耳が聞こえない人からの「トークを聞きたかった」という言葉
―― 本を出版してみて、反響はいかがでしたか?
ヤマザキ:今のところ好評で重版もかかりました。高校生の時に読みたかったとか、いろいろな感想を頂いていますが、こわい感想とかは来てなくてとりあえずひと安心です(笑)。印象的だったのは、尊敬している知人がTwitterに感想を書いてくれていて、その内容を見たら俺の伝えたかったことがすごい直球で伝わってる気がして、とても嬉しかったです。
―― 今回本を書くに至った経緯はどういったものだったのでしょう?
ヤマザキ:去年の1月に長崎のすみれ舎という場所で、「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の可能性」というタイトルのトークをしたんです。場所が遠くて行けないけど行きたかったって言ってくれた人が何人かいて、その中に耳の聞こえない方もいたんですよ。録音したデータを送ることはできるけど、それだとあんまり意味がないし、文字起こししてもトークの劣化版にしかならない気がして、どうしようかなって思いました。
それがきっかけで、トークイベントや音声コンテンツにするのか、あるいはブログか本かSNSか、媒体によってどこの誰に届くかが大きく変わるってことを実感に近い形で想像できるようになったんですよね。今回は明確に届けたい相手がいて、その日のトークの内容をまとめて増補したものを本にして出したいと思い、書きはじめたっていう流れがあります。
―― 確かに、視覚障害を持つ方にはこのテキストも非常に届きづらいですね。実際にそういった声を聞かないとなかなか気付けないことかもしれません。noteや『サバイブ』など、ウェブ上での執筆もされていますが、紙の本を選んだ理由は?
ヤマザキ:本の場合は手に取ってくれた人がしっかり読んでくれる可能性が高くて、伝えたいことに対して前置きをめちゃくちゃ長く取れる、というのが一つあります。要点だけ端的に伝えても、読み手の人生経験次第で受け取り方が変わってくるけど、ちゃんと前置きして文脈を組み上げていくことで、自分と近い視点をある程度共有できますよね。それがあれば表面的に受け取られて誤解を招くリスクも減るし、深く伝わる形で言葉が置けると思いました。それともう一つは、良い出版社と一緒に制作して、良い本屋さんで売れやすいような物が作れたら、それ自体、くそつまらない未来を変えられるかもしれない可能性があると思いました。
―― どういう人たちにこの本を手にとってもらいたいですか?
ヤマザキ:過去にやったトークや今回の本は、投資を始める前の過去の自分に向けて伝えたいことを書いたようなもので、昔の自分はカルチャーに没頭していて今よりもずっとエネルギッシュだったと思うけれど、お金との付き合い方は全然雑でした。そういう人が読んでくれたらいいと思うし、いつか会えた時にすごい仲良くなれるかもしれない。
―― 一つのことに没頭するがゆえに、お金のことが蔑ろになってしまう、という人は実際多いと思います。むしろ投資をすることで、お金のことを考える時間を減らせるかもしれないですよね。
ヤマザキ:とは言え、この本に出てくる「投資」とか「パンク」って俺個人の人生に当てはめた時のメタファーでしかないので、そこにこだわりはないです。各々のエネルギーを自分たちの思うようなかたちで意識的に扱ってくれたら、投資に興味を持ってくれなくても全然いいなって思います。投資なんか必要ない人もたくさんいるし、良い店や良い商品を選ぶ余裕がない人がいるのも知ってます。その上で、ひとつの考え方、ひとつの選択肢として、こういう物もあるよっていう意味で書いた本です。それぞれ自分に当てはめて応用してもらえたら、それがベストです。
―― 最後に、今後の展望などがあれば教えてください。
ヤマザキ:2冊目を書かないか、とお誘いいただいているんですが今はあまり考えていなくて、どちらかといえば今関わっている、沖縄市のオルタナティブスペース「ネオポゴタウン」をもっと楽しくしていけたらと思っています。
―― どんなことをやっているのでしょう?
ヤマザキ:俺を含め6人で運営しているんですが、古着や雑貨を売っているお店と、ドリンクを提供するスペース、ライブができる音楽スタジオが入った複合施設です。デザイナー、タトゥーアーティスト、刺繍作家のメンバーもいて、誰でも遊びに来てもらえる場所です。ここに関わる人や訪れる人が想像したことを実現でき、なおかつあらゆるマイノリティとマジョリティが共存できる場所ってことだけ決まっています。今後はみんながDIYとかをできる助けになれたらなって思います。 本がもっと売れたらレーザーカッターや輪転印刷機も導入したい。
―― いわゆるメイカーズスペース的な。
ヤマザキ:俺たちはDIY研究所って呼んでいます(笑)。あと、誰がやっているかはよくわからないんですが、市内に「路上野菜解放戦線」というのがいて、その人達は商店街の鉢植えを勝手に耕して土作って野菜の種や苗を植えまくってるんです。そこになっている野菜は、住人でも旅行客でも警察官でも誰でも食べていいものらしいです。
―― どうしてそんな活動をしているんですかね。
ヤマザキ:沖縄市って米軍基地のイメージがあるけど自治体の区分的には違う町で、海や農地もほとんどないし、観光地や名産品もそんなにない。とにかく人だけはたくさんいるような状態で、財政的には厳しいみたいなんですよね。
路上野菜解放戦線によって植えられたトマト
路上野菜解放戦線の人たちは、いずれは街全体が最低限の飯は無料で手に入る状態を目指しているようです。ただ生きるのにお金がかかるってことを当たり前にしたくないと思っていて、極端な話、その辺になっている野菜だけ食べてれば最低限生きてはいけるような状態を作りたい……と言っていました。人生で2億円稼がなきゃいけないとか、老後資産2000万必要みたいな話もあるけれど、そうではない生き方も選択肢としてあっていいんじゃないかなって思って、俺も個人的に応援しています。
『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)