CAREER | 2025/11/12

OneTeamになるためのシステムデザインとは
「組織・スポーツ」

特集:慶應SDM神武研究室 「オープンラボ2025」 開催レポート
2025年7月11日・12日、スペース中目黒にて開催

文・構成:カトウワタル(FINDERS編集部) 写真:菅 健太(株式会社DALIFILMS )

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2025年7月11日(金)・12日(土)、東京・中目黒の 「スペース中目黒」 で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM) 神武直彦研究室による「オープンラボ2025:世の中、きっとシステムデザインでなんとかなる!」が開催された。学生や教員、修了生、企業や自治体の関係者、さらには小中高生までが集い、世代を超えにぎやかな雰囲気の中行われた。

SDM研究科は、技術・社会・人の関係を“システム”としてとらえ、複雑な課題をデザインとマネジメントの力で解決していくことを目指す大学院。システムズエンジニアリングやデザイン思考、プロジェクトマネジメントを基盤に、文理や世代を越えた多様な人々が集まり、現実社会に新しい価値を生み出す実践的な研究・教育を行っている。

本特集では、2日間で行われた8つのトークセッションを一つずつ取り上げ、現場で交わされたリアルな言葉や気づきを紹介していく。  

特集:慶應SDM神武研究室 「オープンラボ2025」 開催レポートhttps://finders.me/series/kqJTU8QICbtvF0wYpZU

組織、スポーツに共通する「現場を動かす視点」

トークセッションのテーマは 「組織・スポーツ」。商業店舗やスポーツチームに共通する現場を動かすための視点をそれぞれの立場から研究内容などを紹介、修士学生の小川尚人さん、ラグビー元日本代表キャプテンで博士学生の廣瀬俊朗さんがオンラインから登壇した。

小中高大と野球一筋だった修士2年の小川尚人さん

小川さんは冒頭、「このセッションでは “現場とチームをどう動かすか”、SDM的なアプローチで組織マネジメントとスポーツの共通点や可能性を読み解いていきます。」 と切り出し、自己紹介へと進めた。

今回オンラインでの参加となった廣瀬さんは 「ラグビーを通じてリーダーシップとチームづくりに向き合ってきました。2019年に株式会社HiRAKUを創業してからは “スポーツが社会に何ができるか” を探っています。経験をシステムデザインとして捉え直し、再現性や汎用性を持たせたい」 と語った。また最近はケニアを訪れたことにも触れ、「異なる世界に身を置くと、自分の当たり前が揺さぶられる。サファリで偶然、慶應でご一緒した先生に遭遇し、人のつながりの面白さも再確認しました」 と語り、スクリーンに映し出されたケニアの風景を背景に、現地の合言葉 「ポレポレ(ゆっくり)」 を紹介し、「相手の文化に合わせてプロジェクトの歩幅を調整する視点が大切」 と続けた。

一方の小川さんは小中高大と野球一筋。高校では129人の部員を束ねる主将を務め、慶應大では再び野球部へ。「部員200人の大所帯で関係をつくる鍵は “挨拶プラスワン” でした。『おはよう』に『最近どう?』を添える」。現在は野球部のコーチと研究室の学生代表として、同世代だけでなく様々な関係者との調整役も担う。「スポーツと組織の両側から“動かす作法”を学びたい」 と語り、セッションの本題へと移った。

関係性の“土壌”をつくる情報発信と距離感

セッション最初のお題は 「人をマネジメントする難しさ」

廣瀬さんは 「忙しさの中で、どうしても自分のペースに寄りがち。でも、相手が受け取る準備が整っていなければ届かない」 と率直に言う。「日々の関係性づくりが土台。うまくいかない時に『誰が悪い』ではなく『自分のせいでは』と矢印を自分に向けられるかが鍵。東芝でキャプテンをしていた頃、実は僕には “軸” がなかった。失敗から整えることを学んだ」 と続けた。さらにケニアでも感じた異文化の文脈に合わせる重要性も共有し、「日本のスピード感をそのまま持ち込むのではなく、相手の文化で歩幅を合わせる。現地と共創する前提がなければチームは動かない」 と語った。

さらに廣瀬さんは 「距離感」 の話題から、構造設計の具体策を示す。「ラグビーは多国籍で、ポジションも多様。一人のリーダーが全員を見るのは現実的ではない。キャプテンの周囲に複数のリーダーを配し、役割を分担する “リーダーシップ・グループ” をつくってきました」 という。若手とベテラン、日本人と海外出身者、明るい性格と熟考型、整理が得意な人 ― 意識的に多様な組み合わせにする。「誰にでも寄り添える構造」 をあらかじめデザインしておくというわけだ。背景には変革型リーダーシップの考え方があり、「一人ひとりへの配慮、思考への刺激、モチベーションの喚起、ロールモデルとしての姿勢。これをメンバーで分担し合う」 と語った。一方の小川さんは 「僕は話しかけるのが得意ではないので、“いじりやすい先輩” として話しやすい空気をつくることを意識しました。と笑いを交えたが、各者に共通して言えることは 「日常の土壌づくり」 だ。

また廣瀬さんは、ラグビーの “総体最適” に言及する。「個のジョブに加えて “15人でどう機能するか” の設計が要。例えばロックの日本代表最多キャップ(当時)の大野均さんは泥臭い走りで支え、同じポジションの別の選手がパスやキックの巧さで補い合う。個の足し算ではなく、組み合わせで最適化する」 という。また 「リーダーシップは学べるか?」 の問いには、「僕は元々、人前が苦手だった。子どものころ習っていたバイオリンも人前で弾くのが嫌でやめたくらい。でも “信じてもらう” “力を引き出してもらう” 経験が重なると、後天的に育つ。リーダーシップは鍛えられる」 と語った。

“見える化”でプロセスに根拠を

セッション終盤は “可視化” の話題へと移った。廣瀬さんは、他業界から学んだ事例として、テレビ番組の 「カンブリア宮殿」 で見たABCマートの “メンター制度” について紹介した。これは選手を二人一組にして、練習の良かった点・改善点・明日意識することを毎日話し、クラウドに記録・共有するもので、うまくいっている時は 「これができているから良い」 と根拠を再確認でき、苦しい時は 「プロセスは踏めている」 と自分たちを信じる土台になるといい、「気合いではなく “見える化” で意思決定をクリアにする」 と続けた。

その背景には言語の壁もあった。「日本代表は多国籍で、ミーティングは基本的に英語で進む。瞬時に反応できるのは英語話者。いきなり全体で発言を求めるのではなく、心理的安全性のある “二人” でアウトプットする機会を制度としてつくった」。SDMが重視する 「検証と妥当性 (Verification/Validation)」 の視点に沿いながら、まさにプロセスを可視化し、構造で支える組織づくりを実践した形だといえよう。

オンラインで参加したラグビー元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さん

小川さんも野球部での経験から 「日本一になった同期のキャプテンが『200人全員の長所を集めれば日本一になれる』と言っていました。誰にでも “自分にしかない良さ” がある。それを見抜き、つなぎ、組み合わせるのは設計の仕事。スポーツもビジネスも、やっていることは同じだと感じます」 と重ねた。

また会場からあがった 「ラグビーでの取り組みはSDMの影響か?」 という問いに対し廣瀬さんは、「当時はSDMを学んでいませんでしたが、ノートに順番や関係を書き出し、『何を解けば全体が回るか』を日常的に考えていました。今はSDMで言語化され、スッキリしていく感覚があります」 と応じた。

SDM初代研究科委員長狼嘉彰先生からもケニア渡航の目的が問われ、「スポーツを起点にした人材交流の循環づくりと、将来のアフリカ展開を見据えた “橋渡し” の探索です。清掃の品質など日本の強みを現地に展開する可能性も探っています」 と説明。多様な現場をつなぐ視点が、SDMの文脈と重なっていくことが感じられた。

セッションの終盤に小川さんは 「うまくいく時と不協和音の時、リーダーはどう振る舞うべきか」 という問いを投げかけた。廣瀬さんは 「まず人間関係を整える。その上で磨いた“目的”を共有し、目指す“結果”を明確にし、そこへ至る “プロセス” を一緒に頑張る。順番を間違えないこと」 と順番の重要性を説き、「挨拶プラスワン」 に再び触れ 「日常の一言が、最後に大きな差になる」 と結んだ。

本セッションを通じ、共通して見えてきたのは “関係性のデザイン” である。日常の土台づくり、距離感の設計、多様性の編成、プロセスの見える化。さらにスポーツでは “総体最適” のゲームであり、ビジネスは “役割の明確化” がポイントになってくる。今回、組織とスポーツにおける取り組みの共通点やそれぞれの実践例を明らかにしたことで、「OneTeamになるためのシステムデザイン」 のあり方が見えてきたように感じた。

最後に、未来のリーダーへのメッセージとして廣瀬さんは 「自分を知り、磨くこと。何が大切で、どんな未来を描き、誰と歩むかを明確にする。相手の未来に『それ、いいね』と共感できるかを問い続けてほしい」 と語りセッションを締めくくった。


特集:慶應SDM神武研究室 「オープンラボ2025」 開催レポートhttps://finders.me/series/kqJTU8QICbtvF0wYpZU

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 (SDM)
神武直彦研究室「オープンラボ2025:世の中、きっとシステムデザインでなんとかなる!」 
https://www.kohtake.sdm.keio.ac.jp/openlab2025/

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 (SDM) 神武直彦研究室
https://www.kohtake.sdm.keio.ac.jp/