EVENT | 2023/09/21

「まず~い、もう一杯!」から「ウェルエイジング」へ。キューサイ社長が語る、企業リブランディングとECサイト改善の有機的連動

ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア...

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ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア)は、デジタル顧客体験(CX)の最適化に取り組む実践者たちが登壇するカンファレンス「CX Cicrle Tokyo 2023」を2023年6月に開催した。

本イベントにはAIからデジタルアクセシビリティ、検証まで、CX(顧客体験)戦略やイノベーションに焦点を当て、業界トップクラスのスピーカーが多数登壇した。

FINDERSでは去年11月に行われた「CX Cicrle Tokyo 2022」の書き起こし記事も掲載しており、今回もContentsquare Japanから記事提供をいただき掲載する(本記事は全8回中の8回目。記事一覧はこちら)。

本記事では、キューサイ代表取締役社長の佐伯澄氏が、就任より約1年かけて取り組んでいる「ウェルエイジング」をキーワードとしたリブランディング戦略と、デジタル商品サービスの開発について解説。聞き手はContentsquare Japan合同会社カントリーマネージャーの伊奈憲一郎氏が務めた。

なお「CX Cicrle Tokyo 2023」の模様は無料配信されており、登録をすれば視聴が可能。視聴登録はこちらから

キューサイのリブランディング戦略のキーは「ウェルエイジング」

伊奈:キューサイが推進しているリブランディングの戦略について教えてください。

佐伯:「キューサイ」と聞くと、青汁のイメージを持っている方が多いと思います。当社はこれまで、通販ビジネスで成長を遂げてきました。現在は、スキンケアやヘルスケアを中心に、顧客体験に主眼を置いた変革を進めているところです。

佐伯:「ウェルエイジング」をブランディングのキーとして立ち上げました。ウェルエイジングとは、「年齢を重ねることを前向きにとらえ、心身ともに充実した状態」を意味します。よく言われる「アンチエイジング」では、肌を若返らせるといったように、老化に負けないよう、何かを変えていきます。ウェルエイジングでは、心身のバランスをいかにキープするかが焦点になります。体が健康で、心が満たされていることにより、何歳になっても、新しくチャレンジしようと思えるような、豊かな生活を支援します。包括的にエイジングに取り組む会社はあまりありません。キューサイ=ウェルエイジングという認識を広めることが戦略です。

そのためには、長期にわたって顧客に寄り添える商品の開発が必要です。体調に合わせて選んだ商品の使用が終わったら、またそのときの体調に合った別の商品を使ってみようと思えるような、ウェルエイジングに関わる全ての支援を行うことが戦略の柱です。

佐伯:ウェルエイジングの市場は、約7400億円だと考えています。当社の調べでは、ウェルエイジングの考え方に魅力を感じるユーザーは半数近くに上りました。アンチエイジングの市場が約9000億円と言われていますので、ウェルエイジングには大きな市場が存在しています。当社は、2021年時点で約256億円の売り上げがあり、2025年までに300億円を目指しています。

佐伯:「年齢を重ねていく自分自身を愛し、あなたらしい毎日を送るための、活力を約束する」という思いから、顧客体験を良くするためのサービスを考えています。体が健康で、内面が充実すると、自分に自信が持てるようになります。また、人生初の体験をして人生を謳歌しようと思えたり、同年代の人と比較して自分はキープできていると思えたり、前向きな気持ちを叶えるような商品とサービスで喜びを提供したいと思っています。

社長に就任し、社員との対話を進め、何を大切にしていきたいか、そのために何をしてほしいか、何を変えないでほしいかを確認しました。意見が分かれたときには「これは顧客のためになるのか」という原点に戻るよう、社員と話し合っています。

佐伯:キューサイのCMといえば、30年くらい前の青汁の「まず~い、もう1杯!」のイメージが強いのではないでしょうか。現在は、ウェルエイジングの世界を表現するCMとして、「人生初を、いつまでも。」というスローガンを使ったコーポレートブランディングを展開しています。以前に比べると、かなりイメージが違います。

伊奈:素敵なCMですね。人生初の体験は素晴らしいと思う一方で、年齢を重ねるごとに、 何かを始めることは、体力的に少し勇気が必要で思いとどまってしまうところもあります。新しい体験ができる自分をキューサイが応援してくれるのだと感じました。

佐伯:ウェルエイジングといえばキューサイ。キューサイのところに行けば、エイジングについての情報、商品知識、健康知識を得られて、レコメンデーションやアドバイスも受けられるといった、顧客体験ができる環境を作っていきたいのです。ウェルエイジングによって、まだまだできることがあるのだと顧客に気付いてもらうことも、当社が掲げている目標の1つです。

伊奈:ありがとうございます。ウェルエイジングをブランディング戦略として開始してから半年ほどになりますが、消費者はどのように受け止めているのでしょうか?

佐伯:第一声では、「あのキューサイが、こんなことをやっているんだ」と言ってもらえることが多いです。「あの」という言葉が嬉しいですね。あの「まずい!」で有名なキューサイが、青汁以外の商品も取り扱っているのだと認識されて、好感が広がっているようです。

深い顧客理解に努め、捉え直した顧客像から価値を考える

伊奈:具体的には、どのようにユーザーに関わろうとしているのでしょうか?

佐伯:これまでは、ユーザーのことを「消費者」として捉えていました。買い物客、ロイヤルカスタマー、メディア媒体の視聴者といった具合です。しかし、1人の「生活者」として捉えると、その人の趣味嗜好、欲求、生活の周りにあるデジタルに目が向きます。そこの解像度を上げて、生活者に関する洞察をどこまで突き詰められるのかが、ウェルエイジングのブランディングにおけるキーだと思っています。

佐伯:キューサイが生み出すウェルエイジングの提供価値は、上図のようになっています。生活者としてのユーザーを理解していくことが、「深い顧客理解からの商品・サービス価値」に該当します。購買行動だけではなく、動機、欲求、行動習慣を含めて、深い人間心理を読み取ることで、ニーズに合った商品を提供できるよう、社内での議論に力を入れています。準備の時間の半分を、この過程に使っているほどです。何万人ものリストを使ったデータベースのマーケティングに加えて、顧客にとって意味のある体験をつくりたいのです。

「この商品って世の中に刺さるよね」という一方通行な切り口だと、その多くは失敗します。一方通行ではなく、本当の意味で顧客とつながることを真剣に考えています。顧客と一緒に商品開発ができるかもしれません。あるいは、新しいマーケティングのエッセンスが顧客から提案されることがあるかもしれません。そういった展開の基盤をつくっていくことが、顧客とのエンゲージメントを生かした戦い方だと思います。

伊奈:ウェルエイジングを体現する商品開発について、詳しく教えてください。

佐伯:上図のシステムを、当社では「ヒューマンダイヤモンド」と呼んでいます。中央に免疫、ホルモン、自律神経、細胞があります。外側には、脳、感覚器、運動器、循環器があります。このように、基幹が周りを支えている構造を「恒常性バランス」と呼んでいます。年齢を重ねると、恒常性バランスが崩れます。

例えば、加齢と共に肌が衰えると、体はバランスを取っているので、他の部分も衰えだします。よく耳にする「腸内環境が悪くなると肌も悪くなる」といったバランスの乱れも同様です。恒常性バランスは、40代から少しずつ崩れはじめます。このバランスをいかに維持するかが、ウェルエイジングの力です。年齢にあらがうのではなく、いかに体のバランスをキープできるかが重要です。バランスが整うと、加齢が加速しなくなったり、運動機能の維持ができたり、免疫の強化ができたりします。

伊奈:ヒューマンダイヤモンドをもとに考えられている商品開発のうち、特に力を入れているのはどのような領域ですか。

佐伯:ケールを使った、スキンケアやヘルスケアの領域です。青汁にはいくつか種類がありますが、その中でもケールに含まれる栄養素は非常に高いことが知られています。海外では、ケールはスーパーフードと言われています。外見の美容を超えて、内面からのウェルエイジングを体現できるような商品になると考えています。

伊奈:個々のユーザーに対するサービスについては、どのようなコンセプトを描かれていますか。

佐伯:エイジングと向き合う新サービスとして、商品の提供以外の顧客体験が必要です。「同じ年齢の人と比較したときに、自分のエイジングはどの位置なのか?」を知りたいというニーズを多くの方が持っています。個体差を可視化できるサービスを開発中で、早ければ2024年にプラットフォームとして提供する予定です。

オンラインで提供する顧客体験と今後の挑戦

伊奈:最後に、オンラインというチャネルで、今後どのような体験を提供されていく予定なのか教えてください。

佐伯:最終的にはエイジングのプラットフォームを作っていきたいと思っていますが、まずは、ECサイトのリニューアルを行っています。「ウェルタイムストア」というコンセプトのもと、品揃えが豊富で、使いやすく直感的に購入ができる売り場を提供していきます。ECサイト上で、当社が考えるエイジングの価値を紹介し、どのようにウェルエイジングを体現できるのか、商品の基礎を売り込むことから着手していきます。

佐伯:顧客をファン化していくことも狙いの1つです。よくある戦略として、データベースと顧客のリストがあって、CRMで回して、セグメンテーションをして、ターゲットを決めたら狙い打ち、受注レスポンスが取れたらまたデータベースに……という流れがあります。

当社はそこにプラスして、ファンと相互に連動するクラスター、「ウェルエイジングアドバイザーズ」というコミュニティーをつくりました。ここでは、お客さまがアドバイザーになります。開始から1年半で、メンバーは1万人を超えました。このコミュニティーは、当社からのメールや情報がメンバーに一方的に届くだけのグループではなく、ユーザーのニーズやメッセージを受け取れる双方向のつながりを持っています。そのため、意見交換や、共感を確かめられる場でもあります。このコミュニティーを管轄するために市場情報戦略部という専門部署をつくりました。この部署では、調査や統計を行うだけではなく、エンゲージメントやロイヤルティをいかに高められるか、どうエイジングのサポートができるのかを考えています。

佐伯:当社は通販ビジネスとEコマースを軸に成長してきた会社です。しかし、たくさんのユーザーの声を聞き、解像度を高めていくと、オフラインとオンラインの垣根はないことが分かってきました。キューサイのことを知っているけれども商品を買わない人もいますし、SNSのインフルエンサーを通じて「自分の確かさ」を確かめたいという人も多くいます。自分が持つ意見と、キューサイのコンセプトが合ったときに「この商品は信頼できる」と判断し、興味を持ってもらえます。オンライン、オフライン問わず、どのチャネルからでも、同じ質で高い水準の顧客体験が提供できるよう、設計をしていくべきでしょう。

佐伯:ユーザーが自分のエイジングの位置をクリアにできる、新しい顧客体験のプラットフォーム構築に取り組んでいることは先にも述べました。例えば、ユーザーに「同じ年齢の人があんなに上手にゴルフができているのだから、もっと上手くなるはずだ」という、興味や関心があるとします。そこで、体のさまざまな状態を測定し、体の弱っている場所などをヒューマンダイヤモンドにプロットして、行動変容につなげます。

キューサイが体の状態を可視化することの意味は、この行動変容にあります。人生初の体験をしたいと思えるようなプラスの変容を促していきます。

伊奈:人生初の体験を応援していくために、ユーザーと一緒になって、ウェルエイジングを実現していく。そして、顧客体験の提供ができるサービスづくりも進めているということですね。

佐伯:そうですね。キューサイでは、膝が痛いお客さまがいらっしゃった場合、そのお悩みに対するレコメンドをするだけでなく、お客さまのエイジングの現在地を可視化するとともに、その先にある人生初の体験に結びつく行動変容を促していきます。例えばヨガや登山を一緒にしてみましょう、といったように行動変容による顧客の体験価値を提供したいと考えています。

伊奈:私個人としても、そのようなサービスを受けたいと思いました。ありがとうございました。


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