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ポストコロナ時代の京都再生への期待
またこの任天堂IPに期待するのが、京都の自治体だ。
そもそも、京都はモントリオールやオースティンと並ぶ「ゲーム都市」。もちろん世界的ゲーム企業の任天堂の存在は言わずもがな、Q-Gamesやインテリジェントシステムズなど任天堂と関係の深い企業や、17-BITやroom6など新しいインディーゲームの拠点まで、さまざまなゲーム会社が京都に軒を並べる。
そうした事情もあってか、京都は極めてゲーム文化に寛容な都市だ。中でも、京都みやこめっせで2013年から毎年開催されるインディーゲームのイベント「BitSummit」は、2019年の来場者数が1万7000人を超えるなど世界中の注目を集めている上に、今年の京都国際舞台芸術祭においては、パフォーマンス中心の展示の中で「仮想空間とパフォーマンス」をテーマにインディーゲームも出展することも予定されている。
また、今回資料館の建築が予定される宇治市は、市のPRのため「宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~」を制作。クラウドファンディングで開発予算を集め、スマホアプリとしてリリース。ゲーム自体も商業作品と比べて遜色ない、本格的な仕上がりだ。
任天堂によれば、今回の資料館計画も宇治市の意向もあったらしく、任天堂の「聖地化計画」は京都にとっても重要な観光資源になるといえるだろう。
現状、京都はコロナ禍による影響で観光地の客足が激減。京都新聞 によれば、京都府内の観光関連事業者の35%が売上高の10割が減少、つまりゼロになってしまったという。感染の流行が収まったとしても、観光客が戻るとは限らない。その中で任天堂の聖地化は、京都再生の非常に大きな鍵となっている。
聖地化を通して実現する、ゲーム版「産官学連携」
任天堂の資料館計画は、昨今ゲームのアーカイブ化の必要性が注目されている点も大きなきっかけかもしれない。ビデオゲームの登場から50年近く経過した今、すでに多くのゲームハードやゲームソフトが市場から消え、プレイすることができなくなっている。それに対して、ゲーム文化の蒐集、保存、活用、すなわちゲームのアーカイブ化が喫緊の課題となりつつある。
今年3月には、SIEが提供する、PS1やPS2など過去の名作をプレイできる「ゲームアーカイブス」のサービス終了が告知されたが、ファンの熱烈なラブコールを受けて終了が撤回されたように、過去のゲームをプレイしたいというファンは多く存在するのだ。
このゲームのアーカイブ化を、研究機関の立場でもっとも意欲的に取り組んでいるのが、任天堂と同じ京都にある立命館大学だ。
本校には、ゲーム分野における日本で唯一の学術的機関としてゲーム研究センター(RCGS)が2011年に設置され、その中ですべてのテレビゲームを対象にしたデータベース「ゲームアーカイブ」の仕組みを作り、2019年には文化庁と「国際デジタルゲーム保存会議2019」も開催した。
立命館大学の学術的な研究と、任天堂の一般開放される資料館の性質は異なるが、資料館の計画に立命館大学のゲーム研究が役立たないだろうかと筆者は期待している。任天堂、京都府、そして立命館大学、ゲームを通じた古都の産官学連携の事例となれば、世界的な注目も集まるはずだ。
さて、任天堂の資料館計画はゲームファンにとって非常に興味深いものだが、同時に任天堂のIP戦略、京都のポストコロナの観光資源、そしてアーカイブを含めた産官学の可能性として、その背景を通じて一層期待できるものとなったのではないだろうか。2024年がさっそく楽しみである。
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