CULTURE | 2022/06/17

世界中のIT企業はなぜゲームに注目するのか。国内で見逃されているマイクロソフト「Xbox20年計画」の衝撃【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(15)

Bethesda、Riot Gamesより

Jini
ゲームジャーナリスト
note「ゲームゼミ」を中心に、カ...

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中国でPC・スマホゲーム市場を席巻するTencentへの挑戦

Photo by Shutterstock

筆者の肝を真に驚かせたのは、何よりこの一点である。

Riot Gamesの、Xbox参加。

衝撃だった。あまりに衝撃で、何度か目を擦って確認したほどだ。なぜ衝撃なのか。その理由は3つある。

まず、Riot Gamesが世界有数の大企業であることが1つの理由だ。特にRiot Gamesが2009年にサービスを開始した『League of Legends』は、今では世界最大のesportsタイトルとして知られ、月間のアクティブユーザーは約1億5000万人。同タイトルの世界大会「World Championship」の2021年大会では約7400万人が「同時に」視聴した。疑いようもなく、世界で一番遊ばれているゲームだ。

もう1つは、Riot Gamesは基本的にPC、スマートフォン向けが中心の企業であることだ。特に『League of Legends』、『VALORANT』といった主力タイトルは、いずれもPC専用ゲーム。元々PCはゲーム市場のうち基本的に2割以上を占めるものの、かつてのXboxを含むコンソールゲームを開発・販売する企業にとっては全くの「異国」だからだ。

そして最後にして最大の衝撃的理由。それはRiot Gamesの親会社が、あの中国のTencentであることだ。Tencentはチャットアプリ「WeChat」などで世界的なシェアを誇る世界有数のITコングロマリットで、Baidu、Alibaba、HUAWEIと並んで「BATH」と呼称されるほどの企業だ。

Tencentは初期からゲーム産業やesportsに可能性を見出しており、同社は2011年にRiot Gamesの株式の93%を取得(後に100%取得)。他にも大人気ゲーム『Fortnite』などで知られるEpic Gamesの株式も40%所有している。結果、Tencentは任天堂やソニーに比肩する世界最大級のゲーム企業とも考えられている。そんなTencentにとって、Riot Gamesは同社のゲーム事業を初期から支え、ここまでの規模に成長させた虎の子である。そんな可愛い子を、よもやMicrosoftの番組に出すなんてことが、どうして想像できるだろうか。

確かに、TencentとMicrosoftの関係性が変化する予兆はあった。例えば、2021年にMicrosoftが買収を踏み切ったActivision-Blizzardの株主の中にはTencent(5%)も含まれており、両社の間に何らかの合意があったのではないかと、企業のM&Aを専門とする松本祐輝弁護士も予測していたこと。また、同じくTencentが株式を40%所有するEpic Gamesの主力タイトル『Fortnite』が、2022年5月11日からXbox Cloud Gamingで遊べるようになったことも、この伏線だったと言えるだろう。

PCからスマホまで横断的に支配するゲーム業界の影の支配者、Tencent。その中国巨大ITコングロマリットの財産に対し、Microsoftが接近することの意味は、もはやゲーム業界のニュースにとどまるものではない。2020年のEpic Games対Appleの訴訟や、AmazonやGoogleらの相次ぐゲーム業界参入から少しずつ始まっていた、IT業界のゲーム企業化が、いよいよ本格的な競争として表面化したのである。

本稿の前置きとして、ゲーム業界を「Console Wars」的に解釈するメディアやコミュニティの視野狭窄を批判したが、そのナンセンスぶりはこの2020年代以降で一層強調される形となる。そもそも、ゲーム業界をコンソール市場、スマートフォン市場と分けることさえも、今やあまり意味を持たなくなっているからだ。

Microsoftが明かす「20か年計画」

正直に言えば、ここ数年のMicrosoftの動きはゲーム業界において、そしてIT業界においても完全に理解不能なものだった。ゲームのサブスクの中で最大の成功を収めたXbox Game Passや、Activision-Blizzardの8兆円買収もさることながら、今回はゲーム業界最大の支配企業であるTencentとの接近だ。これは従来的なゲーム業界の「ハードウェアを売り、ソフトを販売してマージンを得る」といったビジネスモデルでは全く釣り合わない大胆な挑戦ばかりだ。

Microsoftの挑戦はコンテンツの拡張ばかりではない。同時期、Microsoftは自社のブラウザ「Microsoft Edge」において直接Xbox Game Passのゲームにアクセスできる機能などの拡張、ユーザーの好みによりコントローラーをオーダーメイドできる「Xbox Design Lab」、クラウドでゲームクリエイターを様々なツールの提携によってサポートする「Azure Game Dev Virtual Machine」、クラウド上で開発中のゲームデモを配信してプレイヤーのフィードバックを得る「Project Moorcroft」などを発表した。

やはり、いずれも斬新な取り組みだ。それも、Microsoftの持つ経済力、インフラ、ノウハウがなければできない点で斬新なのであり、既にMicrosoft社内のゲーム事業部の取り組みというより、その中で蓄積された人材やノウハウを引用しながらMicrosoftそのものの取り組みになっている。これはMicrosoft GamingのCEOであり、Xboxブランドを引き上げたフィル・スペンサーの影響が大きいのだと予測できる。

この姿勢について、Microsoftは「次の 20 年を見据えたゲーミング プラットフォーム」と掲げる。特定のハードウェア、特定のユーザー、特定のコンテンツに依存せず、誰もが、どこからでも、好きなようにゲームを楽しめる世界の実現。彼らに言わせれば、「これらは全て、ゲームによって生み出されるコミュニティのつながりと喜びを、30 億人にものぼると言われる地球上のあらゆるゲーマーに届けるという、Xbox が目指すミッション」なのだという。

5年前なら、正直、大言壮語にも受け取られかねなかった目標だろう。だが現在は違う。明らかに彼らは「30億人の市場」を見据えるだけのリソースを投入しており、その気迫は今回のShowcaseで見せつけられた。世界中の若者たちが最も親しむ娯楽であるビデオゲームは、Web3の到来によって今後ますます普及する。地球の文化、芸術、市場、コミュニケーションの中心には(既にそうだが)今後ますますゲームが浸透するはずだ。

世界のあらゆる時間と場所に「遊び」が侵食するのは、もはや時間の問題だろう。Microsoft、そしてゲーム企業らはその未来を見据えていながら、驚くほど丁寧に「ビデオゲーム」の存在意義を確たるものとし、次なる20年に備えている。


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