オリジナルアイテムを着るマミ
かつてない盛り上がりを見せる音声コンテンツ市場。日本ではなかなか定着しなかったPodcastもついに花開き、番組数も劇的に増加した。「オトナル」と朝日新聞社が今年1月に行った調査によれば、推計でおよそ1100万人がPodcastを日常的に聴いており、その半数近くはこの1年の間に聴き始めたという。
今から8年前。まだまだPodcastの番組数も、日常的に聴く人も少なかった2013年から配信をスタートした番組『バイリンガルニュース』をご存知だろうか。マミとマイケルの2人がさまざまなニュースについて、マミは日本語、マイケルは英語の「バイリンガル会話形式」で話していくというもの。2人のキャラクターと独特なトピック選定も相まって、英語の勉強を目的としたリスナーを中心に、この8年間絶大な人気を誇ってきた。
そんな2人が黎明期からどのようにして番組を継続してきたのか。マネタイズの方法やモチベーションの維持、そして2人が断固として維持してきた配信に対する「姿勢」について、今回はマミに話を訊いた。
これからPodcastを始めようという人にも、今まさにPodcastを配信しているという人にも是非一読してもらいたい内容だ。
聞き手・文:赤井大祐 画像提供:バイリンガルニュース
マミ
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1986年東京都生まれ。東京育ちのバイリンガル。2013年5月から、友人のマイケルと2人で英会話Podcast「バイリンガルニュース」を始める。本業は戦略コミュニケーションコンサルタント。
Podcastはカット無しで話ができる場所
――バイリンガルニュースはスタートが2013年と、日本のPodcastの中では相当早かったと思います。僕も数年前に聴いていた時期があり、何年かしてまた聴き始めたのですが、スタイルがほとんど変わっていないですね。
マミ:強いて言えば私とマイケルが丸くなったぐらいですね(笑)。
――丸くなったんですか?
マミ:かなり丸くなりましたよ。最初は若かったし、色々なストレスもあって今じゃ考えられないぐらいしょっちゅう喧嘩とかしてました。多分年取ってだんだん疲れてきて、喧嘩とかしてられないみたいな感じに(笑)。
――長く続けていることへのリスナーからの反応はいかがですか?
マミ:リスナーの方からも「継続してくれていてありがとう」ってメッセージをもらうことがよくあるんですが、これは長くやっていることのメリットの1つですよね。例えば子どもが生まれて聴けなくなったとか、リスナーの方々にも色々な生活の変化があるじゃないですか。でも戻ってきてくれた時に私たちも変わらず続けていると「帰ってきた」って感覚があるみたいです。
私も『火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ』をずっと聴いていたんですが、子育てが始まって、仕事もあって、と忙しすぎた結果2年近く聴けてなかった時期があったんです。でも久し振りに聴いたら本当に変わらずで、そういう存在ってすごくホッとするなぁって。「自分たちもそんな風になれていたら嬉しいな」って思うことはよくあります。
――「帰ってきた」と感じるのも音声メディアだからこその感覚かもしれませんね。ご自身ではこの8年間いかがでしたか?
マミ:気づいたら8年経ってたという感じですよね。途中妊娠・出産があったり、いろいろと大変な時期もありましたけど、マイケルと2人で答えの無い話をするのも、準備のために大量の論文を読むのも、やっぱりそれ自体が楽しかったからこそ続けてこれたのかなと思います。
それに番組をやっているから経験できたことがたくさんあって、例えばゲスト回に出て頂いている色々な分野の専門家の方々と、2時間も3時間もお話ができて、しかも好きなだけ質問に答えてもらえる。なかなか有り得ないことだし、すごく贅沢な状況だなって思うんですよ。
――最近で言えば「テロメア」について研究されている京都大学 医学研究科の林眞理さんや、NASAのジェット推進研究所に所属する高橋雄宇さんなど、超がつく専門家の方ばかりですね。
京都大学 医学研究科の林眞理さんが出演した回
マミ:始めた当初は専門家っていうより友達とかに出てもらっていたんですが、何人か研究者の方々に来ていただいてから聴いてくださる方が増えてきたんです。それからは、出演の依頼をした時に気軽に「いいですよ」って言ってもらえるようにもなって。
あと、研究者の方々が「こういう研究してるんですけど」って論文を直接送ってくださったり、「番組に出たいです」っていう風に言ってくださったりすることもあって、さすがに番組を始めた頃にはまったく想像もしていなかった状況です。
――バイリンガルニュースで扱うニュースは、専門性が高いものが多いですよね。研究者の方々も「ここでなら自分の研究を外の世界に向けて紹介できそうだ」と思ってマミさんたちに連絡をするという感じですか?
マミ:そうですね。研究者の方々がメディアに出るとなると、時間の制限もあってどれだけ喋っても大衆向けにわかりやすい部分だけをかいつまんで使われてしまったりするみたいです。バイリンガルニュースは編集をまったくしないので、3時間話したら3時間分、超ニッチな専門の話だけをしてもらえる。それは私たちにとってもすごくメリットだし、お話をしてくださる方々にも楽しんでもらえています。
――「わかりやすくあること」を重要視するがあまり、複雑な事柄も簡略化して説明され、それゆえに誤解が生じたり、話者が意図しないニュアンスで話が広がってしまうケースも非常に多く感じます。
マミ:日本だとテレビで放送されるような、すごく噛み砕いたものか、専門家が自分たちの領域で話すかのどっちかみたいな印象があって、その中間があってもいいんじゃないかなって思うんです。例えば、テロメアで言っても、そもそも複雑なので5分や10分で説明出来るようなものではないんですよ。だからその複雑な話をメディア側の意図で切ったり貼ったりせずに、研究している人たちの言葉をそのままみんなに届けるっていうのが結構大事なんじゃないかなと思っています。
――どうして簡略化が起きてしまうと思いますか?
マミ:やっぱり多くのメディアが「広告でビジネスを回している」ことが大きいんだと思います。そうすると、大衆に向けてどれだけ広く拡散してもらえるか、どれだけセンセーショナルなタイトルをつけるかを重視する必要がでてきますよね。
そういう意味で、Podcastっていうメディアがすごくいいのは、切り貼りがあまりされないから、焦ることなく、センセーショナルにする必要もなく、淡々と面白い話をすればいいというのがあると思います。
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