれるだろうか。
多くの方は、「NO」 というはずだ。
しかし、結論から言えば、全く問題はない、と言っていい。
しかも、壁を設けないよりも壁を設ける方が、集客の結果が上がる可能性を持っている。
このようにお伝えすると、やはり長く展示会業界の経験がある人ほど、「そんなことはあり得ないでしょ」 と言われるのでないだろうか。
もちろん、このことには 「ただし・・」 という注釈が付く。
確かに、ブースの通路面にただただ壁を設けるだけでは、来場者を集めることは難しい。
例えば、通路際に隙間なく壁面が立っており、中に何があるか分からない状態のブースに入ってくる来場者はほとんどいないだろう。「壁があると来場者が入って来ない」 と懸念している方はほとんどこのような状況を想像しているはずだ。
しかし、壁面の設け方にも様々な方法がある。そして、その 「設け方」 によって、その壁面は、逆に 「来場者が集まる設え」 に変わる。
来場者は「気になる」からブースに入ってくる
当社では、通路面に壁を設けることはよく行っている。そして、そのような際、
出展社の方には以下のように説明している。
「壁がなくオープンであれば来場者が入ってくる、というわけではありません」
「壁がないから来場者が入ってくるのではなく、壁があるから来場者が入ってこないわけではありません。では、どんな時に入ってくるのか。それは気になった時、なんですよ」
と。
たとえ壁がなくても気にならなければ来場者は入ってこないし、気になれば壁があっても入ってくるようになる。
つまり、通路面に壁を建てた上で来場者にブース内に入って来てもらいたい時は、
例えば 壁に穴が開いていて中が見えるようになっていたり、
壁と壁の間に隙間が空いていて ブースの中がチラ見できるようになっていたり、
ブースの中に気になるものが置いてあって、思わず近づいて見たくなる、
というような、そんな 「仕掛け」 を施すことが重要なのである。

人は、気になるところがあればそれを見たくなるもの
「気になってついつい見てしまう」
この心理は展示会場でも同じで、来場者を自社ブースに引き寄せたいと思う場合、
何らかの形で 「気になる」 ような設えをすると寄って来てくれるようになる。
例えば、壁面に適度に穴 (開口) が空いていたり、その隙間から何かが見えていたり、という風に。人は全貌が見えると興味をあまり感じないが、一部しか見えないと、一体それが何なのかが気になるようになる。また、壁面全面が閉じていて内部が完全に分からないと興味を持てず、やはり通り過ぎてしまうことになる。このような人の心理をうまく活用することで、壁を作っても来場者が集まるような設えとすることが可能になるのだ。
また、同時に壁面に適度に穴 (開口) が空いていると 「安心感」 を与える、という効果もある。
壁面に気になる記載があり、「近づいてみたい」 と思ったものの内部がどうなっているのかが分からず、無意識のうちに不安になってしまう。または、実は裏に出展者が待ち構えていて、壁面に近づくと即座に声を掛けられるのではないか。
壁があるとついこのように感じてしまうかもしれない。
しかし、壁面に空いた穴(開口)から内部の様子をさりげなく伺い知ることができると、 「つかまる心配がない」 と思った来場者は、自然に、安心して、壁面に近づき壁面の情報や資料を見てくれるようになる。
人の心理は測り知れないものだが、ある程度の予測を立てることは可能だ。通路面に壁を立てる際には、このような微妙な来場者の心理を考えながら、絶妙な位置に壁と開口を設けることが大切になる。



1点、注意点をお伝えしておこう。壁面に開口部を設けて内部が見えるようにすると、来場者は安心して入ってくれるようになるが、中にいる人と目線が合ってしまうと、避けてしまうようになる。なので、目線が合うような位置に開口を設けるのはお勧めしない。あくまでも、内部がさりげなく見える。そして気になる。それがポイントとなる。
戦略的に通路面に壁を建てたCCCの事例
事例を1点お伝えしよう。
下記の写真は、2025年1月にパシフィコ横浜で開催されたSCビジネスフェアという展示会に出展したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のブースとなる。
2小間 (6m×3m) というサイズで、3方向を通路に囲まれた小間位置となっている。
このブースをデザインする際、私は敢えて正面のみを全面オープンにし、左右の面は敢えて壁にすることにした。
その意図は、もちろん今回の出展において最大の成果を出していただきたい、と考えたからだ。
今回の小間位置。3方向が通路ではあるものの、実は正面の通路幅がものすごく広く (約7m) なっており、一方で左右は一般的な広さ (3m) となっていた。そこで、左右に壁を設けることでブースの正面のみに来場者が集まるようにし、また左右の壁の上部には、広い通路の両端から近づいてくる来場者に対して、ロゴ・会社名を見やすいように掲示しておくことにした。これにより、遠くから近づいてきた来場者が 「あそこにCCCさんが出展している」 と認識できることになる。もちろん、左右の壁には適度に開口を設け、内部をさりげなく感じられるようにしている。
これ以外にも様々なブースデザイン上の工夫を施し、結果として会期中には十分なほどの来場者の方々にブースに集まっていいただいた。



いかがだろうか。通路に面して壁を建てることは、それ自体良くないことなのではなく、設け方にポイントがある、ということがご理解いただけたのではないだろうか。壁面を設ける場合、それが集客上どのような意図を持っているかが重要となる。
この考え方は展示会ブースだけでなく、商業施設・店舗などでも応用可能な方法となることだろう。「ただデザイン的に通路面に壁を建てる」 というだけでは客が入ってくれるとは限らない。店内が気になるように、ついつい入ってしまいたくなるように、店舗の入口を戦略的にデザインすることで、入店率を高めることは可能だ。
集客は、基本的に心理戦のようなもの。物理的にどうこうではなく、その設えがどのような「心理」を来場者に与えるのかが重要なことになる。
この記事は、展示会情報メディア 「イベスル」 の掲載記事
「「ありえない」 ブースデザインの工夫」 を展示会業界外向けに加筆・調整したものです。

SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役 展示会デザイナー/一級建築士
1970年生まれ。一級建築士。大学で建築を学び、ゼネコンにて設計業務に携わる。
独立後は、インテリアデザイン事務所として「ディーコンセプトデザインオフィス」を設立。その後、展示会ブースに特化した空間デザイン会社「スーパーペンギン」に組織変更を行い、展示会のブースデザイン専門の空間デザイン会社として業務を特化する。徹底した「来場者心理」を軸にした空間デザインの手法によりブースを構築。ブースデザインに加え、商品陳列手法、キャッチコピーの考案、会期中の立ち方・待ち方、DMの送り方に至るまでの展示会サポートの姿勢は、「デザイナーというよりコンサルタント」との評もあり、デザイナーによってキャッチコピー・商品陳列・立ち位置の設定まで行うのは、日本において唯一と考えられる。これまでの経験を基にした展示会セミナーは常に「満足度100%」を達成。現在、全国の自治体・中小企業支援団体だけでなく、多くの展示会主催者、代理店、設営会社等展示会業界関係企業までにも行っている。代表的な実績として、ギフトショーにおける「石川県産業創出支援機構ブース(石川県ブース)」「東京都中小業振興公社ブース」など、自治体による集合ブースが業界内で認知されている。いずれも、地方自治体が地元も企業を支援する出展形式のブースとなっており、ブースデザインだけでなく、出展対策セミナー、個別のディスプレイ指導を含む総合的な出展支援は、展示会業界でも類を見ない支援方法として、全国からの問い合わせが増え続けている。2023年に著書「集客できる展示会ブースづくり」を発刊。
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