EVENT | 2021/06/01

“デジタル後進国”の未来を拓くAIベンチャーの提言|平野未来(シナモン代表取締役社長CEO )【連載】スタートアップ&ベンチャー 異能なる星々(2)

VUCAと呼ばれる不透明な時代のただ中で、新たな道を切り拓くため立ち上がった有志たち。彼ら彼女らは何を見据え、前例のない...

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100名以上のAI人材を抱え、他にない提供価値を確立

ーー 日本でもシンギュラリティ(技術的特異点)という言葉が話題になるなど、AIが社会的に注目を集め始めた頃ですね。

平野:とはいえ当時はまだ、経営者の中でも「企業の経営や全体の情報共有などにAIを取り入れないといけない」と言っているのはごく一部の方だけでした。だからこそ、AIを導入することで業務がどのように変わるのかを実績で示す必要がありました。例えば弊社が最初に開発したAIプロジェクトは、人材紹介会社に寄せられる大量のレジュメをAIに読み込ませることで、人材のデータベース作成を支援するというもの。これは自然言語処理、つまり、人間の言葉をAIが読み取る技術ですが、画像や動画、音声などの認識と比べても格段に難易度が上がります。例えばディープラーニングも最初は画像を対象に発展し、世界的にブレイクスルーを迎えたのは2年ほど前のこと。一定の形式に収まらない無数の表現や比喩的な意味によって構成される人間の言葉の文脈を読み解くには、実は非常に高度な技術やノウハウの集積が求められるのです。

ーー 御社の公式サイトには現在、3種類のプロダクトが掲載されています。独自の自然言語処理エンジンに加えて、同じく自然言語処理技術を用いた音声認識AIソリューションと、さまざまな書類を読み込むことのできるAI-OCRです。いずれも、ビジネスにおいて多種多様な形で作られる“非構造データ”をデジタルで処理できるようにするソリューションですね。

平野:プロダクトの機能としてはその通りです。ただ、私たちの取り組みは何よりも企業のコアな業務にAIを導入すること。そしてコア業務の内容は、会社によってさまざまです。人間の仕事の場合でも、会社ごとに仕事の内容や処理の仕方は多種多様で、その状況ごとに合わせた高度な対応が必要になる。その点、私たちは自然言語処理、画像認識、音声認識、データ分析など幅広い技術を組み合わせることに強みがあります。いわゆるAI企業と呼ばれる会社で、これだけ幅広い技術に一気通貫で対応できるところは世界的にも少ないはずです。

ーー AIという非常に複雑かつ専門的な技術体系に対して、異なる専門領域の技術を横断的かつ高度に組み合わせることができるのは何故でしょうか。

平野:その理由は、抱えているAIリサーチャーの数の多さにあります。私たちはAIリサーチャーを「アルゴリズムをゼロから作れる人材」と定義していますが、そうすると日本国内には400名余りが存在し、そのうち半数がアカデミアに所属していて、残りの半分を産業界で分け合っている状態です。さらに、その多くが自動車メーカーや電機メーカーなどの大企業に所属しており、AI企業が確保できる人数はほとんどが数名程度という実態がある。これでは1社で対応できる領域が限られるのはもちろん、論文を読んだり、実装してみて課題を見い出し、改良に取り組んだりするなど、チャレンジできる量にも限度があります。それに対して弊社には100名以上のAIリサーチャーが在籍しており、ベトナムと台湾にAI研究ラボも保有しています。この体制によって、多様かつ細分化された領域ごとに次々と試行錯誤を行い、新たなアルゴリズムを開発していくことが可能です。

ーー 多領域に及ぶAIリサーチャー同士が協働することは、新技術のプロトタイピングや人材育成の面でも大きなメリットがありますね。

平野:まさに、好循環が生まれていると感じます。弊社に所属しているのは、数学や情報系のバックグラウンドを持つ世界レベルの才能ばかり。中でも、業界で花形とされる天才的な研究者が在籍していることで、それが若手にとって「あの人と一緒に働きたい!」という意欲につながり、開発面でも大きな原動力になっています。

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