CULTURE | 2022/02/18

マイクロソフト8兆円買収の目的と背景を現役ゲーマー弁護士に聞いたら、予想もつかない答えが返ってきた【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(12)

聞き手・文・構成:Jini
1月18日、マイクロソフトはゲーム企業大手Activision Blizzardを、総額6...

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加速するゲーム業界のM&Aの背景にあるもの

Photo by Shutterstock

――今回の買収は確かに大きなものでしたが、そもそもゲーム市場全体が伸びている前提もありますよね。この背景にあるのは何でしょうか。

松本:Discordの買収報道や、Mixerのローンチもそうですし、いわゆる「デイリーユーザー」を作るようなビジネスに取り組んでいきたいと考えているような気がしますね。まさにユーザーの日常領域に、ビジネスとして取り組んでいくことを目指しているのではないでしょうか。

――日常とゲームですか。

松本:世の中に色々なビジネスがある中で、多くの人に毎日使ってもらえるビジネスというのが、非常に収益率が高い傾向には当然あるわけですね。それこそソーシャルメディアとか「GAFA」と呼ばれるものはどれも、みんなが毎日使うようなサービスに基づいているビジネスですから。ただ、その中にゲームはまだ入ってきていません。

皆さんの中には、ゲームを週1でプレイするという方もいると思います。『キャンディークラッシュ』の話も出ましたが、ゲームはスキマ時間にプレイする、あるいは日常のコミュニケーションツールの中に取り入れるといったことが続けば、ゲームは非常に収益力を持つことになるのではないでしょうか。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、お金がアクティビティに使えない分、ゲームなどにお金を使うことが当然増えていると思いますね。その後押しもあり、ゲーム業界は収益率が上がっている。今後は(Googleなど)業界外の企業が「その中にどうやって入っていくか?」というところが課題でしょうね。

――生活領域にゲームが浸透する、その先にあるものとしてメタバースも考えられますか。

松本:メタバースという概念自体は、皆さんもすでにご存知だとは思うんですけれども、結局のところ、重要なのはコンテンツです。つまり、メタバースという空間を作ったところで、入ってくる人が勝手に増えるわけではありません。「ゲーム機を作っても面白いゲームが無いと売れない」ということと同じで、やはり「コンテンツをいかに面白いものにできるか?」ということが、今後重要になってくることでしょう。

そうした場合に、面白いコンテンツを作ることができる企業は、デジタル世界において「ゲームパブリッシャー」なわけですよね。もちろん、強いIPを持っている、いわゆるアニメや映画に紐づく企業もそれに値するとは思います。「実際にユーザーに体験させる」というところまで突き詰めて、メタバースの中のキラーコンテンツを作っていくのは、間違いなくどこかのゲーム会社だといえますね。

――さらに「XR」や「5G」「NFT」などWeb3的なテクノロジーも到来しつつあります。

松本:そうですね。Web3.0のキーワードはやはり「ゲーム」だと考えています。XRもNFTも5Gもそうですが、これは全てゲームの領域で多く語られる話ですので、そこが重要なカギになると思います。ただ、これらのテクノロジー自体には収益力がありませんから、ゲームと組み合わせることで売るといった形になります。

――今回の買収騒動は飛び抜けて注目されましたが、Microsoftは2021年にはBethesdaを買収し、一方今年はSIEがBungieを買収しましたね。そのさらに前の2015年には、中国のテンセントがRiot Gamesを買収していました。この一連の買収ラッシュの背景にあるものは何でしょうか。

松本:僕が思うに、ここ数年でゲームスタジオが持つ収益力に業界内外から注目が集まってます。2010年代から先んじて買収に動いたテンセントには先見の明があったと言えますし、さらに2020年代からは次のステージに進んだと言えると思います。

具体的には、テンセントは2013年に取得したActivision Blizzardの株を、Microsoftの買収によって手放すと考えられるわけですが、これが意味するのは「先行投資をしていた会社を、利益を確定させるために売りに出す」ということ。つまり、投資の対象として本格的にゲーム企業が注目されはじめるわけです。

ご存知のように、中国においてはゲーム規制の強化もあり、中国ゲーム企業が収益源を失い始める。とすると、より海外に出て行く、もしくは今持っているゲーム事業の株を手放して別の事業に投下するというような戦略もあり得ますね。いわゆる、ゲームのビジネスM&Aは今後非常に増えていくような気もします。

――中国のゲーム規制との関連性は面白いですね。他には?

松本:ゲームビジネスの収益が予測しやすくなったことで、ゲーム企業ではない企業も投資先としてゲーム産業に注目し始めているという背景もあります。

ゲームの事業において、収益を予測するのは非常に難しいと思います。1つのゲームが売れるか売れないかということは、これまでもプロデューサーの感覚に頼ってきた部分もありました。

それが近年では、冒頭に話したような『Fortnite』など持続的な利益をもたらすサービスとしてのゲーム(GaaS)もありますし、買い切り型のゲームでもIPそのものに高い価値が生じている点も注目されます。いわゆる「リメイク作品」ですね。これはやはり収益が安定するんです。

――確かに『Call of Duty: Modern Warfare 2 Campaign Remastered』や『ディアブロ II リザレクテッド』など、Activision Blizzardもリメイクに力を入れていましたね。

松本:日本のゲームでいえばスクウェア・エニックスの『FINAL FANTASY』もそうですし、昨年はポケモン、今年2月には『ライブアライブ』や『クロノ・クロス』のリメイクも発表しましたね。

これらリメイク作品は、新規IPの新作と比べて一定程度収益を確保できるということが、非常に重要なカードになってきているからです。それができるようになったというのは、ゲーム産業が一歩歴史を進めたことだと思います。

――Activision Blizzardから見て今回の売却は、どのような価値があったのでしょうか?一応、建前とはいえ相互の同意があったはずですから、Activision Blizzardにも当然、メリットがあるわけですよね。

松本:憶測の域は出ませんが、1つは、Microsoftの傘下に入ることで、比較的自由にゲーム作りができるというメリットがあると思います。株主と直接的な関係性がなくなるため、いわゆる「市場の評価を気にしてゲームを作る」というところから少し離れて、ゲーム作りに没頭できるわけです。

あとは、Microsoftがもつテクノロジーをゲーム作りに活かせるメリット、サーバー運営を安定化できるというメリットは考えられます。他にもXboxを含むプラットフォームを最大活用できる点や、プラットフォームとIPの組み合わせによって物を売ることができる、など色々なシナジーがあると彼らは考えているように思いますね。

――業界外の人にとっては、任天堂は動かないのか?と気になる人も多いようですが

松本:任天堂は本当に純粋なゲーム会社であり、SonyやMicrosoftのようなコングロマリットではありません。「面白いゲームを作れるか?」ということだけを考えているのだと思います。だから、そもそも、ゲームを作る会社を買収して何かをするという発想に親和性がない、あるいはその行為に必要性がないと思っているのではないでしょうか?

そもそも、任天堂にはそんなに大きな影響力を持つ法人がいないようです。公開情報を見る限り、多分、ゲーム企業で一番持っているのはDeNAで、1.5%の株を所有しています。任天堂はDeNAと資本業務提携を結んでいますが、これは、任天堂がDeNAのモバイルゲームの技術に期待したからだと考えています。

――なるほど。非常に参考になりました。最後にお知らせはございますか?

松本:近いうちに『ゲームビジネス法大全』という本を作りたいと思っています。関係する法律が多いので、なかなか難易度が高いのですが・・。

――ぜひ出版してほしいです!(笑)


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