CULTURE | 2022/05/31

女性用風俗はなぜ急増する? 低リスク・低コストなビジネス構造と、過剰サービスに疲弊する男性セックスワーカーたち

「女性用風俗」――つまり、男性セックスワーカーが女性客に性感マッサージなどのサービスを行う性風俗店が近年急増している。「...

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女性用風俗店は参入リスクの低いビジネス?

Photo by Shutterstock

「S」の求人ページには、「講習費実質無料(半年以内に退店した場合は講習費8万円は有料になります。)」という一文が掲載されている。

「講習」とは入店後に、新人が接客の流れや性感マッサージの実技を学ぶ教育システムのことだ。登録費とも呼ばれることがある。費用の相場は5万〜8万円。カイの働く店では「講習費」のない時期もあったようだが価格は近年増額傾向にある。

「僕が入った5年前は講習は無料でしたね。でも、そうすると“女とヤリたいだけ”みたいなマッチングアプリに毛の生えたヤツがやってきちゃうのは事実。だから今は数万円取ってるらしいです。どの店も講習費は上がってると思う。後輩たちは大変そうだけど、自分の意志で払ってるわけだしね」

一方で、昨年まで大手グループ支店で専業セラピストをしていたシン(20代)は、高額な講習費を支払ったのに、ずさんな講習しか受けていなかったと語る。

「たしか講習費は7万円くらいだったのかな? ホテルでのエスコートの仕方なんかを一通り教えてもらったくらいで、他にはなにもなかったです。店からは、その後のフォローもほぼなかったですね。だから最初はかなりぎこちなかったと思います。独学で頑張ったって感じですね。あのお金の意味はなんだったんだろう」

ちなみに、関西の老舗「H」の研修費はなんと10万円(前出『女性専用』より)。その理由は、カイの指摘するように「自分はモテるから女性を喜ばせることなんか楽勝だろうというような、いい加減な人は雇いたくないから」だとされている。

また、男性から登録料を徴収するだけの、ほぼ詐欺のような店も昔からなくなることがない。

そして、講習の内容は「エステやマッサージ資格を持った講師による時間をかけた研修」から、「ホテルでエスコートや施術の手順を一通り教えてもらう程度」、ひどい場合は「口頭での説明のみ」まで店舗によってばらつきがある。なお、改めて説明する必要もないかもしれないが、「セラピスト」とはいうが、ほとんどの場合は何かの資格を持っているわけではない。

男性向け風俗店で働く女性セックスワーカーの講習費は無料である場合がほとんどだが、男性従業員によるセクハラや性暴力の話も耳にする。つまり、男女いずれにも金や身体、どちらにせよ搾取が発生しかねない構造があるわけだ。これは、決して無視できない。

なお、「S」の求人概要には、短期間での退店に関して「講習費を支払わなければ店舗サイトに掲載されている写真を削除しない」という旨の但し書きがある。また、​​飲食費5000円がかかる定期交流会参加必須という不可解なルールも記載されていた。

セラピストである柾木氏の著書『「女性向け風俗」の現場』では、男性セックスワーカーの労働問題や自身の収入についてはあまり触れられていない。これは彼が店舗に雇われているのではなく、個人経営であることと関係があるかもしれない。

菅野氏の著書『ルポ・女性用風俗』では女性用風俗の流行の理由のひとつとして店舗数の増加による低価格化をあげており、さらに「S」の経営者はインタビューにて、「お金持ちの女性だけのものにしたくない、経済的に厳しい女性たちのために価格を下げたい」と考えていることも打ち明けていた。

なぜ店舗数が増えているのか。社会そのものや女性の精神面の変化だけではなさそうだ。現在の女性用風俗ブームを初期から見てきたカイはこう分析する

「女性用風俗って男性のそれに比べて、新規参入しやすいんですよ。だって、希望者は掃いて捨てるほどいるから、風俗嬢みたいに“最低保証”がなくても求人を出せばセラピスト候補はわんさかやってくる。さっき話したように彼らから講習費も取れるしね。かなりリスクが低いビジネスなんじゃないですか」

店舗が乱立するこの世界で今後も価格競争が続いていくとすれば、そこで犠牲になるのは働いている男性セラピストの収入であることは想像にかたくない。

値下げ競争の激化のしわ寄せは男性セラピストに

『ルポ・女性用風俗』では、女性用風俗のセラピストの魅力のひとつに「(セラピストとは別の本業を持っているため)社会経験がもあり話題が豊富」なことをあげている。女性のセックスワーカーも兼業である場合が多いので、特段珍しくないことだと感じるが、著者の菅野氏が「プレジデントオンライン」に寄稿した記事でもことさら「兼業であるが故の社会経験」を強調している。

当たり前の話だが、他に安定した収入があればセラピストの収入が低くてよいわけではない。むしろダンピングややりがい搾取につながり、様々な理由により専業で働かざるを得ない者にとっては死活問題に直結する。

シンは、昨年まで専業セラピストとして働いていた。その理由はメンタルの問題が大きかったという。3年前「人間関係でうまくいかなかった」と新卒で入社した会社を休職のち退職。「今は昼職(※)は難しい」と、ホストクラブに入店したもののアルコールに極端に弱かったため退店を余儀なくされ、昨年まで都内の有名店で専業セラピストとして働いていた。

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※昼職:夜職(ホストやキャバクラ、風俗など「夜の街」の職業を指す)の対義語で、会社員など「主に昼間働く仕事」を指す

高額な講習費を負担したものの、店舗からは十分な教育やサポートがなかったことは前述したとおりだが、その後独学でマッサージや性感を勉強したこともあり、シンを指名する客は増えていたという。しかしそこにコロナ禍がやってくる。

「あの頃はコロナがどんな病気かもわからなかったし、密になりがちな待機所に行くのも不安だけど、生活のために仕方なく出勤していました。キャバクラやホストクラブがよくやり玉にあがったじゃないですか。その裏で『ホストが営業してないから女風に来た』ってお客さんも増えていたんですよ」

不安はあれど、なんとか仕事を続けていたシン。そんなある日、「微熱が出たので休ませてほしい」と店に連絡したら「予約をセラピスト都合でキャンセルしたらどんな理由でも罰金」と言われ、「コロナだったらどうするんだろう?」と不安が募っていった。

そして店側への不信感がピークに達したのが、プライバシーへの配慮にまつわる問題だった。シンの働く店舗がメディアで取り上げられた際、本人の許可なく、自身のパネル写真が紹介されてしまう出来事が起きた。顔の下半分をぼかしている写真だったとはいえ、しばらく気が気でなかったという。幸い周囲の人間には気づかれなかったようだが、店舗側にクレームを入れても軽く流されてしまったことで、退店を決意したという。

あくまで一店舗の例だが、彼は「売れないセラピスト」というわけではなく、ランキングは「けっこう上のほう」だったという。それでもこの待遇だったのだ。

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