EVENT | 2021/03/11

「震災を経験するまで、誰もわかっていなかった」。アイリスオーヤマが語る防災用品開発の歴史と東北の復興【特集】3.11あれから10年

「3.11あれから10年」特集ページはこちら
聞き手・文:赤井大祐 画像提供:アイリスオーヤマ
FINDERSでは「...

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商品リニューアルを重ねる理由

――手代木さんは営業職から現在のハード事業部へと移ってきたのはいつ頃でしょうか?

手代木:2016年からです。

――なるほど、2016年といえば、ちょうど4月に熊本地震がありましたね。

手代木:そうなんですよ。当時、家にもいられないけれど避難所にも行かず、車中泊で過ごした方々が多いことが取り上げられたこともあり、車内の目隠し用のサンシェードや、シガーソケットに対応したスマートフォンの充電器などが入った「避難バケツセット(車中泊用)」という商品を急いで作ったというのが最初の大きな仕事でした。これは相当急ぎでやったので、確か企画の立ち上げから1〜2カ月とかで販売までこぎつけて。

――そんな短期間で新しい商品を供給することができるんですね。

手代木:もちろん通常はもっと時間をかけてやりますが、今、実際に被災されている方々の助けになりたい、という思いが社内で共有されていました。他にも、当時アウトドアなどで使用されていたエアベッドを防災用品として初めて取り扱うようになったのも2016年です。

あとはこの頃から地震以外の災害も目立ってきましたね。特に2019年の台風15号・19号は宮城県も大きな被害を受けて、電気、ガス、水道、食品といったライフラインが断たれてしまうケースへの対策として、発電機や食品などのラインナップを充実させていきました。

――実際に経験してみないとどんなものが必要かわからない、というのは東日本大震災以降も変わりませんね。一度リリースした商品も時代に合わせて少しずつリニューアルを?

手代木:そうですね。避難リュックセットは年に最低1回は見直すようにして、その時代にあった必要なものを揃えるようにしています。例えば2020年は新型コロナの影響で「在宅避難」という言葉が出てきました。今までは避難所での生活をなるべく快適に過ごせるようにと、セットを組んでいましたが、自宅で避難生活を送る方々に向けて、食品やライト、トイレの処理セット、体拭きなどを充実させていきました。

自宅での避難生活を想定して作られた「ライフラインボックス2人用」

――2月25日にも「防災リュックセット」のリニューアルを発表されていましたね。

手代木:そうですね。「防災リュックセット」はリリースしてから1年足らずでのリニューアルになります。基本的にはリリースで発表している通りのリニューアル内容になりますが、実は生産面でも大きく変更した点があるんです。

――どういったことでしょう?

手代木:リュックセットって、例えば55品セットであれば55個の防災用品をリュックに詰めていく作業、つまり部品を組み立てる作業になるわけです。そうなるとなにか一つでも欠けるものがあると商品の販売自体ができなくなってしまいます。

――部品が欠けた商品を売るわけにはいかないと。

手代木:もちろんです。今までは工場にそれぞれの物を取り寄せて組み立てを行っていたのですが、大きな地震などがあると突発的に需要が増えてしまい、部品が足りなくなり、商品を供給できないということがしばしばありました。

――欲しい時に在庫がないという状況になるんですね。

手代木:そうですね。お客様の目線で見ると、欲しいと思ったタイミングで防災用品を買うことができないということが起きてしまうんですよね。

――なるほど。いち消費者としては、一般的な日用品であればそこまで困ることでは無いかもしれませんが、防災用品が買えない、という状況は不安を感じるかもしれません。

手代木:実際この手の商品って同じようなトラブルが起きやすいので、ネットで調べてみると売り切れや販売停止中の物が非常に多いんですよ。そういったことを改善するために、日本の災害の影響を受けづらい海外の工場で組み上げてから日本へ送る、という方法を採用しました。これで供給面に関しては、以前より大きく改善できたと思います。

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