EVENT | 2020/11/24

「あいトリ」で右翼団体や抗議者と直接対話し気づかされたこと。津田大介と「ウェブと政治」の10年【前編】

今では誰もそんなことを言わなくなったが、かつて「インターネットでより多くの人が直接議論しあって知恵が共有されるようになれ...

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津田大介、愛国団体・N国支持者と直に対話する

―― 津田さんが、河村たかし名古屋市長の反あいトリデモに参加していた右派団体の人と実際に会って話して、割と仲良くなったといったお話を別のインタビューでおっしゃっていましたが、その時のエピソードをお聞きしたいです。

津田:あれは9月30日に「不自由展」の再開が決まったタイミングで、話に行かなければならないと思ったんです。「愛国倶楽部」という電凸(企業、マスコミ、宗教団体、官庁、政治家、政党などに対して一斉に電話をかけ、組織としての見解を問いただす行為のこと)をやっていたネットの保守団体が愛知にあって、抗議先に名刺も置いてあったから代表の連絡先は分かっていた。

加えてJアート・コールセンターを立ち上げた、あいトリ出展アーティストの有志集団「ReFreedom_Aichi」のアーティストたちがその人に会っていたという話も事前に聞いていて、話を聞く限りでは「この人は少なくとも話はできそう」と感じたんです。不自由展の再開にあたって、もしまた中止になったらダメージが大きいし、県の職員も守りながら最後までやりきる必要があったので、とにかくいろんなリスクを減らさなきゃいけないと思っていました。

僕自身は抗議も受け取るしいくらでも批判してくれていいけど、職員は巻き込まれただけだから電凸はやめてくれないか、ということを彼らに直接伝えたくてケータイに電話してみたら、相手もビックリしていました。「え、津田って、あの?」みたいな感じで。

――「津田本人がマジでかけてきた!」ってなりますよね(笑)。

津田:そうそう。名古屋国際ホテルという9月末で営業終了してしまった老舗のホテルがあって、再開4日前の午前中に僕一人で会いました。向こうは5人ぐらい来ていたのかな。2時間ぐらい、本当に口角泡を飛ばして議論したんです。

議論はずっと平行線で声も荒げてみたいな感じだったんですけど、それでもある程度話したら「こことここまではそうですよね」みたいな落とし所が見つかってきました。終わりぐらいに言われたのが、「まさかあなたから連絡が来るとは思っていなかった。意見は違うけど、こうやって自分たちの話を聞いてくれてありがとう」というふうな感謝の言葉があって、別れ際に彼らはこっち見て笑顔で手を振ってくるんですよ。

別れ際のその感じが僕は嫌なものではなかったし、なんとか対話はできたな、と思ったけれども、彼らのブログにアクセスして発言を見ると、相変わらず中国人や在日コリアンに対するめちゃくちゃひどいヘイトスピーチが並んでいるわけですよ。「これは何なんだろう?」ということをすごく考えましたよね。

あとは、去年の9月の終わりに「表現の自由に関する国内フォーラム」というイベントもあったんですが、その時も大荒れでした。

―― どんな感じだったんですか?

津田:このイベントには反対派も結構来ていたんですけど、発言の機会が全然与えられなかったということでフォーラム終了後に、壇上に反対派がワーッと押しかけて騒動になってしまったんです。最初はアーティストがずっと対応していたんですが、キリがないから僕が引き取ったんです。

めちゃくちゃクレームを入れてくる男性とその後40分ぐらい会場で話したんですが、それをずっとNHKがカメラで撮っているという状況でした。東京から来た人だったんですが、「在特会のヘイトスピーチはダメだけれども、天皇の写真を燃やす(※)のもヘイトスピーチだ、だから認められない」という立場の人で。

:「昭和天皇の写真を燃やした」として猛批判を受けた大浦信行氏の映像作品『遠近を抱えて partⅡ』だが、その経緯は誤解をもって伝わっていることが多い。もともとは大浦氏が1986年に昭和天皇の写真をコラージュした作品『遠近を抱えて』を富山県立近代美術館で開催された「富山の美術 '86」展に出品したところ、右翼団体からの抗議があり、県議会でも取り上げられたうえで図録が焼却処分となった経緯がある。

「表現の不自由展・その後」で展示された『遠近を抱えて partⅡ』には、確かに「昭和天皇の写真をコラージュした『遠近を抱えて』」が燃やされるシーンが挿入されているが、天皇制を批判する意図は全くなく、映像の主人公である従軍看護婦の女性に抱え込まれた「内なる天皇」を「昇華」させていくシーンであると本人は説明している。

それらの経緯については月刊『創』編集長の篠田博之氏のYahoo!ニュース個人記事「「表現の不自由展・その後」中止事件と「天皇の写真を燃やした」という誤解」、「「表現の不自由展・その後」で「天皇を燃やした」と攻撃されている大浦信行さんに話を聞いた」などに詳細に記されている。

話をしていくと少しずつその人のバックグラウンドが見えるようになってきて、彼はわざわざ東京から来たN国の支持者だったんです。ずっとメディア・報道に対して思うことがあって、お客様相談室に電話もしていたけど無視されてきたと。そうした中でNHKがその人にカメラを向けて喋ってもらったら、すごくうれしそうな反応をしていて。

その彼も、愛国倶楽部の人たちにも共通するのが、「自分たちの声を聞いてもらえていない」という不満だったんです。そのことは後になってもすごく考えましたよね。議論する以前の話として「自分の話に耳を傾けてほしい」というすごく切実な人がいるんだと。金成隆一さんが『ルポ トランプ王国』で描いたトランプ支持者たちと被るなとも思いました。

どうやら彼らの声を聞くことは、行為として重要な意味がありそうだ。しかし、彼らはネット上で常時聞くに堪えないヘイトスピーチをしているような人たちでもある。そのことでリアルタイムに傷ついているマイノリティたちがいるわけで、はたしてそんな彼らの声に耳を傾けることに道義的な問題はないのか――そう自問する自分もいる。自分の中でこのことはまだ答えが出ていません。


後編「影響力増す「ハッシュタグの政治運動」にはリアルの軸も必須。津田大介と「ウェブと政治」の10年」はこちら

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