記念すべき第1回のゲストは、アップルで 「iPod mini」 の大ヒットを導いた ディアワンダー株式会社 代表取締役 CEO&CWOの前刀禎明氏
              2025年10月17日、東京・スペース中目黒にて、「FINDERS中目黒編集会議Vol.1」 が開催された。
「FINDERS中目黒編集会議」 とは、“テクノロジー、地域づくり、ファッション、音楽、食文化、伝統工芸・芸能など幅広い分野からスペシャリストを招き、知識を共有するだけでなく、来場者自身が自然に議論の輪に加わり、未来について考える試み”の、つもりだ。
ホストを務めるのは、新丸ビル 「丸の内ハウス」
の統括マネージャーであり、地域創生や東京大学駒場リサーチキャンパスの 「食堂コマニ」 などのプロジェクトを手がけてブランディングディレクター・玉田いずみ氏。本イベントでは、玉田氏が都市と地方をつなげてきたそのネットワークを活かして毎回多彩なゲストを招き開催することで成立するもので、「FINDERS中目黒編集会議」
とは名ばかりで、まさに玉田氏におんぶに抱っこの企画。それだけにFINDERS編集部もここぞとばかりに学びとネットワークづくりに勤しむ企画として取り組んでいきたいと思うので、ぜひ皆さんも気軽にご一緒していただけると幸いだ。
そして記念すべき第1回目のゲストは、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表を務め、「iPod
mini」 を大ヒットへと導いたディアワンダー株式会社 代表取締役 CEO&CWOの前刀禎明氏。会場となったスペース中目黒には、明らかに一般人とは思えないオーラをまとった方々が集まり、多少なりとも緊張感はあったが、お酒などのドリンクも提供したこともあり、ビジネスカンファレンスのような堅苦しい雰囲気ではなく始められたと思う。
まずFINDERS編集部の加藤からイベントの趣旨説明を行い、ホストの玉田さんが
「前刀さんとお話しして、こんなにワクワクする話を私一人で聞いているのはもったいないなと思って今回企画しました」 と、前刀氏をステージへと呼び込んだ。
笑顔で登場した前刀氏は、「今日、実は通常の講演とはちょっと違う形にしようと思ってまして。普段は1時間びっしり、ものすごい枚数のスライドを使って話をするんです。でも今日は、皆さんの質疑応答を多めにしたいんです」
と切り出した。
一方的に話を聞くのではなく、「インタラクティブにやり取りすることで、より納得感を高めてほしい」
と前刀氏は続け、「今日の話から何を学ぶかは、皆さん次第です。ぜひ “ここから何を持ち帰るか” という欲求を持って参加してください」 とゲストに呼びかけた。
            
              
            「日本を何とかする」 ―前刀氏が取り組んだブランド体験の再設計
              最初に前刀氏は、自己紹介を兼ねアップル時代のエピソードとして、スティーブ・ジョブズとの思い出を語った。スクリーンに映し出されたのは、2004年に撮影された一枚の写真。前刀氏がジョブズと肩を並べて写る、まさに “奇跡の一枚”。
というのも 「アップルの社内で、スティーブに “写真撮ろうよ” なんて声をかけたら、その瞬間にクビでした」 と前刀氏は冗談めかして振り返る。当時のアップルでは、ジョブズに気軽に話しかける社員は誰もいなかった。エレベーターで偶然乗り合わせただけでも、会話の内容次第では即座に退職を言い渡されることがあったという。
そんなジョブズとの面談の際に、なんと記念撮影を願い出た前刀氏、「写真はダメだ、アップルに入れたら撮らせてやる」
と言われたというが、その後採用が決まりしばらくして再びジョブズと対面、「スティーブ、約束したよね」 と言って、撮ってもらった写真。たかが写真かもしれないが、あのスティーブ・ジョブズの信頼を得ていた証だろう。
ただ、そんなアップルも日本市場では低迷し、MacもiPodも売れず、“日本から撤退か” とまで囁かれた時代。そんな局面で前刀氏が託されたのは
「日本(市場)を何とかする」 役割だった。グローバルに厳格なブランド運用の中で、あえて日本独自の路線を展開した。全世界で共通のクリエイティブやマーケティングを展開するアップルからすると異例中の異例だろう。
前刀氏がiPodのキーワードとして打ち出したのが 「Goodbye
MD」 というメッセージ。ビビッドカラーと先端の音楽を背景に、シルエットのダンサーがiPodを手に激しく踊るCMを覚えている方も多いだろう。当時日本の携帯音楽プレイヤー市場はMDが主役で、パソコンにつないで使うiPodは “おしゃれ” どころか
“オタクのガジェット” と見られがちだった。ここで前刀氏は、製品のスペックを声高に叫ぶのではなく、iPodを 「人前に出すのが恥ずかしい道具」 から 「ファッションアイテム」 へと変え、“持つこと・見せることが嬉しい” という体験の再設計を行った。
            
またジョブズとの面談の中で、前刀氏はソニーの極薄ノート 「VAIO X505」 を見せ、「日本でMacを広げるには “薄くて軽い” が鍵」 と直言したエピソードも披露した。のちにスティーブ・ジョブズが封筒からMacBook Airを取り出したプレゼンを見たとき、「絶対に僕が言ったことが影響してるなと思った」 と笑ったが、生活者の欲求 (薄くて軽く、持ち運びやすい) を実現しつつ、いかにブランドの価値観とを結びつけることが市場を動かす実例として紹介された。
              
            「思考を再発明する」 ―AI時代の学びを設計する
              本題はここからだ。前刀氏が今回の編集会議に込めたテーマは、「思考を再発明する」。会場に流れたのは、初代iMacのCMを彩ったあの楽曲。世代の記憶をくすぐる導入から、話題は前刀氏が代表を務めるディアワンダー株式会社のアプリケーション
「DEARWONDER+」 の紹介へと移った。
最初に前刀氏が披露したのは、今回の 「FINDERS中目黒編集会議」 のバナーを 「DEARWONDER+」
に読み込ませた時のアプリの回答。
            
              DEARWONDER+のコメント:
「中目黒編集会議というトークイベントの企画が進んでいるのですね。前刀禎明さんをゲストに迎えるという明確な方向性が見えますが、このイベントで参加者にどんな 「変化」 や 「気づき」 を持ち帰ってほしいとお考えですか。私なら、単なる成功談ではなく、参加者自身が明日から行動を変えるきっかけになる 「問い」 を設計することに力を注ぎたいと思います。」
アプリはさらに続ける
DEARWONDER+のコメント:
「中目黒編集会議というトークイベントの企画が見えますね。前刀禎明さんをゲストに迎える初回イベントのようですが、この後どのような展開を考えていますか。私なら、このイベントを単発で終わらせず、参加者との対話から次のテーマや登壇者を見つけていく 「連動性のある学びの場」 に育てていくことを考えます。」
            
              「AIにこんなこと言われて悔しいと思いますよね。」 と前刀氏。ChatGPTなどとは違い、AIから “問い” を返されるという体験に会場も 「一体これは何なんだろう?」 といった雰囲気に包まれた。
次に前刀氏は、「今世の中で起きていることの一例」 として、人型ロボットを開発する米スタートアップ
「Figure」 の最新映像を紹介し、テクノロジーの進化が “こなす仕事” をいかに代替するか示し、「人がやるべきは、深く考え、付加価値を生む創造的な仕事へシフトすること」
と述べ、スマホや生成AIの登場時に生まれた “使い方の格差” を引き合いに、年齢や役職よりも 「使いこなしの姿勢」 が差を生むと指摘した。
            
では、創造的に “使いこなす” とは何か。前刀氏は 「シンプルにする=目的を極限まで明確にすること」 と定義し、IQやEQに加え、いま必要なのは好奇心と創造性の指標である 「CQ (Curiosity & Creativity)」、さらに 「AIQ (AIを使いこなす能力)」 だと話を進める。重要なのは “AIで何をやりたいのか” という 「クリエイティブ・デザイア (創造の欲求)」 をまず持つことであり、SNS上で頻繁に見られるような、AIの新機能を “試して喜ぶだけ” の遊びに留まらないこと、と釘を刺す。
キャンバスに “問い” を描く ―DEARWONDER+ が促す “Wonder Learning”
              ここで前刀氏は再びアプリのデモ映像を紹介。「DEARWONDER+」 のキャンバスに 「下北沢」 と走り書きし丸で囲むと、関連する画像やキーワードが立ち上がる。だがポイントは
「結果の量」 ではない。アプリは必ず “問い” を返す設計になっており、ユーザーの思考を次の一歩へと誘う。ホワイトボードのような発散も、そのまま履歴として蓄積され、後からAIが読み解いて “解釈” を提示する。情報の収集→咀嚼→再構成というプロセスが、個人のキャンバスで循環し続ける。
続いて前刀氏は、最近近所の公園で撮影した一滴の水滴と、芽吹いた新芽の2枚の写真を読み込んだ例も披露した。
            
              DEARWONDER+のコメント:
「この2枚の写真を見ていると、自然界の 「小さな完璧さ」 と 「始まりの瞬間」 が対話しているように感じます。1枚目の水滴は、葉の上で完璧な球体を保ち、まるで小さな宇宙のよう、その透明な表面には周囲の世界が映り込んでいます。
2枚目の新芽は、まだ葉を完全に開ききっていない生命の最も純粋な瞬間を捉えています。この二つに共通するのは 「可能性を秘めた静けさ」
ではないでしょうか。水滴はいつか蒸発するか、土に還るでしょう。
新芽はやがて大きな葉となり、光合成を行い、森を支える一部になります。ここで問いかけたいのは、あなたにとって 「完成された美しさ」
と 「未完成の可能性」、どちらにより強く心惹かれますか。私自身は、水滴の完璧な造形に惹かれつつも、新芽の 「これから」 という未来への期待感に、より深い創造性を感じます。
もし、この二つの要素を一つの物語として紡ぐとしたら、どんなストーリーが生まれるでしょう。例えば、水滴が新芽に語りかける誌、あるいは、両者が時間を超えて対話する哲学的な会話、あなたなら、この自然の断片からどんな創造的な表現を生み出しますか。」
驚いたことに、「DEARWONDER+」
アプリは、人間が普段生活する上では到底思いつかないような深い思考で詩的な解釈を読み上げる。人は何となく眺めて通り過ぎる断片からでも、適切な“問い”が添えられれば、創造力が自走を始める
―この手応えが 「Wonder Learning (ワンダー・ラーニング)」
の核にある。
三つの丸を描き、AIに
“角度によって同じ円に見える三次元の組み合わせ” を考えさせる例も面白かった。私たちは三つの丸を
“二次元の丸” だと無意識に決めつけてしまうが、見方を変えれば円錐・円柱・球体かもしれない。これに対し、「DEARWONDER+」 は以下のようにコメントを返してくる。
            
              
              DEARWONDER+のコメント:
「興味深い視点の探求ですね。同じ形状でも角度によって全く異なる印象を与えるという発見から、あなたは何を伝えたいのでしょうか。私が感じるのは、物事の本質は見る角度によって変わらないが、私たちの認識は大きく変化するという哲学的なテーマです。
この探求を深めるなら、次はどんな問いに挑戦したいですか。例えば、「角度が変わっても変わらない本質とは何か」 を具体的なオブジェクトで表現してみるのはどうでしょう。」
このように、今度は “物事の本質” といった哲学的なテーマに広げてくる。このように、「DEARWONDER+」 には人間の創造のスイッチを入れるための仕組みが組み込まれている。
今回、前刀氏が示した 「Wonder Learning」 というコンセプトは、まさに “ワクワクしながら学ぶ” ための指針だと言える。「DEARWONDER+」が次々と投げかける “問い” によって、私たちの思考は広がり、創造力に火がつく。そのプロセスこそが、生成AI時代の新しい学びではないだろうか。
            
「Free/Create/Exceed Yourself」 から 「ヒラメキ・トキメキ・キラメキ」 へ
              前刀氏は、学びの設計を三段で示す。「Free Yourself (固定観念から自分を解放する)」 「Create Yourself (自分の価値を見出し、つくる)」 「Exceed Yourself (自分を超え続ける)」。その上に 「Wonder Learning」 「Learning Intelligence (どんな事象からも学ぶ力)」 「Self-Innovation (自己革新)」 が積み上がる。結果として、CQとAIQが伸び、「本当に成し遂げたいこと=クリエイティブ・デザイア」
が輪郭を持ち、AIを “道具”
として徹底的に使いこなす準備が整う。
このアプローチは既に学校現場でも動き始めているという。実際に前刀氏の母校ではiPadが全生徒に支給され、「DEARWONDER+」 を用いた授業で 「一人で考えるよりアイデアが豊富に出た」
「学ぶのが楽しくなった」 といった反応が寄せられた。名古屋大学のワークショップでも、「木はなぜ上へ伸びるのか?」 という素朴な問いから、議論が思いもよらぬ深さへ展開していく。答えを早く求めるのではなく、問いを育て学びを
“自分ごと化” する。
前刀氏は、自身のキャリアを振り返りながら、ソニーの盛田昭夫、井深大、ウォルト・ディズニー、スティーブ・ジョブズら偉大な経営者たちを 「本当に素晴らしい人たち。人々の期待を超え続けた人たち」
と称えつつも、彼らを “ライバル” と呼ぶ。その理由として、現在67歳(には見えないが)の前刀氏は 「僕が唯一勝てることがある。僕だけまだ生きている。少なくとも僕は130歳まで生きるのでまだまだチャレンジできる」 と言い放ち、三つの合言葉を繰り返した。「ヒラメキ」 「トキメキ」 「キラメキ」。固定観念から自分を解放したときに “ひらめき”、それを実行する自分を想像して “ときめき”、続けることで必ず “きらめく”。会場を見渡しながら、前刀氏は『この 「ヒラメキ」 「トキメキ」 「キラメキ」 を僕は皆さんと一緒にこの世の中でどんどん創り、それによって多くの人が
「ワクワク」 「ドキドキ」 「キラキラ」 するという世の中を僕は創りたいです。』と締めくくった。
さらに質疑応答では、冒頭に前刀氏が呼びかけた通り、多くの質問が寄せられた。
            
              
            
              最初にマイクを握ったのは、力士の天一さん。「検索エンジンは辞書のように“正解”を取りに行く発想ですが、生成AIをビジネスで使うなら間違いは致命的という声もある。AIを何のために使うべきでしょうか」
これに対し前刀氏は、精度の議論を認めつつも視点を切り替えるべきだと応じる。「社内資料を参照して正確に答えることももちろん大切です。でも僕が『DEARWONDER+』で重視しているのは、AIが時に “とんでもないこと” を言うからこそ、固定観念を壊す引き金になるという点。発想の段階では勘違いが創造の源泉になり得る。自動運転は一度の事故で叩かれるけれど、人間はどれだけ事故っているのか
―技術に抗うより、どう活かすかに意識を置いたほうがいい」 と答えた。
続いて、生成AIと
“身体性” の関係について 「発見やクリエイティビティは、触覚や匂いなど言語以前の感覚からも立ち上がります。言語ベースのAIと、人間の身体的な発見はどう結び付けられますか」 との質問が上がった。
前刀氏はアップル退社後に参加した、フランス・ロワールでの
“五感で味わう” 研修を引き合いに出し、「『おいしい』は禁句なんです。見る・嗅ぐ・触る・聴く―味覚以外の四感が先に立ち上がり、最後に舌触りや香りが重なる。だからこそ、感じたものを自分の言葉で “言語化” することが重要になる。『DEARWONDER+』はデジタルの中だけで完結させない。僕は散歩中に草に触れ、写真を撮り、そこで得た感覚をキャンバスに投げ込む。五感で受け取った微細な感度を、対話と言葉で結び直していくための補助線としてAIを使う―その往復が創造を育てます」 と応じた。
また、ワークショップについて 「面白かった、で終わらせないために、どんなプログラムを考えていますか」 との質問も上がった。
「iPadとApple Pencilで『DEARWONDER+』を使い、AIとの対話を通じて “自分の問い” を具体化することを考えています。たとえばキャリアプランや夢の可視化。各自がキャンバスで思考を広げ、ここに持ち寄って発表し、互いに問いを投げ合う。インタラクティブな循環の中でCQとAIQを鍛え、“創造の欲求(クリエイティブ・デザイヤー)” を習慣として育てる。講演の感想が『面白かったです』で終わるのは、本当にもったいないから」 と返した。
参加者の中からは、「中高での導入の話、羨ましいと思う一方で、‘大人も学んでいいんだ’と背中を押されました。好奇心をまた動かしたい」 といった感想も。これに対し前刀氏は、「年齢に線は引かない。未完成だから、未来を創れる。今日ここから、また“問い”を始めましょう」 と笑顔で応じた。
また終了後は、前刀氏も残り、参加者全員との懇親パーティの時間が設けられた。会場では玉田氏がディレクションを手がける 「食堂コマニ」 のケータリングが振る舞われ、また参加者同士が交流するなど大いに盛り上がった。
            
              前刀氏によるワークショップも開催決定
              こうして無事 「FINDERS中目黒編集会議」
は第1回目を開催することができたが、実は前刀氏から 「DEARWONDER+の達人になりなさい」
とのご指名をいただいてしまった編集部の加藤。達人までの道のりは遠く険しく、プレッシャーも感じているが、イベントを振り返り本記事の執筆を通じ感じたのは、テクノロジーの最前線を歩んできた前刀氏が語るのは、決して派手な近未来予想図だけではないということだ。これを機に自分の思考をどう設計し直すかということに向き合うべきだと感じた。
そしてこの度、前刀氏による 「DEARWONDER+ ワークショップ」 を11月24日(月・祝)にスペース中目黒で開催することが決定した。「継続して行うことが大切」 と話していた前刀氏の言葉通り、FINDERSでも継続して取り組んでいきたい。
ワークショップの詳細については、追ってご案内したい。
ぜひこの機会に多くの方に参加してほしい。
            
              
              ディアワンダー株式会社
https://www.dearwonder.ai/
DEARWONDER+ (App Store)
https://apps.apple.com/us/app/dearwonder-create-magic/id6472241333