仕組みや構造を描ける人が、評価される社会に
取材時に商店街を歩くと、クローズした店舗もちらほら見られるものの、よくある地方のシャッター商店街とは様子が違う。むしろ子どもからお年寄りまであらゆる世代が絶えず行き交い、活況が感じられた。
商店街の発展なくしては自店の繁栄もない。運命共同体として、商店街の人からの加戸氏への期待も感じられた。加戸氏のインタビューに話を戻そう。
―― これまで地道に「コンセンサス」「コミュニケーション」「コーディネート」の3つの軸でまちづくりの取り組みを続けてきましたが、あらためて「イノベーションネットアワード2021」での受賞は、どの点が評価されたと自負していますか?
加戸:取り組みを始めてから10年経ち、街や人の意識が大きく変わったかといえば、そういうわけではありませんが、全国でまだできていない、社会変革を起こす仕組みだと評価いただけたと思います。
それから、自分たちの責任でちゃんとリスクをとり、街のニーズを見極めた上で、地に足をつけて効果検証できたこと。一環として、将来的に仮想通貨を導入することも見据えていました。
この仕組みを横に展開すれば、他地域の自治体で応用もできるのではないかという点も、大きかったと思います。
アーキテクチャー(構造)を変えて、これまで地域で解決できなかった問題を解決させるためのビジョンを描いてきました。課題解決には人の手では到底追いつかないので、その手段としてデジタル技術を活用し、「まちペイ」を作りましたが、電子決済はあくまでひとつの手段です。
おかげさまで現在、行政との連携も進み、今では松山市役所でも証明書の発行等の支払いに「まちペイ」が使用できるようになりました。
―― 最後に、今後のビジョンを教えてください。
加戸:地元では、鉄道、金融、マスコミの3つの業界の影響力が非常に強く、今後は、ここも巻き込んで行くことが目標で、これからの課題でもあります。
それから、デジタルが30年遅れているのは、IT業界でアーキテクチャーを描ける人が正当に評価されていないからだと思うんです。たとえば、大きな組織で既得権益がある人は、若い人の中からアーキテクチャーを描ける人が出てきたら、排除しようとしますよね。
今後の「イノベーションネットアワード」には、そうした仕組みづくりやアーキテクチャーを描ける人を正当に評価することを期待しています。
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長きにわたり、連綿と受け継がれてきた仕組みや構造を変えることが、ひと筋縄ではいかないことは、想像に難くない。
開拓者である加戸氏が、これまで地道な努力を続けながら、道を拓いてきたことがひしひしと伝わってきた。
少子高齢化による人口減少問題をはじめ、中心部がシャッター商店街化し、街が衰退、もしくは消滅の危機にあることは、多くの自治体が現実的に抱えている。
そうしたなかで、松山市がこれまでにないDX社会におけるまちづくりのモデルケースとして応用される日はそう遠くはなさそうだ。
次回の「イノベーションネットアワード」からも、まちづくり松山のような、地方自治体の希望の星となる取り組みが輩出されることを期待したい。