最先端のAI技術とメディア知見を組み合わせた編集アシスタントサービス 「StoryHub」 を展開しているStoryHub株式会社。これまで人間が行ってきたコンテンツ (記事) 制作におけるプロセスの一部をAIに任せるサービスだが、そこにはこれまでのメディアの常識を覆す大きな可能性を秘めている。
そこで今回、メディア業界でもっとも注目を集めている同社の代表取締役の田島将太に、あらゆる技術システムや社会システムを対象に全体統合的問題解決を図る 「システムデザイン・マネジメント」 の 教育研究に取り組む慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 神武直彦教授と、AI時代における新たなコンテンツ制作の可能性や、目指す未来像について話を聞いた。(取材日:2025年3月23日)
神武:「StoryHub」 を設立したきっかけは?
田島:Webメディアのコンサルティングを通じて、流通部分に対する最適化だけだと解決できない課題があると感じたことがStoryHub設立のきっかけになりました。以前働いていたスマートニュースはコンテンツを流通させるところにフォーカスしていていましたが、今はコンテンツを作るフェーズにイノベーションの可能性を感じています。
田島は、2019年までスマートニュース株式会社に在籍。メディア事業開発部門に所属し、コンテンツ提供元との交渉やデータ分析を通じた社内の意思決定支援などを担当していた。
退職後は、文春オンライン等の大手Webメディアのコンサルタントとして、トラフィック増加や既存コンテンツの魅力向上に取り組んだ。しかし、数年経つとその手法にも限界を感じるようになったという。
田島:多数が関心を持つものではないけれど、個人にとって大事なニュースはたくさんありますよね。例えば、自宅の近くに新しくオープンしたお店の情報のようなローカルニュースは、多数の人に読まれるものではありませんが、その街に住む人にとっては関心の高いニュースです。しかし、このような少数の人に必要とされるニュースはコンテンツを作るためのコストと、得られるリターンが見合わず、作り続けるのが難しいんです。しかし、生成AIが登場したおかげで、 今までROIが合わなかったコンテンツを作れるようになると思いました。

「StoryHub」という社名に込めた思い
神武:最近、「StoryHub」 という名前に社名変更されましたよね?どういった意図があったのですか?
田島:「StoryHub」 には、価値あるストーリーを共創するハブになるという思いをこめています。現在のお客さんは大手のメディアが多いのですが、メディア企業に限らず、何かしら発信する価値がある “一次情報” を持っている人にどんどん使ってもらい、価値あるストーリーが溢れる世界を実現できたらと思っています。
さらに田島は、今後のコンテンツ制作において重要になるのは、「一次情報にアクセスできる人」 だと続ける。
田島:記事作りには様々な工程があります。インタビュー録音の文字起こしやリサーチ、資料をまとめ、タイトルつけや、SNS用の投稿文を考えたりする等、一つの原稿を完成させて発表するまでに必要なことは読み手の皆さんが想像するより山ほどあります。その工程の一部を、AIに任せても、80点から90点は取れる感覚はあります。
ライターという言葉が示す通り、記者は書くことに対して一番リソースを使っていると思いますが、むしろそこは原点に回帰して、レポーターとして現地取材が一番大事だと思うんです。
神武:記者が取材に出るとなると、それ相応に労力や時間がかかるのでは・・・
田島:取材をせずに書かれた記事は「こたつ記事」と呼ばれますが、その領域はAIが進化するにつれ競争が激しくなり、わりに合わなくなっていきます。取材コストを削りこたつ記事を書くよりも、1回取材をしてその情報から5本の記事を作る方が、結果的にコスパが良くなる未来になるかもしれません。

専門ライターのノウハウをシステムに組み込む
神武:ライバルはいますか?
田島:現時点ですとChatGPTやGoogleのGemini等の進化が目覚ましく、簡単な記事作りならそれで十分行える一面もあるので、今のところはこの状況がライバルですね。
神武:なるほど。そこで聞きたかったんですけど、違いっていうのはどういうところがあるんですか?
田島:コンテンツを作るというワークフロー全体を最適化しているのがStoryHubのポイントです。文字起こしから記事制作まで、記事作りのすべての工程をStoryHubひとつで一気通貫に行えるのが大きい違いだと思います。
さらにStoryHubの最大の特徴は、「レシピ」 と呼ばれる記事作成のテンプレートを用意している点が挙げられる。このレシピには、専門ライターでなければ書けないようなノウハウが組み込まれているという。
田島:読まれる記事や面白い記事を作るノウハウはプロの編集者が暗黙知で抱えているものが多く、Web上に言語化されていないものも多いです。
田島は、こうした専門知識や経験に基づくノウハウを形式知化し、システムに組み込むことで、高品質なコンテンツ制作を可能にしたいと考えている。
「インタビューアプリ」 や動画からコンテンツを生成する構想も
神武:今後やりたいことや、追加される予定のサービスなど、将来的な展望はどのようにお考えになっているのですか?
田島:人間とAIがどういうコラボレーションをするかが大事だと考えています。今年一番やりたいのが 「インタビューアプリ」 です。
インタビューが始まった時にスタートボタン押すと、AIが裏側で取材対象の公開情報をリサーチした上で、今までの話の流れを理解して、取材相手に投げかけると良い質問を提案してくれます。そして、インタビューが終わる頃には、原稿も出来上がっている。人間がインタビュイーとのコミュニケーションに全集中できるようなプロダクトです。
田島はこのアプリを通じて、インタビュアーのスキル向上や、インタビューが苦手な人や、メディア以外の企業でも質の高い取材が行え、より良い記事が作れるようになることを目指している。さらに、将来的には動画からコンテンツを生成する構想も視野に入れている。
田島:既存のStoryHubで、動画の簡単な編集も行えるようアップデートしていきたいです。やはり動画で情報を集めるのは情報密度が高いので、今後は取材の時には全部動画を回すのが一般的になるでしょう。取材した動画をアップロードしたら、テキストとショート動画の両方の編集ができる世界をつくっていきたいです。
さらに田島は今後のコンテンツ制作における一次情報へのアクセス権の重要性について再び触れた。
田島:今後はやはり一次情報への物理的アクセス権がますます重要になると思います。記者が取材する時に、「私 だったら楽天の三木谷さんに電話1本でアポ取れるよ」 なんて言えたら、凄まじい価値があると思うんですよね。
良質なコンテンツを作ることは生成AIがサポートできるようになるため、今後は 「良い記事を書く」 だけでなく、「一次情報を取って来れる」 ことが良い記者の条件になるのではないかと田島は予想し、これには神武教授も納得の様子だった。
ポジティブなコンテンツが求められる時代へ
対談の最後には、インターネット上において、ネガティブな記事が溢れている状況や、今後メディアの課題や向かうべき方向性などについて議論が交わされた。
神武:ネガティブなニュースが多い中で、問題解決につながる前向きな情報を提供することは大切ですよね。StoryHubを活用して、読者に希望を与えることができるコンテンツがもっともっと増えていくことを期待しています。
田島:良質なコンテンツが溢れるほど、日々の選択肢を多く得ることができると思います。日々の選択肢の積み重ねが人生を動かしていくと思うので、StoryHubを通じてそのようなコンテンツ作りを支援していきたいと思います。
StoryHubの掲げる 「価値あるストーリーを共創するハブ」 は、AIの力を借りることで、かつての “足で稼ぐ” ような “一次情報の取得” という本来の記事制作の姿に立ち返ることを促しているのかもしれない。コンテンツの制作を強力にアシストすることで、人間の創造性を最大限引き出し、より良いコンテンツを生み出し、より良い社会づくりへの貢献を目指すStoryHubの今後の展開に期待したい。

StoryHub株式会社
https://storyhub.jp