EVENT | 2022/12/05

累計4億本超え ポケモンに並ぶゲームシリーズ『CoD』が成功し続ける戦略

※2022年12月7日更新(初出は2022年12月5日)
「Call of Duty」より
【連載】ゲームジャーナル...

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※2022年12月7日更新(初出は2022年12月5日)

Call of Duty」より

【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(19)

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ

2021年における市場規模が21兆円8927億円に達し、コロナ禍の巣ごもり需要が落ち着く中でも好景気が続くゲーム業界。そしてその好景気を牽引するのが、我らが日本のゲーム企業であることを多くの人は知っているだろう。

『エルデンリング』を1750万本売り上げたフロム・ソフトウェアに、「モンスターハンター」や「バイオハザード」シリーズの好調が続くカプコン、「FF」シリーズなどIPも充実したスクウェア・エニックス、そして言わずもがな、数々のヒットタイトルを生み出し続けた任天堂とそのパートナーたち。11月18日にNintendo Switch独占タイトルとしてシリーズ最新作の『ポケットモンスター スカーレット・ヴァイオレット』がリリースされると、わずか3日で1000万本を売り上げるなど「ゲーム大国日本」をますます印象付けた。

そんな「ポケットモンスター」シリーズと全く同じタイミング、同じ規模でヒットを飛ばしたものの、日本ではゲーム好き以外にあまり知られていないタイトルが存在する。それは、『Call of Duty: Modern Warfare II』である。10月27日にリリースされると、10日間で10億ドル(約1400億円)という驚異的なセールスを記録した。1本80ドルと計算しても1250万本の売上。ポケモンの大成功にも劣らない大ヒットだ。

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しかもこのヒットは今回だけの「まぐれ」ではない。「CoD」シリーズを所有するActivision-Blizzardは、2021年にフランチャイズ全体で4億本を売り上げたことを報告。これは株式会社ポケモンが発表する『ポケモン』シリーズの累計出荷本数、4億4000万本とほとんど同じ数字なのだから興味深い。つまり、「CoD」シリーズは「ポケモン」シリーズと、短期・長期どちらにおいても同等のゲームシリーズなのだ(IPとGaaSという点で異なるのだが、こちらは後述する)。

日本で「ポケモン」の名を知らない人はいないだろう。少年少女はもとより、世界中のビジネスパーソンもその影響力と価値を無視できない存在になっている。一方、「CoD」は日本でまだゲーマー以外に馴染みがないことから、名前ぐらいしか知らない人も多いかもしれない。今回は現在もなお快調に売れ続け、アメリカを代表するビデオゲーム「CoD」の魅力とその人気の秘密に迫る。

1年に1本リリースされる脅威の開発ペースとその仕組み

「CoD」シリーズの歴史は思いのほか短い。2003年にシリーズ一作目の『Call of Duty』をリリースし、2007年にはフランチャイズの方向性を決定づける『Call of Duty 4: Modern Warfare』をリリース。以降、およそ20年の歴史の中で累計4億本を売り上げるシリーズへと成長する。1996年にシリーズ一作目である『ポケットモンスター 赤・緑』が発売し、26年の歴史を誇るポケモンと比べてもやや短い。なんせPS2発売よりも後に誕生したフランチャイズだ。

ただし、短い歴史に反してシリーズの本数は膨大で、ナンバリングタイトルだけでも19本。1年に1本ペースで販売し続けていることがわかる。ポケモンシリーズでさえマイナーチェンジを除けばほぼ3年に1本ペースなことを鑑みるに、大作ゲームとしては異例の開発ペースだ。もちろんクオリティも申し分なく、そうでなければ19年連続で売れ続けるはずもない。ではどのようにこの多産を維持できているのか。その秘密は「CoD」独自の開発環境にある。

まず前提知識として、北米のゲーム開発は日本と異なる。フランチャイズなどの販売権利を持つパブリッシャーと、彼らの元でゲームを開発するディベロッパーの二社に分かれてゲーム開発を行うのが主流だ。そして「CoD」シリーズの権利はActivision-Blizzardというパブリッシャーが所有しており、その下では何とInfinity Ward、Treyarch、Sledgehammer Gamesの3つのディベロッパーがシリーズを作り続けている。つまり、1年に1本という破格の生産ペースは、3つの会社がそれぞれ3年ごとに1本作るというサイクルを回すことで成立している。当然ながら、こうした作り方自体珍しく、まして1本あたり平均2000万本売るフランチャイズにまで成功した例はほとんどない。

ゲーム内容自体も、こうした開発手法を見越してか、かなり手広く用意されている。まず「CoD」はFPS、つまり一人称で銃を撃つゲームで、これは北米のゲームとしてメジャーなジャンルだ。その上で、「CoD」は1人で楽しめるストーリーモードの〈キャンペーン〉、オンライン上で他のプレイヤーと競い合う〈マルチプレイ〉、同じくオンライン上で他人と協力しながらミッションをこなす〈Co-op〉の3モードを用意(※)。ちょうど任天堂の『スプラトゥーン』と同じように、幅広いプレイヤーが楽しめる設計ながら、同時に作る側も分業しやすい設計になっている。

(※)Co-opはシリーズ5作目『World at War』から

この1年に1本という脅威の開発ペースには、様々なメリットがある。何よりも大きいのは、単純接触効果で、毎年クリスマス前になると「CoDの季節が来たな」とゲーマーたちに印象付けられる点だ。これはAppleがiPhoneを毎年秋ごろに発表するのと同じで、季節の行事や祭りのように「CoD」の新作が発表され、購入し、プレイするサイクルを形成できる。

加えて対戦ゲームであることから、YouTube、Twitchなどインターネット上の動画コンテンツとの相性も良い。Syndicate(YouTube登録者数970万人)やDrDisRespect(同421万人)のようなインフルエンサー、更にはNBAプレイヤーの八村塁などスポーツ選手もプレイしている。こうしたオンライン・オフラインでの「CoD」への熱を絶えず維持し続けている。

IPビジネスとは違う、リアルな「銃」による戦い方

シリーズこそ長く続いているものの、ゲームデザインは「FPSである」「1人用、対戦、協力の3モードがある」といった点においてシリーズを通して大きく変化していない。厳密には作品ごとに「近未来を舞台にSF的なガジェットが使える」「ユニークなスキルを持った兵士を選べる」といった特徴が異なるが、これらのほとんどは続編に継承されることなく、あくまで「味変」感覚で楽しむように設計されている。

そうした変化のないゲームデザインの中で、一貫して「CoD」シリーズがこだわり続けたのが、ミリタリー的なフェティッシュ(嗜好)だ。元々「Call of Duty(召集令状)」のタイトル通り、シリーズでは一貫して現実・架空の軍隊の兵士として戦う背景が存在している。2003年の初代『Call of Duty』も第二次世界大戦を舞台に、連合国軍の兵士としてナチスドイツと戦う内容で、最新作『CoD MWII』も中東を舞台に対テロ作戦に挑むストーリーが背景にある。

従って登場するキャラクターは、ほとんどが軍服を着た見るからな兵士であるし、舞台も時代によりけりだが、中東、ロシア、ヨーロッパなど現実に戦争が起きた(起きそうな)場所が多い。日本のゲームと比べるとその差は一目瞭然で、日本の大作が大なり小なりアニメ・マンガ的な想像力を引用しているのに対し、「CoD」は徹底してフォトリアルな作風で一貫しており、美少女もマスコットもほとんど登場しない。

代わりに、ゲームに「味気」を足しているのが、リアリティにこだわった「銃」だ。そもそもFPSである以上、プレイヤーは主人公と同じ目線(一人称)を共有するので、自分が操作する主人公キャラクターではなく、その主人公が両手に握る銃に注目し続ける。最新作『CoD MWII』では主に実銃そっくりの銃が無数に登場し、さらに10種類以上のパーツで改造したり、無数にあるペイントやキーホルダーによって飾り付けることもできる。射撃、装填、動作チェックに至るまで描写が作り込まれており、使うほどに愛着が湧く。

「ポケモン」と比較すると、当然ながら世界観、フェティッシュという点では大きく異なる。童心に抱くファンタジーが実体化したものがポケモンなら、人命を奪い合う戦場をギリギリのリアリティラインで戯画化したのが「CoD」である。そのファンタジーの想像力から生まれたポケモンたちがゲームから離れ、グッズやカードゲームなど別の媒体で「IP」として活躍する一方、あくまでAR-15やAK-47など各国の軍隊で実際に配備される銃(あるいは、それに限りなく似た架空の銃)では「IP」的な広がりはあまり期待できず、実績としても乏しい。こういった市場での広がり方は、ポケモンシリーズと大きく異なる点だと言えるだろう。

GaaS化を成功させた「Warzone」と「CoD:Mobile」

Photo by Alexander Cifuentes on Unsplash

これに対し、「CoD」の大きな強みがサービスとしてのゲーム、GaaS(Game as a Service)戦略だ。GaaSとは近年のゲーム業界のトレンドで、店頭などでパッケージを5000~9000円程度で購入するコンソールゲームと異なり、オンラインを介して無料でゲームを提供し、ゲーム中でさまざまなアイテムを有料販売するビジネスモデルだ。

「CoD」にはGaaSとしてコンソール・PC向けに提供するバトロワタイトル『Call of Duty: Warzone 2.0』と、モバイル向けに提供する『Call of Duty: Mobile』の2作が存在しており、前者はリリース後5日で2500万人(アップデート前では最大累計1億人)のプレイヤーを獲得、後者は6億5000万DLを達成するなど、極めて快調なペースで規模を拡大している。

「ポケモン」にもARゲームとして今も遊ばれ続ける『ポケモンGO』があるものの、こちらがあくまでポケモンIPを使った他社(Niantic)独自の作品である。それに対し、『Warzone』も『Mobile』もあくまで「CoD」シリーズの延長線上である点が興味深い。『Warzone』は『Apex Legends』など今流行の「バトル・ロワイアル」ルールとして独立させたもので、『Mobile』も本来コンソール・PCで展開された歴代「CoD」のマップ・ルール・武器をそのままモバイル版として輸入したオールスター的な作品だ。『ポケモンGO』と異なり、2作はゲームデザインの多くを本家「CoD」と共有することから、新しいサービス・デバイスにも「CoD」を拡げる目的の展開とも考えられ、GaaSの解釈でも両者は対照的だ。

CoDフランチャイズは誰の手に?

現状、国内では日本のビデオゲームのヒットが話題を集めているが、アメリカからコンソール、PC、モバイルと多角的に成功を続ける「CoD」の存在には、今後も注目する価値があると言えるだろう。

そして現在、「CoD」は今大きな局面に立っている。何故なら「CoD」の権利を持つActivision-Blizzardが、あのMicrosoftに687億ドルで買収されると2022年1月に発表されたからだ。MicrosoftはXboxブランドを筆頭に、任天堂やSIEと競合するプラットフォーマーだ。この買収により、Xbox、PS、PCの3ハードで展開されてきた「CoD」フランチャイズは、Microsoftが独占するのではないかと噂された。

これに対し、待ったをかけたのがSIEだ。そもそも買収の規模が大きすぎるあまり、本件が市場の独占にあたらないか、英国競争市場庁(CMA)やアメリカ連邦取引委員会(FTC)によって調査をされていた。とりわけMicrosoftの直接的な競合であるSIEは「独占によるゲーマーへの不利益が顧みられていない」と批判し、それに対してMicrosoftは「少なくともあと数年の間はPSにも『CoD』を提供する」と主張した。かくして両者の主張は平行線をたどり、FTCら行政の判断を待っているのが現状である。

一度Microsoftによる買収が成立すれば、高い確率で「数年」の後、累計4億本のポテンシャルを持つ「CoD」フランチャイズはMicrosoftが独占できると考えられている。そのとき、「CoD」を目当てにXboxブランドの注目が一層集まるのか、むしろPSゲーマーが離れることで「CoD」ブランドが失墜するのか、今後の展開にも注目が集まる。

※12月7日にMicrosoft GamingのCEOであるフィル・スペンサーは、同買収が完了後の「Cod」シリーズの提供に関する10年間の契約を任天堂と行ったことを公表した。またValve社が運営するゲーム販売プラットフォームSteamでの配信も継続するとのことだ。

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