EVENT | 2021/06/01

“デジタル後進国”の未来を拓くAIベンチャーの提言|平野未来(シナモン代表取締役社長CEO )【連載】スタートアップ&ベンチャー 異能なる星々(2)

VUCAと呼ばれる不透明な時代のただ中で、新たな道を切り拓くため立ち上がった有志たち。彼ら彼女らは何を見据え、前例のない...

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“デジタル後進国”日本への危機感と、新たな展望

ーー 20年にはシナモンの事業と並行して、内閣府税制調査会特別委員と内閣官房IT総合戦略本部本部員、21年からは内閣府経済財政諮問会議専門委員にも着任されていますね。これは“デジタル後進国”とも揶揄される日本の状況を変えたいという想いからでしょうか?

平野:政府や日本全体のDXだったり、教育や医療の領域などでDXやAIをどう活用していくのかという問題に貢献することが、私の役割だと思っています。例えば、安倍晋三内閣総理大臣の時代にはDFFT(Data Free Flow with Trust/信頼ある自由なデータ流通)を推進したいということで、そのあり方について提言させていただきました。

シナモン執行役員フューチャリストの堀田創による共著書『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(ダイヤモンド社)

その一方で日本の課題に関しては、AIを技術として捉えるのではなく、社会変革という戦略的視点から活用する意識にシフトしていかなければならないと考えています。このあたりについては、弊社の執行役員フューチャリストの堀田創とIT批評家の尾原和啓氏の共著書『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(ダイヤモンド社)が4月に刊行されたばかり。従来のAIを巡る話は技術中心のものばかりで、それをどう活かせばいいかという戦略が欠けていた。その状況に危機感を覚え、企業や組織がPurposeを実現していくためにどう考えたらいいのかをまとめた本になっています。

ーー AIやロボティクスが事務作業の多くや単純労働を担うことで、人間が本来持つクリエイティブな能力を発揮できる社会になるという話にもつながる視点ですね。

平野:弊社のミッションは「Extend human potential with AI 創造あふれる世界を、AIと共に」。AIの活用によって、人間のポテンシャルを高めていくことにあります。有史以来、人間は発明によって自らの能力を拡張し続けてきました。移動を例に挙げれば、徒歩による移動距離を馬車、自動車、飛行機といった形で拡大してきたわけですが、こうした人間拡張の次の柱になるのがAIだと考えています。

『ダブルハーベスト』で提示された、シナモン独自のAI開発フレームワークである「ハーベストループ」の概念図。

その一例が専門家です。例えば弁護士や技術者、研究者などの職能はその専門性ゆえに高額の報酬が設定され、そのため企業や富裕層との取引が中心となり、一般の人が気軽に何かを依頼するわけにはいかなかった。彼らの知見がAIの力によって共有され、誰もが利用できるように民主化されたなら、社会生活から医療、健康など、多面的なセーフティネットワークが行き渡ることになる。一方で専門家の側にとっては、これまでの煩雑な事務作業から解放され、より生産性を高めて社会のために能力を発揮できるようになるでしょう。専門家になれるほど才能のある方が面倒な作業に時間を費やしている現状は、すごくもったいないとも言えます。そうした障壁をなくす一方で、誰もが専門家にアクセスできる社会になれば、全員がハッピーになりますよね。

ーー そうしたビジョンの実現に向けて、5年後、10年後という単位で掲げている目標があれば、教えて下さい。

平野:日本企業のAI活用を通して、産業そのものを変えるようなインパクトを実現できていたらいいなと思います。希望的な感触としては、コロナ禍をきっかけに、企業のDXに対する本気度が上がったという感覚値があること。意思決定のスピードが加速している様子を見ていると、未来へと向かう進歩は思ったより早く進んでいくのではないか。そう実感していますね。


株式会社シナモン

公式サイト:https://cinnamon.is/

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