EVENT | 2019/10/21

ロッテリアや台湾モスバーガーにも登場。「代替肉ハンバーガー」は日本市場に浸透するか?

オランダのベジタリアンブッチャーが開発した、大豆由来の「フェイクミート」を使用したハンバーガーが今年日本にも上陸。ちなみ...

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オランダのベジタリアンブッチャーが開発した、大豆由来の「フェイクミート」を使用したハンバーガーが今年日本にも上陸。ちなみに同社はユニリーバが2018年に買収している
© The Vegetarian Butcher Japan. All Rights Reserved.

取材・文:6PAC

関心を示す日本企業は少なくない

ベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義者)といった野菜中心の食生活を実践している人が多いことから、ヨーロッパやアメリカでは代替肉が注目を浴びている。日本でもアメリカのインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)やビヨンド・ミート(Beyond Meat)といった食品テクノロジーに特化したスタートアップ企業の名前を聞いたことがある人も多いのではないか。

インポッシブル・フーズは、同社が開発した代替肉を使った「インポッシブル・バーガー」を、アメリカや香港などのレストラン1000店舗以上で提供している。今年8月には、同社と提携した大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングが、「インポッシブル・ワッパー(Impossible Whopper)」の販売を全米で開始した。アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration=FDA)の認可も降りたことから、今後「インポッシブル・バーガー」がスーパーマーケットの棚に並ぶ日も近い。

バーガーキングの「インポッシブル・ワッパー」紹介ページ

インポッシブル・フーズ最大のライバルであるビヨンド・ミートは、ライバルに先駆けて今年5月にナスダックに上場した。同社の代替肉はすでにアメリカ国内の大手スーパーの売り場に並べられている。また、サブウェイ、ケンタッキーフライドチキン、マクドナルドなどの大手ファストフードチェーンが、同社の代替肉を使ったメニューのテスト販売を行った。

欧米の動きに追随するように、日本国内でも代替肉の潜在市場に関心を示している企業は少なくない。日本国内で代替肉はどのように普及していくのか。まだまだ未知数な部分の多い代替肉について、業界関係者の話を訊いてみた。

オランダの代替肉メーカー、ベジタリアンブッチャーと日本国内での独占販売権を結んでいる、株式会社ベジタリアンブッチャージャパン代表取締役の村谷幸彦氏は、日本国内でも代替肉は「2020~22年までには定着すると考えております」と語る。同氏は、「牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉に続く新たな肉のカテゴリとしての定着を目指しております。あくまで、日常的に肉を食べる人がメインターゲットになります」と続ける。

代替肉は「ベジタリアン、ヴィーガンだけのもの」ではない

ベジタリアンブッチャージャパン代表取締役の村谷幸彦氏
© The Vegetarian Butcher Japan. All Rights Reserved.

代替肉はベジタリアンやヴィーガンなど、“特定の人のための商品”という考えを変える必要があると指摘する村谷氏。そのためベジタリアンブッチャーの公式サイトでは、ベジタリアンやヴィーガンといったワードは一切使われていない。スーパーや小売店で販売する際、最初からターゲットを狭めてしまうからだ。“特定の人のための商品”ではなく、“今までにない新しいお肉”として代替肉を浸透させていくために、同社では商品をネット販売しているほか、Uber Eatsや出前館などのデリバリーサービスのみで営業するゴーストレストラン「The Vegetarian Butcher Delivery池袋店」をオープンした。11月には渋谷・新宿などでもオープンし、年内に10店舗程度の出店を予定しているという。

日本の大手ファストフードチェーンも、ベジタリアンやヴィーガンなどの菜食主義者向けというよりは、健康志向の延長線上で代替肉に注目しているようだ。今年5月には、ロッテリアが「ソイ野菜ハンバーガー」を発売した。

ロッテリアが今年5~7月まで期間限定で販売していた「ソイ野菜バーガー」

モスバーガーも2015年から大豆由来の植物性たんぱくを原料とした「ソイパティ」のメニューを展開している。さらに台湾のモスバーガーでは、今年からビヨンド・ミートの代替肉を使った「MOS Burger with Beyond Meat」を販売しているが、これについて同社の広報は「現地でのニーズに合わせて現地法人が独自に展開しているものです。日本国内における事業や施策とは関連性はございません」と説明する。それでも、日本国内での代替肉の導入については、「あらゆる可能性を視野に入れて検討しており、導入するとなればソイパティなどと同様に、多様化する消費者への新しい選択肢の一つといった位置づけになるかと思います」という。

モスバーガーのソイバーガーシリーズ

日本能率協会総合研究所の市場予測レポートによれば、世界の代替肉市場規模は2023年には約1500億円になるという。成長が見込まれる分野ではあるが、日本で代替肉をリードしていくのはどういった企業になってくるのか。この疑問を前出のベジタリアンブッチャージャパン村谷氏にぶつけてみた。

すると、「日本においては、大手外食チェーンや食肉業者が代替肉市場をリードしていくとは考えづらいです。理由としましては、代替肉の開発には莫大な費用と時間がかかるからです。そのコストを払うよりも既に先行している会社から仕入れれば良いので、彼らが代替肉市場に1から参入することはないです。アメリカのタイソンフーズくらいのグローバルネットワークを持つ企業であれば別ですが。現段階でも、日本国内の外食チェーンが工場にOEMの依頼をかけています。

また日本のスタートアップがリードするとも考えづらいです。クオリティの高い商品製造を行うインフラが海外と比べて整っていないのと、大量生産をしないと商品の製造コストが下がらないので、すでに一定数の販売先がある海外メーカーの方が有利だと言えるからです。

上記の理由を踏まえると、1.商品力が高い、2.資本力がある、3.グローバルネットワークを持っているという3点を満たす企業に優位性があると考えております。その点で考えると、現段階ではビヨンド・ミート、ベジタリアンブッチャー、インポッシブル・フーズに優位性があると考えております」という答えが返ってきた。

地球環境に優しいが、人間の体に優しいわけではない?

将来が有望視されている代替肉だが、有名企業が鳴り物入りで発売した商品でも確実にヒットする保証はないのと同様に、代替肉も将来一般的なものになるという保証はない。代替肉の一番のメリットは、牛肉の生産に必要とされる牧場・餌・廃棄物処理などが一切不要で地球環境に優しいことが挙げられるが、一方で栄養士などからは加工度合いが高く、バターやラードよりも飽和脂肪酸が多いココナッツオイルが使われているという声も上がっており、決して人間の体に優しいわけではないという指摘もある。また、今年5月の株式公開以降、好調な推移をしてきたビヨンド・ミートの株価に対しても、「豆乳やアーモンドミルクといった代替ミルクの市場規模ほど代替肉の市場規模は成長しないのでは」といった過大評価を危惧する声が聞かれ始めているという。本物の肉との価格競争力の問題(代替肉の方が割高)もある。

日本という国は、外国から取り入れた文化や商品を独自仕様に変換することがものすごく得意な国だ。今後、日本という国で代替肉がどのように根付いていくのか、はたまたまったく別の切り口の代替肉が日本企業から登場するのか、先行きは不透明だが数年以内には結末を見ることができそうだ。