EVENT | 2021/03/10

時価総額1000億円超えも輩出する「東北スタートアップ」の躍進。10年間起業支援を続けたMAKOTO創業者が語る最前線【特集】3.11 あれから10年

MAKOTOキャピタルが主催したイベント「東北グロースアクセラレーター」での一幕。写真右が竹井氏
東日本大震災から今年...

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使える環境を最大限使い、東京と、世界と直接つながるための「仕込み」

―― 御社のファンドの投資家層も含め、東北のスタートアップに投資するのはどんな層が多いのでしょうか?

竹井:私たちのファンドですと福活ファンドは福島銀行さんと組んでいますし、ステージアップファンドは銀行は入っておらずKDDIさんや、そのほか複数の東京の会社にご出資頂いています。

首都圏ですと大企業でも「スタートアップと組まなきゃダメだ!」というオープンイノベーションのムーブメントがあったりしますが、地域では、まだスタートアップに関する理解や期待というところがそこまで成熟していないということもありますね。地銀さんも「もう少し大きくなってから融資なら検討できる」というスタンスのところが多いです。

―― これまでの10年間を振り返り、MAKOTOグループのスタートアップ支援で「成果」と呼べるようなものはあったと感じますか?

竹井:何をもって成功かという定義もありますが、ファンド設立から年数が浅いので、まだ投資企業で上場したところはない状態です。ただ先程も申し上げました通り、著しい成長を見せているスタートアップは増えておりますし、学生や若い方の間で起業家を増やすことについても一定の成果も出せたのではないかとも自負しています。

――では逆に、「この領域についてはまだまだ道半ばで、やることが山積みだな」と考えている課題はありますか?

竹井:東北のスタートアップは、持っている技術やポテンシャルに関してはものすごいものがあると私自身感じているのですが、自分たちのすごさに自信を持ちきれない方が少し多いかなというのは気になっています。ただそれは「成功事例」が出ることによる自信強化とも紐づいているので、道半ばというところですね。

直近の取り組みの1つとして、スタートアップも含めた東北の企業が、ダイレクトに海外と取引する、進出する機会を増やしていきたいと動いています。世界各国を見ても市場が小さい国ほど海外に出て成功しているという部分もありますので、東北は「むしろ直接海外と」ということをもっと強く意識して考えなきゃいけないかなと思っています。

具体的には2020年末に駐日イスラエル大使館との共同プログラムの実施が決まりました。スタートアップの世界において、イスラエルはシリコンバレーに並ぶぐらいの集積地で有名ですけれども、国内と海外の考え方、市場攻略方法の違いといったことをレクチャーしていただいたり、あとはアドバイザーとしてメンタリングをしていただく、というプログラムを作っていく予定です。

―― 国とのプロジェクトで言いますと、御社もサポーターとして名を連ねる「福島イノベーション・コースト構想」についてうかがいたいです。このプロジェクト単体がどうというより、これまで国主導の産業振興の失敗例があまりにも多いため「これは大丈夫なのか…?」と不安に思ってしまうところも正直あります。

福島ロボットテストフィールドの公式サイトより

竹井:確かに「何も心配せずとも上手くいきますよ」と断言できる状態ではないと考えています。陸海空のフィールドロボットの開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド」がある南相馬市の、「小高パイオニアヴィレッジ」という簡易宿泊所付コワーキングスペースに2020年9月から当社の拠点を作り常駐者を置き、動き始めています。せっかく国主導の大きなプロジェクトがあるのですから、地元勢としては最大限利用し成果を上げなければと考えています。

ーー イノベーション・コースト構想に対する批判としては例えば福島ロボットテストフィールドの滑走路のある浪江町、そして福島第一原発のある双葉町などは、2021年の今なお人の住めない「帰宅困難区域」が少なからず存在しますし、避難指示が解除されたのがたった数年前というところも多いです。「周辺に住めるところはあるじゃないか」と言われても、そもそも地元の方が誰でも戻ってこられる状態なのかという話もあり、そうした地域では商業施設なども進出しづらいでしょうし、地元の方も戻りづらい環境に「企業進出してください」と言われてもかなり難しいのではないか、と感じてしまいます。

竹井:実際、入居企業がいたとしても、ほとんど東北域外の企業が名前だけ入ったりというところもあります。ですので、まだ本当の意味で誘致にはつながっていないと思いますし、まして本社が移転したという会社もほとんどありません。とはいえ今後もネガティブに考えて放置したままというのも勿体ないと思うんです。

そして今のご質問に反論というわけではないのですが、そんな中でも先ほど申し上げました、当社の拠点もある南相馬市の小高ワーカーズベースでは、運営会社代表の和田智行さんが中心になって、新しい仕事づくりをそこでどんどんやろうよという感じで、人が集まって面白い感じにはなってきています。

もう「東北は起業不毛の地だ」とは言わせない

―― 最後に、今後注力したい事業領域あるいは内容について教えていただけますでしょうか。

竹井:会社全体としては、いろいろなグループ企業がありまして、ビジョンを掲げながらそれぞれ取り組んでいます。

私自身は、このグループの仕組みをもっと進化させて大きく広げていくということを目指していまして、これがある種「地域のプラットフォーム」と言える存在になってほしいなと思っています。というのも、このプラットフォームがあることで、非常に事業がやりやすくて、自分の思いをかたちにしやすいと。そうしたインフラ機能として整えていこうと思いますし、何より世の中を良くしようといった思いを持っている仲間がたくさんいて、切磋琢磨しながらそういうものをつくり上げていくという。さらに、グループ内からもどんどん起業にチャレンジする人を生み出したいですし、外からも例えば東京からのUターンとか、そういう方々の受け皿になったり、みんながまずアクセスしようと目指すプラットフォームになれば、東北にとっては非常にいいものになるんじゃないかなと思っています。

10年後、20年後、100年後になった時の東北が「MAKOTOグループが存在する未来としなかった未来では大きく変わっていたよね」という状態を目指しています。震災後、全世界から多様なサポートをいただいた事に対し、いつか恩返ししないといけないなという思いも強いです。

―― その未来を実現するにあたって、現在ハードルとなっている点はあると感じますか?

竹井:特にハードルは感じていません。しいて言えば「あとはひたすらやるだけ」なんじゃないかと思っています。お金も人も便利な制度もあるに越したことはないですが、私達スタート時点では何もないところからここまで作り上げてきました。

何度も申し上げますが「東北は起業家が生まれづらい地域だ」と言われ続けた中、10年かけてようやく「変わってきているので注目して下さい!」と言えるようになりました。さらに今後も東北の動きに注目していただきたいですし、KDDIさんのように東北以外の企業とももっと連携を深めていきたいと思っています。

震災から5年ぐらいまでの間には、特にスポーツの世界だと楽天イーグルスが優勝し、サッカーのベガルタ仙台がJ1のリーグで2位、あとはスケートの羽生結弦くんが仙台から出てきて世界一位となり、度々「東北勢の勢い」のようなものを示したということがありました。ビジネスの世界で東北が名を轟かせるのはこれからですが、東北は、そうしたある意味でのフロンティアになれるんじゃないかなと思っています。私たちもそれを証明していきたいですね。


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