単なる“効率化”に留まらない、AI活用の真価とは
ーー 顧客には数多くの大手企業が名を連ねていますが、具体的な導入成果としてはどんなものが挙げられますか。
平野:私たちの顧客企業は、製造業、社会インフラ、交通、金融、エンターテイメント系に至るまで、業種も事業内容もさまざまです。それに対して私たちの強みはまず、1社1社の戦略や課題に合わせた提案ができること。そして、AIアルゴリズムの構築からシステム開発までを一気通貫で実施できることにあります。社内体制としても、まず事業開発を手がけるチームが対象企業ごとにどういう技術を組み合わせて提供するかという戦略を立て、そこへ技術側のチームが参加して実効性を高めていく流れを確立しています。
ギークピクチュアズとの共同プロジェクト「アニメーション自動着色AI」の見本イメージ。業務負荷が高い色付け業務にAIを導入し、アニメ制作現場の生産性向上とDX推進を目指す。2021年5月には、東映アニメーションがプロジェクトに参画することが発表された。(イラストはイメージで、実際にAIが着色したものではありません)
ーー 日本では昨今のコロナ禍において、役所が未だにFAXで受信した書類を手入力し直していたことが露呈するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れが大きな問題になっています。これは技術というよりも組織としてのマインドセットの問題だと思うのですが、同じ課題を持つ企業も少なくありません。どう解決していくべきだと思いますか。
平野:非常に悩ましいところですが、そもそもPurpose(目的)がない企業に対してできることはありません。目指すべきPurposeが設定されていて、それを明確に表すKPIが設定されており、さらにそれがトップから現場まで共有されている企業であれば、AI導入のメリットがすぐに理解され、施策として行き渡っていきます。しかし実感では、そうした企業はすごく少ないと思います。
そもそも、何となくのイメージで「AIを導入したい」という企業はたくさんありますが、そうした企業の多くがAI活用の効果を単なるコスト削減や利益率アップでしか捉えていません。しかし、AIのインパクトにはそうしたレベルに留まらないものがある。例えば、これまでの体制では人間の数を増やすしか業務拡大の方法がなかったところへAIを導入し、人間を増やさずに対応件数をケタ単位で増やせたなら、それは事業そのものが大きな変革を遂げることを意味します。こうした点をふまえて私たちも、まずAIの理解度を上げるセミナーやワークショップを実施したり、AIによる業務改善のロードマップを提示したりするところから取り組んでいる次第です。
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