必要なのは"大人のマネジメント"
――フルリモートに移行してからの様子はいかがでしょうか?
山下:最近1年間リモートワークを続けてみてどうたったか?というアンケートを社員に取ったのですが「今後もリモートワークを続けたいか?」という質問に「はい」と答えた人が100%だったのには驚きました。
――1人残らずリモートを続けたいと。
山下:普通2、3人ぐらい反対派がいそうなもんですけどね。そして、生産性についての質問では半数以上の社員が「生産性が上がった」と答えたんです。「元から生産性が高かった」という社員も4割近くおり、下がったと答えた社員は1割以下でした。
――「生産性が落ちるかもしれない」とリモートに踏み出せない企業も少なくないと思いますが、これは面白いデータですね。課題についてはどのようなことがわかりましたか?
山下:「雑談が少なくなった」「運動不足になってしまった」という声が多かったですね。 雑談については、ちょっとした立ち話や意見交換がなくなってしまい、将来的にイノベーションが少なくなっていくのではないかという懸念はあります。運動不足だって、メンタルにも関わってくる問題です。
――いち会社員として、仕事に使うデスクや椅子、その他の機材などを揃えなければならないというのも負担に感じていますし、実際会社で使っていたような高性能なオフィスチェアを揃えることができず腰を痛めてしまった、なんて声もあります。
山下:ここは私も注目しているところでして、「リモートワーク格差」みたいなものがこれから生まれてくると感じています。
――自宅の環境や家族との関係など、1人1人状況が違いますからね。
山下:先のアンケートでも、業務に支障のない環境を「作れていない」と答えた人が18%いました。じゃあとにかく会社が負担してあげれば良いのかというと、今度はすでに準備ができている社員との平等性も失われてしまうので非常に悩ましいところで、現時点ではリモートワーク手当を月5000円出しています。現在会社としてオフィスを2フロア持っているのですが1フロアは契約を止め、浮いた額の一部を社員の支援に回すことも議論しています。
もう少しソフトに寄った話をすれば、今までの働き方とリモートワークとでは社員に求められるスキルも異なると感じており、そのための研修をさらに充実させていこうという話も検討しています。
――リモート時に社員に求められるスキルとはどういったものですか?
山下:今、私たちが定義してるのは「ミーティングのファシリテーション能力」「プロジェクトマネジメント能力」「レジリエンス」の3つです。マネジメント層についてはマネジメント能力をさらに研ぎ澄ませ必要があるとも考えています。
つまり、バラバラの場所にいる人にしっかり仕事を渡して、みんなを同じ方向に向かうようにコントロールする必要性が以前より増しているということですね。レジリエンスについては「ストレス耐性」とも言えるかもしれません。耐性と言っても耐えるわけではなく、例えば瞑想をすることで自身でストレスを逃していく術を身につける、といったことが含まれてきます。
――元からいる社員に求められる能力が変わってくるということは、採用の際に重視するポイントも変わってくるということですよね。チームスピリットではこの1年で50人ほど採用したと伺っていますが、いかがですか?
山下:おっしゃるとおり、これに加えて自律性や変化対応能力といったことをキーワードに、採用する人の質を見ていく必要があると思います。おかげさまでコロナの期間に多くの社員を迎えることができましたが、リモートワークは人間関係を作りづらいというのもはっきりとわかりました。ちょっとした質問をするにもオンラインだとハードルがありますし、そもそも社内にどんな人がいるのかもわからない。
――お互いの人柄もわかっていないような時期って、新入社員からしたら質問しづらいですもんね。
山下:そうなんですよね。なので昨年の10月頃からは入社後一定期間はオフィスに来てもらって誰かが横についてあげる、というアナログな方法をとっているチームもあります。こればっかりはオンラインだけで解決するのはなかなか難しいですね。
あとは月に1回必ず全社員でのミーティングを行うようにしています。新入社員の自己紹介や、投票形式で今月活躍した社員をノミネートして、この人はこういう分野に強いですよ、ということを気軽に知ってもらうためのコンテンツ作りを行っています。
――チームスピリットほど準備を進めていた会社でさえ、さまざまな問題に直面しながら試行錯誤されているんですね。まだまだリモートワークに踏み出せていない、という企業も多いと思います。導入の秘訣があれば教えてください。
山下:使うツールの問題ではないと思うんですよね。マネジメントが社員を信頼してマネージするかどうか、本当にそれにつきると思います。PCのカメラやキーボードの動きで社員の状態をチェックするような「監視ソリューション」があると思いますが、やはり性悪説でやるとお互いよくないのかなと思います。
基本的にはみんながしっかりやっていると考える、という前提が第一。そのうえで、マネジメントが明確な目標設定を行い社員のパフォーマンスを測っていく、"大人のマネジメント"をしていく。やはりマネジメントで誰をどう評価するか、というのは会社の運営そのものです。社員を信頼してマネジメントしていると、社員からも信頼されるようになる、その結果が会社へ返ってきていると感じています。
次ページ:これからの会社のアウトプットは業績だけではない