LIFE STYLE | 2025/08/02

グリーンカレーにサーモンレアカツ!?
東京・高円寺で発見した新しいアジア料理の味

タイの田園風景を再現した空間で味わう意外な組み合わせ

文・写真:池田美樹

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タイの田園風景の思い出が生んだ空間

高円寺にできたアジア料理店がおもしろいと聞いて、足を運んでみた。昨年11月にオープンした「p.i stand(ピーアイ スタンド)」は、タイ料理をベースに、ベトナム、インドネシア、台湾などの要素を自由に取り入れた店だ。

JR高円寺駅から徒歩数分の場所にある店内は、緑色のタイルが印象的だ。この色には、シェフの森脇翔平さんの特別な思いが込められている。かつてバックパッカーとして世界各国を旅した森脇シェフにとって、最も印象深かったのがタイ北部の小さな町「パーイ」での滞在だった。のどかな場所ながら、欧米からの旅行者向けの個性的なビストロも点在するこの街の田園風景を、緑のタイルで表現したのだという。

タイの田園の町にいるようなオープンな気分になる店内

カウンター席を中心とした13席という小さな空間に、木の温もりを感じる照明や椅子が配され、森脇シェフの旅の記憶とともに、どこかアジアの洗練された雰囲気を醸し出している。

ここで特に話題となっているのが看板メニュー「サーモンレアカツグリーンカレー」だ。

「サーモンレアカツグリーンカレー」という体験

メインディッシュのひとつである「サーモンレアカツグリーンカレー」は、そのネーミングからして興味をひかれる。サーモンのカツと聞けば、多くの人は火が通った固めの食感を想像するだろう。しかし実際に口にしてみると、その予想は見事に裏切られる。

衣はサクサクと軽やかでありながら、中身はしっとりとなめらかだ。刺身でも食べられるクオリティのサーモンを、絶妙なレア加減で火入れをしてレアカツに仕立てることにより、旨味と滑らかな食感が最大限に引き出されている。これまでに経験したことのない食感だった。

サーモンレアカツグリーンカレー(ランチ1800円)、ディナーはカレーソース2400円、ライス300円(写真提供:p.i stand)

グリーンカレーと聞けば「辛い」という印象を持つ人も多いだろう。しかし、この一皿はそうした先入観を静かに覆してくれる。森脇シェフがメニューづくりで大切にしているのは、タイ料理の基本である「辛み・酸味・甘み」のバランスだという。口に含んだ瞬間は、サーモンレアカツの風味とサワークリーム、ディルのソースが織りなす爽やかな酸味が広がり、辛さはほとんど感じない。

そしてこぶみかんの葉とスパイスをたっぷり使ったグリーンカレーの香りが広がり、ほんのりと辛さが後味に残って全体の印象を引き締める。まさに、一口ごとに新しい発見がある味わいだ。ボリュームも十分で、週末限定のランチタイムやディナーでも満足感の高い人気の一皿となっている。

アジアにありそうなオリジナルの味わいを楽しむ

メニューにはほかにも、森脇シェフの創作意欲を感じる料理がずらりと並ぶ。

例えば夏ランチ限定の「塩鴨と香味野菜のまぜ麺(ベトナム風)」。岡山県の「富士麺ず工房」で作った冷麺を、甘辛い特製海老胡麻ダレで味付け。低温調理で柔らかく火入れした塩鴨に、数種類の香味野菜、ハーブ、スパイス、ナッツがトッピングされている。「味変」用のピーナッツソースを加えることで、味・食感・香り・色味の変化を楽しみながら味わえる。

塩鴨と香味野菜のまぜ麺(ベトナム風)。写真は筆者試食用に小盛りにしてあり、実際のメニューはもっとボリュームがある。ランチのみ1600円

ランチに加える一品としてもディナーでお酒と合わせるにも人気の「焼豚とザクロなますのミニバインミー」は、焼き豚をベトナムの調味料サテトムをベースにした甘辛いソースで焼き上げ、キャベツとザクロを使ったサルサを全粒粉のミニバンズでサンドしたオリジナルだ。

焼豚とザクロなますのミニバインミー650円

自然派ワインとともに、 シンハーや台湾ビール、冷蔵庫から自由に取り出すクラフトビールに加え、クラフトアジアン割りと名付けられたオリジナルドリンクも用意されている。自家製カルダモンレモネード、自家製スパイスジンジャー、自家製コンブチャなどがつくられたガラスのボトルがカウンターにずらりと並び、アルコール入りでも、ノンアルコールドリンクとしても楽しむことができ、アジア気分を盛り上げてくれる。

さまざまな自家製漬け込み酒が並ぶ

デザートにはテイクアウトもできるカヌレをぜひ

食事の締めくくりには、デザートのカヌレをいただきたい。高温で焼き時間を工夫したカヌレは、外はカリッと香ばしく、中はとろっとやわらかな食感で、ボリューム感もあるのに、軽くぺろりと1個いけてしまう。今回いただいたのは「台湾ジャスミンのカヌレ」で、台湾ジャスミンティーの上品な香りがふわっと口いっぱいに広がり、食後のひとときを楽しく締めくくってくれた。

台湾ジャスミンのカヌレ350円。カヌレのフレーバーは月替わり

森脇シェフは以前、カヌレ専門店「boB」の監修を手がけていた経験があり、アジア料理だけでなく、フランス菓子の知識も併せ持っている。過去には抹茶カヌレやコーヒーカヌレ、キャロットケーキのカヌレ、クリスマス限定グリューワインカヌレなども登場しており、テイクアウトもできるので、カヌレ目当てに来店するファンも多い。

アジア料理の新たな魅力を発見できる場所

「p.i stand(ピーアイ スタンド)」は、アジア料理に対する印象を静かに変えてくれる場所かもしれない。森脇シェフの多彩なバックグラウンドが融合して生まれる料理は、既存の概念にとらわれない自由な発想に満ちている。「アジア料理は辛い、個性が強すぎる」と考えていた人にも、ここで「アジアの料理はこんなにもおいしいのか」という発見をしてもらいたい。森脇シェフのそうした思いが、料理の一皿一皿に込められている。

森脇翔平シェフ。辻調理専門学校を卒業後、多ジャンルのレストランで修業しながら合間にバックパッカーとして世界各地をめぐる。みなとみらい「Trattoria Tabulé」、カヌレ専門店「boB」監修など様々な経験を経て「p.i stand(ピーアイ スタンド)」をプロデュースしている。

p.i stand(ピーアイスタンド)
住所:東京都杉並区高円寺北2-9-8 WILL YOKOTA  高円寺1F
電話番号:03-4400-8297
営業時間:金12:00~15:00(14:30 LO)、土日12:00~23:00(22:00LO)、
月・火・水・木・金17:30〜23:00(22:00LO)

SNS:https://www.instagram.com/p.i_stand/