CULTURE | 2022/06/17

世界中のIT企業はなぜゲームに注目するのか。国内で見逃されているマイクロソフト「Xbox20年計画」の衝撃【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(15)

Bethesda、Riot Gamesより

Jini
ゲームジャーナリスト
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Bethesda、Riot Gamesより

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ
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Microsoftのゲーム戦略がすごすぎる。2022年6月13日の「Xbox & Bethesda Games Showcase 2022」にて公開された洪水の如き情報の数々には、ゲームファンから業界人まで動揺を隠せない程だった。もはや「Xboxは地味」と考えるゲーマーはいない。それどころか、最初Xboxが発表されたときの「黒船」という形容が、今になって再現したとすら言えるだろう。

既に筆者Jiniは『FINDERS』の本連載にて何度もMicrosoftの意欲的な取り組みについて取り上げてきた。例えば、2022年1月には加入者が2500万人を超えたと報道されたゲーム版サブスクリプション「Xbox Game Pass」の紹介や、Activision Blizzardの約8兆円という前代未聞のM&Aについて、弁護士の意見を仰ぐインタビューなどだ。

断っておくと、自分個人としてMicorosftを含む特定の企業へ傾倒しているわけでない。実際、この連載では任天堂やソニーの取り組みも紹介しており、意図的に公平を期している。その上で筆者が重視している観点は、一部のメディアやゲームコミュニティで慣習的に解釈されてきた各ゲーム企業による「Console Wars」(いわゆる「ゲハ」的な)の視野狭窄に囚われず、各社が競争を踏まえながらもどのように市場を変革し、ユーザーを喜ばせようとするかという「イノベーション」にある。

この点において、今回Microsoftが打ち出した「20年計画」は、まさに古いゲーム市場の慣習を捨て、全く新しい目線で作り上げていく独自の構想を垣間見るものだった。それはゲーマーのみならず、IT業界の多くの人間からも「もっとゲーム業界に注目するべきだった」と、後になって後悔されかねないほどの大計画なのだ。

2021年の攻勢を忘れさせるような「本隊」の再展開

「Xbox & Bethesda Games Showcase 2022」(以下、Showcase)は、Xboxでプレイできるビデオゲームと、それを遊べるハードやサービスの宣伝を目的としたプロモーション番組だ。次から次へと新作のゲームの映像が流れ、紹介されていく。

こうした生放送はMicrosoftのみならず、任天堂の「Nintendo Direct」やソニーの「PlayStation Showcase」など、主にゲーム業界のプラットフォーマーにとってはありふれた手法だ。この生放送で重要なのは、当然ながら各プラットフォーマーが展開するメインタイトルである。任天堂であれば『マリオ』『ゼルダ』のような象徴的なタイトルはもちろん注目される。

この点において、実はXboxは少し不利だ。というのも昨年2021年にMicrosoftを象徴するタイトル、例えば『Forza Horizon 5』、『Psychonauts 2』、そして『Halo: Infinite』などをリリースしたからだ。現代では大作タイトルの開発に長ければ4年以上かかると考えられる。つまり一度展開してしまうと、その後数年は「弾切れ」になる恐れがある。

ところが今年のShowcaseで驚いたのは、昨年の大攻勢がありながらも今年、来年に向けてしっかり再展開している点だ。まずXboxを代表するレースゲーム、『Forza』シリーズ最新作として『Forza Motorsport』が紹介された。Xboxならではの美麗なCGと、細部までこだわった車のシミュレーションが魅力の本作は、ゲーマーのみならず(スポーツ車の)エンスーにも人気が高い。

次に『Minecraft』を原案にしたストラテジーゲーム『Minecraft Legends』も発表。今や世界中の子どもたちにとって最も人気のある作品であり、現在もアップデートも続けられる『Minecraft』の外伝とあって、低い年齢層も狙えるタイトルだ。一方で特に海外では老舗RPGメーカーとして評価の高いObsidianからは『Pentiment』と『Grounded』という2タイトルが公開され、こちらは中年以上のゲーマーにも注目されるだろう。

またMicrosoftといえば長い間力を入れてきたインディーゲームも重要だ。『悪魔城ドラキュラ』のように上下左右に広く冒険ができる人気作『Hollow Knight』の続編『Hollow Knight Silksong』、10年近い開発をかけたホラーFPS『SCORN』、マルチプレイ可能なインタラクティブドラマ『AS DUSK FALLS』など、インディーならではの独創的な作品が次々に発表された。

日本のスタジオも発表に連なった。アトラスの人気RPG『ペルソナ3 ポータブル』、『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』、『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』のXboxサービスへの対応、そして小島秀夫率いるコジマプロダクションの提携も発表されたのだ。

繰り返すように、コンソールゲームのプラットフォーマーにとっての悩みは、ハードを普及するために大量の新規タイトルを同時に出してしまうと、その後の数年のラインナップが瘦せてしまい、市場での存在感を失ってしまうことだ。ところがMicrosoftは2021年に多くの大作を送り出しながら、今年、来年の展望も繋いでいる。見事なマネジメントであると同時に、Microsoftの底知れない開発力にも驚く。 

巨大ゲームパブリッシャーたちの新作発表に圧倒

Bethsdaより

加えて、そんなXbox作品のラインナップの中に、当然のようにBethesdaやBlizzardなどアメリカ最大手のスタジオが手掛ける大作が並んでいる。例えば、史上最大のRPGとなるであろうBethesdaの『Starfield』、Blizzardの人気IPの続編『Overwatch 2』『Diablo 4』、また直前には長年人気を誇る『Call of Duty』シリーズの最新作『Modern Warfare 2』も発表された。

無論、この背景にはMicrosoftが世間を賑わせ続けた買収劇がある。同社は2020年に当時約7800億円でZeniMax Media(Bethesdaを含む)を買収し、そして2021年にはActivision-Blizzard(King)の当時約8兆円での買収を発表した。Microsoftが膨大な費用を投じて買収したスタジオの新作が、さっそくXboxに加わったわけだ。

そのため、買収劇を知っていた多くのゲーマーにとって、これらはそこまでサプライズではない。とはいえ驚きがないだけに、むしろジワジワと「何故そこにBethesdaやBlizzardの作品があるのか」という混乱が頭を支配する。

元々、ゲーム業界においてプラットフォーマーのM&Aは珍しいことでない。2021年には任天堂はカナダのNext Level Gamesを買収し、ソニーは2022年にBungie、Haven studiosを買収した。ゲーム市場が年々巨大化し、更にインフラの拡充によってプラットフォーマーが力を発揮する時代において、彼らによる買収はごく自然なものと言える。

しかしMicrosoftのM&A劇はそれらと全く桁が違う。前代未聞の買収額もそうだが、Bethesda、そしてActivision-Blizzardともに、ゲームを作る企業(=ディベロッパー)であると同時に、ゲームを売る企業(=パブリッシャー)でもあったからだ。

そのパブリッシャーの中でも両社はトップレベルの規模を誇り、BethesdaであればTango Gameworks(『Ghostwire Tokyo』など)ら6つのスタジオを傘下に擁し、Activision-Blizzardにいたっては、元々世界有数のパブリッシャーであるActivision、Blizzard、そしてKingが合併した企業である。ちょうど平成で合併を繰り返した三井住友とか三菱UFJのようなメガバンクを想像してもらえればいい。それを買収してみせたのだ。

そもそも、つい最近までBethesdaは「Bethesda E3 Showcase」、Activision-Blizzardに至ってはBlizzard単独で「BlizzCon」というショーケースを何年も看板番組として持っており、第一線のゲーム企業として世界中のゲーマーに認知されていた。そんな彼らが特定の企業のショーケースに加わるなど、想像すらできなかったほどだ。

ところが、今回のShowcaseで本当に驚いたのはここではない。今でも信じがたいような、とんでもない発表がされたのである。

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