PlayStation 5の逆転
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このような任天堂の大攻勢に黙っていないのが、同じくゲーム業界の重鎮、ソニー(以下、SIE)だ。2020年11月に新ハードPlayStation 5を発売したSIEだが、その出だしは好調と言い難かった。世界的な半導体不足によって(Xbox Series S/X同様に)供給不足に苦しみ、今も店舗で在庫を見かけることは少ない。
さらに追い打ちをかけるのが、ハード同様にソフトも供給不足だったことだ。2021年はInsomniac Gamesの『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』が傑作と呼ぶべきクオリティを見せたものの、同年発売を予定していたPS5エクスクルーシブ(限定)のタイトルが、コロナ禍の環境変化やキャストの健康事情(※)により延期。結果、インパクトのある初動を迎えることができなかった。
(※)PS4/PS5『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』クレイトス役俳優が“発売延期は自分のせい”と、突如告白。その背景とは
言い換えれば、2021年にリリースできなかったタイトルが、2022年に続々と到着し、PS5の幅が大きく広がるということ。
その最たる例は、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』だ。こちらは2018年最高の評価を受けた『ゴッド・オブ・ウォー』の続編で、シリーズ恒例の力強く迫力に満ちたアクションに加え、新たに父として息子をもうけ、二人三脚で冒険する上で、これまでにない父親としての心情の揺れや過去への葛藤などの機微を描ききった物語が、ビデオゲームとして稀な例だと評価を受けた。
『ラグナロク』はその続編として、いよいよ北欧の神々との対峙を予定しており、前作で印象深かった俳優たちの演技、さらには、考え込まれたカメラワークによる長回しの演出が、PS5の表現力により進化することを期待できる。
もう一つ、同じく2021年から発売が延期されながらも依然として注目されているのが『Horizon Forbidden West』だ。本作はタカラトミー『ZOIDS』のごとく機械化された獣たちが跋扈する大陸を、残された人類の部族として冒険するSFオープンワールドアクションゲーム『Horizon Zero Dawn』の続編となる。
今作からはアメリカ大陸のうち、「禁じられた西部」西海岸が舞台となることもあり、前作と比べて美しい海や広大な平原などの地域が拝める一方、これまで以上に強大かつ巨大な機械獣との戦闘も予期される。こちらもやはり、PS5のスペックを最大限に引き出しつつ、SF的なイマジネーションと冒険のプレイアビリティを拡張しそうだ。
さらに、Xboxハードを含めたサード・パーティも2022年は大いに充実している。まず筆頭に挙げるべきは、世界各国で絶賛されるフロム・ソフトウェアの最新作、『ELDEN RING』だろう。稀代のゲームクリエイター宮崎英高と、伝説的なファンタジー作家ジョージ・R・R・マーティンとコラボもさることながら、シームレスな世界で展開される死闘がどのようなものになるのか、筋金入りのゲーマーたちは涎を垂らしながら悶々とする日々を過ごしている。
その他にもスクウェア・エニックスとプラチナゲームズによる『バビロンズフォール』、東京を舞台に怪奇的なテーマとなる『Ghostwire: Tokyo』、「ハリー・ポッター」を再話した『ホグワーツ・レガシー』、セガが手掛ける『ソニックフロンティア』、ストラテジーゲームの老舗が作る『Homeworld 3』など、任天堂・SIEに限らず注目の作品は無数に存在し、いよいよ財布と時間が保たない。
インディーゲームも忘れてはいけない。恐竜たちの高校生活『Goodbye Volcano High』、かわいらしい黒猫として冒険する『Stray』、死ぬほどに老いて強くなるカンフーアクション『師父―Sifu―』、インドの母として料理をしながら物語を読み解く『VENBA』、ノワールとサイバーパンクが融合した『CHINATOWN DETECTIVE AGENCY』など、どれも個性的なコンセプトでワクワクする。
今年こそメタバースがやってくるのだろうか?
今回はビデオゲーム産業の中核となるコンテンツを軸に2022年を展望してきたが、一方でビデオゲーム業界全体としての流れやトレンドについても軽く触れておこう。
一つが「ゲームのサービス化(Game as a Service)」である。ゲームのサービス化とは、従来のパッケージごとの販売ではなく、無料ないし有料でゲームを提供した後もアップデートや課金要素を継続的に続け、収益化するビジネスモデルのことを指す。
多くの成功したモバイルゲームはサービス化されたゲームであり、近年ではPC、コンソールでも『Apex Legends』の成功もあり、すでにGaaSは定番化されたと言える。中でも、近年Microsoftが展開するビデオゲームのサブスクリプション「Xbox Game Pass」はその価格から想像できないほどに充実したラインナップで、もはや従来のパッケージ型ゲームさえもサービス化する離れ業を実現。今後、「ゲームを買う」という言葉は稀になっていくかもしれない。既に2010年代から一貫して進められてきたゲームのサービス化は、2022年で一層注目が集まる。
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そのような一環で登場が予期されるのが、今話題のメタバースだ。2020年の『あつまれ どうぶつの森』の大ヒットを例に上げるまでもなく、すでにゲームは「ゲーム」としての輪郭を持たない新たなメディアとなっている。さらにはXR、5Gなどの新たな 技術が加わり、メタバースは「ゲームのサービス化」と化学反応を起こして一般化していくと予測される
もっとも、NFT、XR、そしてメタ社(Facebook)など「新しい言葉」を闇雲に繋げてメタバースを正確に捉えることは難しいと筆者は考える。むしろビデオゲームを含む現代のサービスが徐々に変化、進化した末に、メタバース的なものが存在しうるというだけで、コンテンツの形は常に枝分かれしていくものと捉えるべきだろう。
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その点でむしろ注目するべきは、YouTube、Twitchなどの動画配信サービスとのシナジーだ。esports分野では昨年『League of Legends』の世界大会「World Championship」が、全世界で合計23億2638万8700時間視聴される驚異的な数字を叩き出し、二次的なコンテンツとしてのゲームの可能性をありありと見せつけた。
また同『League of Legends』原作のアニメ『Arcane』はNetflixで配信がスタートされると51カ国で1位を獲得し、Rotten TomatoesではAVERAGE TOMATOMETER(同サイト公認の批評家によるスコア)が100%と、各方でとてつもない大絶賛を受けたこともあり、「ゲームの二次的な可能性」を大いに見いだせた。
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