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倉本圭造
経営コンサルタント・経済思想家
1978年生まれ。京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感。その探求のため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、カルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働く、社会の「上から下まで全部見る」フィールドワークの後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングで『10年で150万円平均給与を上げる』などの成果をだす一方、文通を通じた「個人の人生戦略コンサルティング」の中で幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。著書に『日本人のための議論と対話の教科書(ワニブックスPLUS新書)』『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか(アマゾンKDP)』など多数。
あなたはSNSで激論が交わされている「インボイス問題」について聞いたことはありますか?
ある意味で非常にマニアックな税制・実務の課題でありながら、見る人の立場によって全然違う問題に見えていて、賛成派と反対派の間に決して交わらない平行線状態が続いています。
非常に単純に言えば、日本社会の中で多少なりとも経済的に恵まれた立場にいる人からすれば、インボイス制度に反対するなんてものすごくワガママなムチャを押し通そうとしているように見えているんですね。
一方で、日本社会の中で経済的に厳しい状況に今置かれていて、まさにインボイス制度変更の影響を直に受け、反対する立場の人たちからすれば、生活が立ち行かず廃業を決断しなければいけないかどうかの分かれ目となる「切実な理由」がある。
私は今まで仕事の中で、この「両方」の世界と触れてきた経験があり、賛成・反対のどちらの立場も肌感覚で理解できる立場にあります。
そういう私から見れば、
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この問題に対する立場の違いは、日本社会が今陥っている分断そのものであり、しかしだからこそ、それを乗り越える相互理解が立ち上がってくれば、他の物事でも急激に「意味のある対話」が生まれてくるはず
…と考えています。
というわけで、今回の記事では、まずはざっくりとこの問題の経緯といくつかの代表的な立場について概説したあと、どうやって解きほぐしていけばいいのかについての提案をします。
前半部分は、この問題に詳しい方には今更な内容もあるかと思いますので、そういう方は後半だけを読んでいただければと思います。
1:まずはインボイス制度とは何かをざっくり解説します。
インボイスは、日本政府が2023年10月から導入する予定の制度です。
事業者が収める消費税額を計算するときに「仕入税額控除」を行うためには、決まった様式の「適格請求書(インボイス)」を取引先に発行してもらうことが必要になります。
…と言われても頭の中に「??」が沸いた人が多いかもしれませんね。
具体的に例を挙げて説明します。
例えばA社がB社からモノを仕入れて、加工して消費者に販売したとします。
A社は消費者に販売するときに本体価格と一緒に「消費税」相当額を受け取りますが、同時にB社から仕入れをするときにも「消費税」相当額をB社に支払っているんですね。
そして、実際にA社が販売した売上から計算される消費税額に対して、既に「B社に消費税分として支払った金額」は(既に払っている分というわけで)差し引いて実際に国に納める税額を計算することができます。
これを「仕入税額控除」と呼びます。
今後インボイス制度が導入されると、その「仕入税額控除」を行うためには、B社にインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要がある。そしてこの「インボイス」を発行できるのは「課税事業者」のみなのです。
「課税事業者」とは何かというと、顧客から消費税分の金額を受け取り、それを納税する義務がある事業者のことです。
「え?当たり前の話じゃないの?」と思うかもしれませんが、実際には「課税事業者」以外に「免税事業者」という区分もあります。これは法人なら前々年度の売上高が一千万円を超えない場合(個人事業主は前々年)は消費税の納税を免除されるという制度です。
つまり、実は消費税分を消費者からもらっていても、実際に国に納税する義務を免除されている事業者がいるんですね。
その「免税事業者」の数は、財務省が2015年に発表した推計によると513万者(法人・個人事業主の合算なので「社」「人」ではないです)であり、課税事業者の310万者を上回っています。

財務省「平成28年度 与党税制改正大綱 参考資料②-2(軽減税率制度関係参考資料)(リンク先PDF)」より
この数を見ると「普段私たちがあちこちで払っている消費税はいったいどこに行ってるんだ!?」という気持ちになりますが、とはいえ日本は零細事業者が多いので、数字を聞いて直感的に想像するイメージほど経済規模は大きくないことには注意が必要です。
また、免税されている消費税の規模がどれほどになるのでしょうか。鈴木善充氏(現在は近畿大学教授)が2011年に発表した論文(リンク先PDF)によれば、2005年(消費税5%)時点で約5000億円であり、また「今後消費税10%になった場合の影響額は8000億円程度と推計する先行研究(2001年)もある」とも書かれています。
この「免除されている消費税額分」は「益税」と呼ばれ、意地悪く言えば「零細事業者が自らのポケットに入れている可能性がある」ということで問題視されています。
(ちなみに、インボイス制度反対派の中には、この「益税」という考え方自体がおかしいと主張する人もいます。結構込み入った話なのでここで詳細は触れませんが、ご興味のある方は例えばこの動画などをご覧いただければと思います)
さて。
インボイス制度の導入とは、直接的にこの「免税事業者制度」を廃止することではありません。
しかし、「免税事業者」はインボイスを発行できないので、免税事業者と取引をしている事業者はその消費税分の「仕入税額控除」を使えません。つまり消費税をより多く払う必要が出てきます。
先程の例で言うと「A社」は、もし取引先のB社が免税事業者なら、B社の分の消費税も払う必要が出てくるわけで、もし課税事業者のC社が同じ商品を提供しているなら、C社に乗り換えてしまうかもしれません。あるいは、その消費税額分をB社に値引き要求するようになるかもしれません。
それを恐れてB社がインボイスを発行できるように登録すると、B社は免税事業者の規模だったにも関わらず、消費税の納付が必要になります。
そういうわけで、免税事業者の「益税」を“間接的に”廃止していくことになり、かつ業種によっては今までになかった膨大な事務作業が発生する可能性があるというのが、このインボイス制度導入の影響ということになります。
2:「正論」を言えば否定しようがない制度ではあるが
ここまでで、インボイス制度とは何かについてざっくりと解説しました(あくまでざっくりですので、細部の説明に過不足があると感じる人もいるかもしれませんがご容赦ください)。
さて、読者のあなたは、どういう立場の人でしょうか?
実際、所得税にしろ消費税にしろその他の税金にしろほぼすべて強制的に取られている多くの会社員や、十分稼いで消費税も収めている事業経営者や個人事業主からすれば、
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いやいや、消費税分として受け取ってんだからちゃんと国に納めろよ!
…と思うのも無理はありません。
特に昔は3%とかでしたが、今や10%にもなっているので、この「益税」問題は徐々に無視できなくなってきてはいるんですね(免税事業者になれる条件も段階的に厳しくなってきています)。
実際、そういう立場から、この問題が揉め続けることについてかなりイライラした口調でインボイス導入反対派を批判している人をSNSでよく見かけます。
しかし一方で、実際にこの「免税事業者」の中の一部の厳しい立場に置かれている人たちからするとかなり死活問題で、必死に抵抗するのも無碍に否定できないと私は感じているんですよね。
言ってみればこの記事は、「インボイスに反対するなんて頭おかしいんじゃないの?」と思っているようなタイプの人に、この問題をもう少し違う視点から見て、この対立に何か発展的な解決策の切り口を見出してもらいたいと思って書いています。
次ページ 3:日本社会の「ギリギリな立場」の人に、日本社会の「主流派」は甘えている。
3:日本社会の「ギリギリな立場」の人に、日本社会の「主流派」は甘えている。
私は大学卒業後マッキンゼーという外資系コンサルタント会社に入ったあと、そういう会社で行われるような「グローバルに共通な」経営のやり方と日本社会のリアリティとのギャップがあまりに大きくて精神を病んでしまいいずれその両者を双方向的に融け合わせる新しい発想が必要になると思って、「日本社会の上から下まで全部見る」みたいなフィールドワークをしていたことがあります。
ブラック企業で働いてみたり、カルト宗教団体に潜入してみたり(ちなみにそのときに旧統一協会にも潜入してみた体験談が結構Twitterで好評だったので良かったらどうぞ)、ホストクラブで働いてみたり…と色々とやったあげく、今は中小企業をメインとする経営コンサルタント業を生業としています。
その「フィールドワーク」の時期に出会ったいろんな会社には、ある程度恵まれた環境で育ってきた自分からするとかなりショックなものが沢山ありました。
また、今のコンサルティング業の直接的な取引先ではないですが、「取引先の取引先」にはかなり“ヤバい”会社も散見されます。
つまり、このインボイス制度が直撃するような「ギリギリの立場」の人たちのことを一応理解できる立場にいるわけです。
そういう立場から言えることですが、日本社会の主流的な恵まれた環境にいる人は、社会の「ギリギリな立場」で生きている人たちの我慢強さに甘えているところがあるんですね。
他国なら絶対その値段ではやってくれないレベルの丁寧な仕事をしてくれ、政情不安定で格差が激しい国なら犯罪とか不品行とか犯しまくってておかしくない状況でも、最低限の遵法精神は持って我慢強くこの社会に参加してくれている。
日本社会の主流にいる人はそこにつけ込んでいるというか甘えている側面はある。
他の社会で、その「日本社会のギリギリな立場の人たちが担ってくれているレベルの仕事」を期待するなら、今の何倍もお金を払わないと無理…ということが沢山ある。
実際、例えばリーズナブルな価格の業者さんがちゃんと約束の日時に来るとか、宅急便が数時間単位で時間指定できるとか、最近の信じられない作画クオリティのアニメが次々見れるとか、そういう「日本社会ならこれくらいは当然だよね」と軽く考えているようなアレコレは、その「ギリギリな立場の人たち」のものすごい献身によって成り立っているんですよ。
具体的には信じられないような低賃金かつ長時間労働によってです。
多くの外国で同じクオリティを求めると、場合によっては何倍もお金を払わないと無理、というか相当なお金を積んでも実現不可能である部分も多い。
「インボイス制度に反対している人たち」は日本社会に対して甘えているように見えるかもしれないが、しかし彼らがワガママに見える「日本社会の主流派」の人たちも、ある意味でその「ギリギリな人たち」に甘えて生きているんです。
このインボイス制度について考えていくときには、まずそのことを一応は考慮に入れてほしいんですよね。
4:「甘えあい」をどう変えていけばいいのか考える。

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つまり、日本社会の「ギリギリな立場の人たち」は、他国との比較で言うなら「金銭的な報酬以上の献身」を日本社会に対して行っているところがある。
そういう人たちから見て、実際今すでにギリギリで生活しているのに、収入の10%をいきなり取り上げられたり、さらには非常に煩雑な事務作業を押し付けられたりすると、どこかで「キレ」てしまってもおかしくありません。
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「そっちがその気なら、もう過剰に頑張るのやーめた。そのせいで日本社会がどうなってもしらねーからな」
…ということになってもおかしくない。
今まで「日本社会ならこれぐらいはね」と当たり前に出来ていたことが、急激にできなくなってもっと殺伐とした社会に変わっていってもおかしくない。すでにその風潮は徐々に現れてきていると感じている人もいるでしょう。 それぐらいの大きな課題がここにはあるのだと覚悟した上で、この「インボイス制度」は進めていく必要があると私は考えています。
とはいえ、そもそも論としては日本社会で「ギリギリの生活」をしている人は、ある意味もっとキレるべきだ…という話ではあるんですよ。
ちゃんと「キレ」て、「こんな対価じゃあこの程度しかやらねーからな」という風に突き上げて行くことによってしか、給料はなかなか上がりませんからね。
大事なのはそういう「交渉」を、日本社会の美点が崩壊しないようにしながら変えていけるかどうか?です。
「日本社会の美点」が崩壊していなければ、それを利用して、もっと製造業で儲けたり、もっと観光業で儲けたり、もっとアニメや漫画で儲けたり…ということを今よりももっとちゃんとやっていく道はいくらでも見出していけるでしょう。
しかし、「相互不信」が果てしなく高まっていって、賃上げの交渉のためではなく本当に「決裂」状態にまでなってしまったら?
アメリカは日本に比べて社会の末端がほとんど崩壊状態なところもかなりある国ですが、その分一部の最先端IT企業が世界中で稼ぎまくることで帳尻を合わせています。
日本もアメリカのように社会の末端がどんどん崩壊していったときに、同じことができるでしょうか?
逆に考えれば、アメリカでは一握りのIT企業を強烈に押し上げる副作用として、社会の末端が崩壊状態になりかけている…。この状況を乗り越える道を、日本は独自に見出していかなくてはいけない。今直面している課題はそれです。
日本のエリートの一部は、アメリカ社会のように社会の末端が崩壊してでも自分たちを優遇してほしいと思いがちですが、そのしっぺ返しは必ずやってきます。アメリカですらそうなんですから、自分たちの強みのコアの部分がそこにある日本ならなおさらです。
いかに社会の末端の人間関係を崩壊から守りつつ、次世代の高付加価値産業を担うエリートに力を振るってもらえる両取りの相互補完的関係を実現していけるか?
そのことについて、日本社会の「どちらの立場」にいる人も今真剣に考えるべきなのだと思います。
そう簡単なことではないですが、例えば以前「アメリカの名門大学に留学する女子学生をなぜ日本社会は気持ちよく応援できないのか?」というテーマで以下の記事を書いたところ非常に好評をいただいたので、ご興味のある方はお読みいただければと思います。
次ページ 5:徐々にプレッシャーをかけながら、協力しあって社会全体を変えていくことが必要
5:徐々にプレッシャーをかけながら、協力しあって社会全体を変えていくことが必要
先日、日本政府と自民党は、インボイス制度導入にあたっての負担軽減措置を講じることを発表しました。
こうやってあらゆる利害関係者が必死に押しあった結果、どんどん複雑怪奇な例外措置が増え続けるというのはあまり良くない日本社会あるあるという感じで、だいたい最初からあの悪名高い軽減税率みたいなのを導入していなければインボイスだっていらなかったじゃないかという「そもそも論」では頭を抱えたくなる決定ではあります。
ただ、現実的にはこうやって「徐々に慣らし」ていきながら、インボイス制度は導入されていくことになるのだろうと思います。
大事なのは、そういうプレッシャーを徐々にかけていきながら、日本社会の中の「非金銭的な甘えあい」でなんとか無理やり実現していた過剰クオリティについて見直しを重ねつつ、必要な賃上げはちゃんと実現していくことです。
そういう「課題」について、インボイス制度の影響を受けない大多数の国民の側も「自分事」として関心を持ち、丁寧に変えていくことが必要なのです。
そういう「社会全体の転換」の呼び水としてなら、インボイス制度の導入はポジティブな意味を持ちうるでしょう。
ただ、現状では、「ギリギリな立場の人」が必死に抵抗する中、社会の主流にいる人は全然危機感もなく、「お前らは払って当然なんだよバーカ」という感じの温度感なのは大変良くないです。
そういう意味では、もしあなたが、あくまでインボイス制度に反対したいと思っている人なら、必死に反対し続けてくれたらと思います。
そうやって主張し続けることによって、これは単に「払ってないヤツがけしからんから払わせる」というだけの問題ではない、社会全体で取り組むべき課題だということが浮き上がってくるからです。
インボイス制度に反対する人たちは社会に「甘えている」ように見える人もいるかもしれませんが、ここまで見てきたようにここにあるのは「双方向の甘えあい」なんですね。
日本社会の主流にいる人は、そのギリギリな立場の人にツケを押し付けながら、「日本社会的快適さ」を毎日味わって生きているんですよ。
それを今後どうしていくのか?
「過剰サービス」な部分は簡素化していくべきでしょうし、やはり日本社会としてここは譲れない…という部分は、なんとかそこにまっとうな給料が払えるようにあらゆる業界構造を変えていけるように考えていく。それは「ギリギリな立場の人」だけでなく日本社会全体で考えなくてはいけないことだと言えます。
これ↑は社会全体で合意を作っていかないと、単に今ギリギリの生活をしている人が「じゃあ頑張って」と言われてなんとかできるような簡単な課題ではないことがわかるはずです。
「皆で協力しあって」解決しないといけない課題がここにはあるわけです。
6:今日本に必要な「相互信頼」の回復とは?

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私の長年のクライアントの中小企業で、ここ10年で平均給与を150万円ほど引き上げることができた例があります。
だから実際の中小企業の現場における「賃上げ」「取引先への報酬アップ」というのがどれほど大変で、ある程度一貫性を持った経営力がないとできないことか、ひしひしとわかっているつもりです。
単に、インボイス制度とかでプレッシャーをかけていけば危機感を覚えて勝手に業界が健全化して賃上げも起きるだろう…というふうに楽観する気持ちには私はなれません。むしろさらにどんどん「地下化」していって、さらなる低賃金&過重労働が見えないところで社会を蝕み続けるような事になりかねない。
しかし一方で、そのクライアントの事例を考えていると、「ちゃんと当たり前のことをやり続ければ普通に可能なこと」であるとも感じます。
ただし、そういう「当たり前なことをやれる環境」かどうかというのはかなり明確に分かれてしまうところがあって、実際に今「ギリギリな」立場にいる人が自力でそこから脱出するというのはなかなか望めないところがあるとも思います。
私の中小企業クライアントを見ていると、今日本では密かに、「ギリギリな状態」の中小企業を吸収合併して比較的体力のある大きな会社に取り込んでいく動きが進んでいます。
実際にそういう幸福な例をいくつも見るというだけでなく、統計的に言えば会社の数は減り続けていますが、就労者数の合計は増え続けていることからそれがわかります。
大枠で言えば、そうやって「賃上げのための一貫した経営力を発揮できるプレイヤー」のもとに徐々に統合していくことによって、国全体の賃金の底上げは実現していけると私は考えています。
すでにウェブ記事としてはかなり長くなっているので全てを語ることはできませんが、その「地味に起きている変化」とそれをどうやって後押ししていけばいいのか?について詳しくは、過去に書いた「竹中平蔵型の「原理主義的ネオリベ」から距離を置いて、「新しい資本主義」に中身を詰める為の「デービッド・アトキンソン路線」の重要性について」という記事などを読んでいただければと思っています。
また、そういう「確実に賃上げできる社会」へ転換を後押ししていくにあたって、今「ギリギリな立場」にいる人は、ある意味で「キレ」て自分を主張していくことが、第一段階では必要な側面もあるでしょう。
ただ一方で、そういう人にも一応忘れずにいてほしいことがあります。
社会全体での賃上げは「相互協力」が不可欠だということです。
今回この記事を書くにあたって、インボイス制度反対派の主張をいくつか見たのですが、
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「これはこれで一方的すぎて読者が引いてしまうのでは?」
…と思うタイプの言論も沢山ありました。
例えば大企業を敵視し、「日本政府は大企業を優遇して庶民から搾取し続けている!その証拠に法人税は下がる一方だし、大企業の内部留保が過去最高レベルで積み上がっているじゃないか!」というような論調は、強く主張することで鬱憤を晴らす効果はあるかもしれませんが、広い範囲の共感と同意を得るのは難しいのではないかと思います。
世界各国間で法人税下げ競争が行われている中で、何の配慮もなしに「大企業から取れるだけ取ればいいのだ!」という方向に進めばどうなるでしょうか?
その結果日本の「大企業」の競争力が失われてしまい、外貨の獲得能力が崩壊してしまえば、どの立場の日本人も困る(むしろ今ギリギリな立場の人が余計に困ることになりがち)ことになるでしょう。
大事なのは、大枠としての「消費税でなく法人税を財源として重視すべきだ」という論調自体は非常に意味があると思いますし、考えるに値するプランだということです。
しかしそれは、「大企業側の国際競争的事情」もキチンと勘案し、配慮に配慮を積み重ねた上でしか決して実現しないでしょう。
そういう意味で、「敵」を設定してそれを叩いて溜飲を下げるためなら、有意義な論点も無理やりな論点もアレもコレも全部乗せにしたような論調で押していくことが、本当にそれを実現することにつながるのか、考えてみる必要があるのではないかと思いました。
今、Twitter社を買収したイーロン・マスク氏が日本では考えられないスピードで首切りをしまくっています。これほどではありませんが、AmazonやFacebook(メタ社)、マイクロソフトなど、一昔前までの花形だったIT企業が次々と大規模リストラを発表しました。
ああいう例を見れば「クビ切りが簡単な社会では、そりゃ給料だって簡単に上げられるよね!」ということがわかりますよね。
日本のように解雇が難しい社会では、経済情勢のアップダウンに関わらず払い続けられる程度の額以上に給料を上げることはできません。
だから日本において、私のクライアントで実現したように「平均給与を150万円も上げる」ようなことをするには、よほど一貫した経営力が必要になるのはいうまでもありません。
「日本でもアメリカのように解雇を簡単にできるようにするべき」という「維新型」の改革案には一応の合理性はありますが、しかし大多数の国民の総意として「それはしない」ってことを合意しているわけですよね?
そうやって自分たちが「決めて」いるんだから、それでも賃上げをするにはどうしたらいいのか、皆で協力しあって考えなくてはいけません。
自分たちの決断として「解雇規制の緩和はしない」ということに決めて、その中でなんとかやりくりしようともがいている最中に、「やっぱ日本のリーダーはクズだから、アメリカみたいに給料上げられないんだよね」みたいなことばかり言っているというのは、ちょっと物事の捉え方が他人事過ぎるのではないでしょうか。
インボイス制度はこれからも紛糾し続けるでしょうが、そのぶつかりあいを通じて相互理解を深めることもできると私は考えています。
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いかに日本社会が深い相互の協力関係で成り立っているのか。 自分たちがいかにその「日本社会の美点」を愛し、大事なものだと思っているのか。
↑これらについて、「社会の逆側にいるアイツラが悪い」ってことにしないでちゃんと考えるべき時が来ています。
そこに「相互理解」の橋がかかる時、日本社会は過去20年の右往左往が嘘のように、必要なことを必要なタイミングでサクサクと解決していける国になっていくでしょう。
私たちならできますよ。
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