CULTURE | 2021/05/25

eスポーツが「スポーツ」となる功罪。日本代表チームの快進撃にみるマネーゲームの脅威【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(6)

LoL Esports Twitterより

Jini
ゲームジャーナリスト
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「Aria」の大活躍とマネーゲーム化への懸念

実は2021年のシーズンの直前、DFMはある発表をした。韓国人選手、Ariaの雇用だ。AriaはMidレーナーという、野球でいうピッチャーのようなエースポジションで活躍する期待の新人だったが、DFMは見事獲得。恐らく報酬もそれなりに高額だっただろうが、Ariaは期待された役割をしっかりと務め、「ゾーイ」「アカリ」といった使用難度の高いキャラクターを難なく使いこなしてチームを国内優勝へ導いた。

そして迎えた初の国際戦。初戦の相手は、日本でも唯一勝てると期待できた南米代表Infinity Sportsだったが、なんとAriaの凡ミスから敗北。ファンは失意を隠せず、SNSや配信サイトのコメント欄には悪態も目立った。そんな中、日本人にしてDFMの大黒柱、Eviが何度もAriaを励まし、「次こそは大丈夫だ」と声をかけ続けたという。そしてAriaは次のCloud 9戦、「北米1位に勝てるわけがない」と目を伏せていたファンの目の前で、何度も味方の窮地を救う大立ち回りを見せ、ついにあの北米代表に初となる勝利を掴んだ。

それだけでも胸いっぱい、もう思い残すことはないと絶賛するファンの前で、あまりの格差からほとんど「消化試合」とも思われたDAMWON KIA戦でも、Ariaは活躍。ゾーイを使った針の穴を通すかのごときミラクルショットを何度も決め、本当にあと一歩というところまで追いつめた。これには日本人はもちろん対戦相手である韓国やアメリカからも拍手喝采。DAMWON KIAのエース、Showmaker選手は「DFMはさながら捕食者の如き、勇猛なチームだ」と褒め称えた。

もちろん、DFMはAriaばかりのチームではない。チームの大黒柱を務めたEvi、Ariaと同じ韓国人にして司令塔のSteal、どんな逆境にも物怖じしない4番バッターのYutapon、チーム逆転のきっかけを作り出したKazu、そして裏で参謀となったコーチやアナリストの存在も大きかっただろう。日本が『LoL』に挑戦し始めて6年。優勝とまでいかずとも、その僅かな可能性を感じさせたという点で、2021年彼らがもたらした希望は大きい。

日本チームにおける韓国人選手の活躍はDFMに限らない。Riot Gamesの人気FPS、『VALORANT』のプロシーンで日本一位を誇るCrazy Raccoonにおいても、やはり韓国から参加したMUNCHKINとMEDUSAという2人のエースの貢献が大きく、特にMUNCHIKINは常にチームでトップスコアを維持するチームの主柱だ。海外からの助っ人の重要性は、特に国際戦を見据えた時に避けられなくなっている。

さて、ここまでなら理想的なスポ根ストーリーのように聞こえるかもしれないが、現実はそう単純ではない。確かにAriaをはじめDFMが大きな活躍を見せたが、裏を返せば、世界中がDFMの選手を欲しがるということ。ひょっとすれば、Ariaが中国や北米のチームに引き抜かれてしまうかもしれないのだ。

前提として、世界でいくら「eスポーツ」が注目されているといっても、日本の市場規模はまだまだ大きいわけでない。2020年、世界全体でのeスポーツ市場は約1100億円だと考えられているが、そのうち日本は僅か約67億円。10分の1にも満たないのが実情である。日本はまだeスポーツを観戦する文化に乏しい他、観戦を通じてマネタイズする事例(放映権や有料観戦など)も少なく、従ってそのような環境で活躍するチームの収益にも限界がある。

DFMは早々にこの辛い実情に気付き、状況の改善を図った。2017年にはKDDIと、2019年にはANAとスポンサー契約を行い、NHK「あさイチ!」や日テレ「マツコ会議」に出演するなどメディアへの露出も増やした。また、日本でも早期から月給制を導入し、韓国でブートキャンプをさせるなど選手がのびのびと練習できる環境を作り出した。日本のeスポーツチームの中ではかなり頑張って「稼ぐ」仕組みを作り出している(※)。日本のLoLプロリーグ、「League of Legends Japan League(LJL)」も2019年からよしもとクリエイティブ・エージェンシー、プレイブレーンを迎え、興行面を強化した。

(※)他には国内ではDeToNator、JUPITER、Sengoku Gaming、福岡ソフトバンクホークス ゲーミング.などの活躍も目覚ましい

残念ながら国内の選手給与に関する情報はないため一概に比較できないが、それでも今回DFMが相手にした韓国のリーグLCK(League of Legends Champions Korea)に所属する選手年俸の平均が1700万円なのに対し、同額を日本のチームで用意するのは難しそうだ。北米や韓国ではオンラインでの有料視聴や大手スポンサーの獲得など、日本よりはるかに環境が整備され、それによってリーグから出る報酬も期待できる。同時にチームもグッズやアパレルなど大会に依存しないエコシステムを保有している。あくまで噂だが、選手一人に数千万円から数億出せるチームも存在し、中国はそれ以上だという。当然、このような大手海外チームの財力をもってすれば、日本のチームから選手を引き抜くなど簡単にできる。

(LoLではないが、ある中国プロチームの拠点の映像。上海の一等地にチームだけのビルを建てるという、信じられない光景が広がる)

実際、ShrimpやTakiなど日本のプロリーグで活躍した後、すぐに海外に移籍してしまった選手も多い。もちろんより大きな世界での彼らの活躍を引き留めていい理由は一つもないが、ファンとしては今年活躍したAriaやStealも結局引き抜かれてしまうのではないか?それだけならまだしも、給与の安い日本地域は若者が「使えるかどうか」を見極めるための、いわば甲子園のような役割を担わされるのではないか?という懸念も出てしまう。

このように、eスポーツは発展するにつれてマネーゲームの様相を呈している。サッカーではカタール代表が外国人ばかりチームに入れて増強を図ったことが問題視されるなどもしたが、野球、サッカー、バスケなどメジャースポーツでは選手の奪い合いが過熱した結果、チームの財力がそのまま実力差に発展してしまうことがある。もちろんスポーツも興行であるからある程度は仕方ないとしても、ただのマネーゲームになってしまえばファンも興ざめするだろうし、工作など不正の温床にもなりかねない。

今後eスポーツが拡大し、認知されていく中で、ただ喜ばしいことばかりではなく、選手を札束でたたき合うような、メジャースポーツが抱えたさまざまな問題もまた吸収していくかもしれない。そのような「大人の事情」が顕在化した時、はじめてeスポーツがスポーツとして認知され、オリンピックに採用されていくのだろうかと、つい皮肉にも思ってしまう。


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