ブースの壁面に記載する図・写真など
第4回目となる今回は「壁面グラフィック」の話。
壁面グラフィックは空間内において、主に「壁面」にデザインされる様々な解説や図形・写真などのデザイン全般のことを指している。展示会ブースでは、説明用としてA1パネルを壁に貼り付けたり、説明や図、写真などを書き込んだ出力紙を壁面に貼り付けることが一般的だ。
この「壁面グラフィック」。当然だが展示ブースのサイズが大きくなればなるほど情報を書き込む壁面は増える。どの壁面に何を書きこむべきか、悩む出展者・デザイナーの方は多いのではないだろうか。今回はこの「壁面グラフィック」をテーマにして、一般的にはやらないデザインの手法をお伝えしてみよう。
「ブース内に同じ内容の壁面グラフィックが複数連なっていると商談効率は大幅に上がる」。
同じ図、同じ説明が書かれた壁面が、ブース内に複数広がっている、という光景はほとんどの方が見たことがないのではないだろうか。しかも、そのような状況になると、商談効率が上がる、とは。おそらく、このことを聞くと、展示会業界の経験値がある人ほど、「そんなことあり得ないでしょう」とおっしゃられるに違いない。これまた、デザイナーが提案すると上司やクライアントに即否定されるデザイン案となるはずだ。


1つの壁面に1つのテーマを書き込むのが一般的
通常の場合、ブース内に壁面が複数個所あれば、どの壁面に何を書き込むべきか悩むところだ。書き込む内容の関連性を考え、さらに説明をする順序を考え、それぞれの壁面に何を書き込むべきか、関係者で真剣に話し合いをすることだろう。例えば、ブース内にA~Dという4つの壁面があれば、AにはAの内容を、BにはBの内容をという風にそれぞれの壁に別々の情報を記載する。これが一般的なブース検討の姿だ。
しかし、今回は敢えて別のことをする。
4つ壁面があれば、1つの壁面に「A・B・C・D」すべてを書き込み、同じ内容・デザインの壁面を4か所設けるようにする。なぜ、このようなデザイン方針を取るのかというと、「このほうが、商談効率が上がるから」なのだ。



従来の壁面構成法の課題点
4つの壁面があれば、それぞれに別々のことを書き込む。一見何の違和感もないこの手法は、もちろん間違っているわけではない。例えば、壁面の前に商品が置かれている場合などは、どうしても分けて説明をせざるを得ないだろう。
しかし、実際に展示会に出展し、このような状況の中で接客の経験を持ったことのある方は、一様にある課題点を口にしている。それは、「Aの壁面の前で商談を行っていて、話が盛り上がり、タイミングをみてDの壁面を説明しようとしたら、来場者がそのまま去ってしまった」という状況になることがある、と。
このことはブースのサイズが大きければ大きいほどありがちな状況で、「本当はあのことも伝えたかったのに、伝えることができなかった」という経験をした方も多いに違いない。ブースが大きくなれば壁面の数も多くなり、それぞれの距離も離れることになる。しかもブース内に滞在する来場者の数も多くなる。長い動線と人混みによって思うように接客できなかった、とはありがちな状況と言える。
敢えて、1つの壁面に 「まとめて記載する」
では、どのようにすれば効率的に全てのことを説明できるようになるのだろうか。
そこで、発想を根本的に変えて、A~Dの4つの壁面にそれぞれ「A・B・C・D」4つのことをまとめて書いてしまったらどうだろう、と考えてみる。
つまり、A~Dの項目をまとめて書いている壁面が4か所ある、という考え方である。この場合、「4つの場所で4つの内容を説明する」のではなく、「4つの商談場所がある」という考え方に変わる。そうすると、出展社は空いている壁面の前でどこでも商談ができることになる。これは、展示台の前に商品が置かれていない、無形商材を扱う出展社の場合などに有効な手法だ。
このように書くと必然的に次のような疑問が出てくる。「1つの壁面に4つのことを全て書き込むと、スペースがなくなり、多くのことが書けなくなるではないか」、と。
このことについては解決できる考え方がある。そのためにも、会場の様子をよくよく観察してほしい。
来場者はどこまで壁面を 「読んでいる」 のか
展示会の経験が多い人ほど気が付いているだろうが、パネルや壁面グラフィックを掲示しても、ほとんどの来場者はしっかりと読んでいない。たとえ、長めに読んでくれていたとしても、すぐに出展社が声を掛けるので、実質「長くは読めない」。これが実際の展示会場の姿となる。
展示会場内を歩く来場者は限られた時間内でより多くの企業ブースを回ろうとする。
そして、気になったところはもちろん近づいて詳細を知ろうとするが、興味がないところはもちろん素通りをする。
来場者にとって、気になったブースの出展者の方にはもちろん話しかけたいし、話しかけてもらいたい。しかし、それ以外のブースの出展者にはできれば「つかまりたくない」。これが展示会における一般的な来場者の心理だ。
一方で、出展社にとっては、一人でも多くの来場者に立ち寄ってもらいたい。だから、ブースの前で待ち構えることになる。壁面が気になって読み始めた来場者がいれば絶好の機会である。速攻で声を掛けることだろう。
このような状況下では、来場者は壁面グラフィック(パネル)を長く読むことはほとんどない、と言ってよいのではないだろうか。おそらく、壁面に掲示してある写真や図、そしてキーワードなどを流して見るだけに留めるはずだ。
しかし、一方で出展者は壁面のデザインを考える時、そのスペースにできる限りのことを詰め込もうとする。「書きたいことがまだまだあるのに、全然スペースが足らない」、とはよくある出展者の悩みだ。
ただ、残念なことに来場者は期待しているほど読んでくれるわけではないのである。
パネルや壁面にいろいろと書き込むのは、出展社側の自分目線の産物だ。一生懸命に書き込んでも、読んでくれるとは限らず、多くの場合は伝わらない。
では、どのようにすれば「伝えること」ができるのだろうか。
「伝える」 を目的にして壁面を構成する
そこで、そんな時はこのように考えることをお勧めしたい。
大事なことは「壁面に書き込む」ことではなく、「伝える」ことである。この「伝える」ことを目的にすると、何も壁面だけで考える必要はない、ということに気づく。壁面への記載と同時に、手元の資料、配布物など、これらの組み合わせ全体で「伝えれば」いい。
このことに気が付くと、実は壁面には「会話のきっかけ」だけさえ書いていればよく、詳細な説明は、壁面の下に日頃使用しいているパワーポイントなどの営業用資料で説明すればよい、ということに気づく。



重要な図などは「パネル化」しておくと商談で使いやすい。

さて。ここで元々の話、壁面グラフィックの話に戻ってみよう。
そろそろお気づきだろうか。この壁面グラフィック構成法が、先に出た疑問「限られたスペースに4つの項目など入れることができない」という疑問の解決方法となる。
本来1つのテーマのみを記載しようとした壁面に無理やり4つのテーマを入れるようとする。展示会のこれまでの常識的な考え方からすると、「そりゃ、無理でしょ」となるだろう。しかし、この「伝える」ことを目的にした設え方の場合、それは可能となる。
デザイナーが嬉しいデザイン手法
ちなみに、この手法はブースのデザインを考えるものにとっても、かなりありがたい考え方だ。大抵の場合、ブースの壁面グラフィックは難航する。ブースをデザインする会社がデザインを担当すると、出展社の出展物に対してかなり深く理解していなければいけない上に、出展社とのやりとりはかなりの回数となることだろう。それにより、増える人件費は侮れない。だから、多くの展示会会社は、壁面グラフィックの部分は「出展社様支給でお願いします」ということになる。しかし、空間のグラフィックはそう簡単にできるわけではない。このことが原因で、「集客できない」「伝わらない」という状況に陥ってしまう。
しかし、本稿の手法をとると、デザイナーや出展社の手間が大きく省くことができ、かつ集客効果はこちらの方が高くなる可能性が高い。
さて。いかがだろうか。「伝える」ことを目的とした壁面デザインのシンプル化と、同じ壁面グラフィックをブース内に連ねることで、「ブース内のどこでも全ての要件の説明ができる」という状況を作り上げることができる。多くのソリューションを持っていて、どのようにブース内で展開すればいいのか悩む、という出展社の方は是非この手法を試してみてほしい。当社でこのことを試してみたところ、出展社は過去最高の集客結果を出すことに成功した。
「ブース内の複数個所で同じ説明ができる」というのは、商談の効率を高めるために、とても有効な手法となりえるようだ。

1970年生まれ。一級建築士。大学で建築を学び、ゼネコンにて設計業務に携わる。独立後は、インテリアデザイン事務所として「ディーコンセプトデザインオフィス」を設立。その後、展示会ブースに特化した空間デザイン会社「スーパーペンギン」に組織変更を行い、展示会のブースデザイン専門の空間デザイン会社として業務を特化する。徹底した「来場者心理」を軸にした空間デザインの手法によりブースを構築。ブースデザインに加え、商品陳列手法、キャッチコピーの考案、会期中の立ち方・待ち方、DMの送り方に至るまでの展示会サポートの姿勢は、「デザイナーというよりコンサルタント」との評もあり、デザイナーによってキャッチコピー・商品陳列・立ち位置の設定まで行うのは、日本において唯一と考えられる。これまでの経験を基にした展示会セミナーは常に「満足度100%」を達成。現在、全国の自治体・中小企業支援団体だけでなく、多くの展示会主催者、代理店、設営会社等展示会業界関係企業までにも行っている。代表的な実績として、ギフトショーにおける「石川県産業創出支援機構ブース(石川県ブース)」「東京都中小業振興公社ブース」など、自治体による集合ブースが業界内で認知されている。いずれも、地方自治体が地元も企業を支援する出展形式のブースとなっており、ブースデザインだけでなく、出展対策セミナー、個別のディスプレイ指導を含む総合的な出展支援は、展示会業界でも類を見ない支援方法として、全国からの問い合わせが増え続けている。2023年に著書「集客できる展示会ブースづくり」を発刊。
SUPER PENGUIN株式会社
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