第5回/「解説系」壁面グラフィックの構築手法(全7回)
これまで、販促空間における壁面グラフィックのデザイン手法について、様々な視点からお伝えしてきた。これらの考え方を踏まえつつ、今回は何らかの解説を行うために書き込む「解説系」壁面グラフィックの考え方について説明をしていこう。
展示会ブース等の販促空間において何らかの説明を掲示しようとしたとき、そこに何を書き込むべきなのか悩んだ経験がある人は多いのではないだろうか。その多くが書き込みたいことがたくさんあるのに書ききれない、書き込んだのはいいが、ごちゃごちゃとして雑多な印象になってしまった。このような状況に悩んでいる方は想像以上に多いはずだ。
では、どのようにすれば伝えたいことを相手にしっかりと伝えることができ、かつ見映えのよい壁面デザインを作り上げることができるのだろうか。
来場者は想像以上に「読んでくれない」
まず、はじめに知っておいていただきたいことは、来場者は想像以上に「読んでくれない」という点だ。これは展示会への出展経験が豊富な人ほど共感してくれることだろう。より多くの展示ブースを見たいと考える来場者、また、出展社に「つかまりたくない」と考える来場者は、壁面に記載した様々な解説をじっくりと読んでくれることはほとんどない。長くて10秒と言ったところだろう。もし、じっくりと読んでいる来場者がいた場合には、ほどなくして出展社スタッフが声を掛けることになり、実質「長くは読めない」というのが展示会場での現実だ。そのため、壁面グラフィックをデザインする際には、出展社スタッフが近くに立っている場合、又はスタッフが敢えて立たない無人の場所なのかによって、デザインの考え方は異なってくる。このことは連載第2回において説明を行った。
この「来場者は基本的に読んでくれない」ということは、壁面グラフィックを考える上での重要な「前提条件」になり、特に解説系壁面を考える際にはこのことをベースに考えを進めていかなければならない。
「伝える」を目的にして壁面グラフィックを考える
では、どのようにすれば来場者は読んでくれるようになるのだろうか。そのためには、その壁面に書き込もうとした「目的」を改めて見直すことで突破口が開けてくる。多くの人は、壁面に何かを書き込もうとするときに、その記載範囲に入るだけ何かを書き込もうとする。このような場合、「そこに書き込むこと」自体が目的になってしまっていることが多い。しかし、よくよく考えてみてほしい。大切なことは「書き込むこと」ではなく、そこに書き込もうとした内容を相手に「伝えること」であるはずだ。このように考えると、何も「壁面に書き込んだ内容だけで伝える必要はない」という考えに辿り着く。つまり、壁面に記載している内容の他に、手元に日頃営業活動の際に使用しているパワーポイント等の資料があれば、それでも十分に説明ができるはずだ。また、複雑で重要な図や、必ず覚えておいてほしい項目などは、コピー機で出力しておき、「配布資料」として配ってしまってもいいだろう。
壁面グラフィックを考える際、つい無意識のうちに、PC上の2次元で考えてしまいがちになる。しかし、壁面に記載した項目だけでなく、手前に展示台を設置し、そこに「手持ち資料」、「持ち帰りの資料」等を置くことによって「全体的な発想による工夫」を行えば、十分に「伝える」ということは可能となる。むしろ壁面に無理やり多くを書き込むよりも訴求効果が高くなる可能性がある。解説系壁面グラフィックでは、この「伝えることを目的として考えること」が出展の成果を出すために大切なこととなる。
「5つの項目」を押さえて壁面構成を考える
では、具体的に「解説系壁面グラフィック」をデザインするためには、どんなポイントを押さえればいいのかを解説していこう。図に記載している5つの項目は、「伝える」という結果を出すために是非とも行ってほしいポイントだ。
まず、1つ目は「遠くから主旨が読めること」。これはその壁面の前に来場者を「引き寄せるため」に必要な重要な施策となる。壁面にどんなことを書き込んでも、そもそもその壁面に近づいてきてもらわなければ説明をすることも、読んでもらうこともできない。そのために、人の「頭より上」に、「その壁面に何が書かれているのか」、その要旨を端的に記載しておく必要がある。頭より上、の意図はブースの外からでも読みやすいことと、ブースの中が人でいっぱいだとしても頭の上に記載してあれば読むことができる、という意図がある。この「遠くから何が書いてあるのかが分かる」ことは、ブースにおける全体キャッチコピーと同様に、販促空間が集客の結果を出す上でかなり重要なポイントとなってくる。
次に押さえておいてほしい項目は、壁面に様々なことを記載する段階で、「高さ方向で記載する内容を書き分ける」という点だ。これは第3回で詳しく解説を行った。壁面の目の前に立った時、壁面上部に目線を向けることはほとんどない。その反面、顔の近くにある壁面部分は読みやすくなる。そのため、「人の頭を中心とする範囲」に解説する本文を入れることが重要だ。このように「壁面の高さによって記載する内容を書き分ける」ことが次に大事な項目となる。
目線に近いエリアに伝えたいことを書きこむ。ここで重要となってくるポイントが、その壁面の近くに出展社スタッフが常時いるのかいないのか、という点だ。常時いない場合(敢えてスタッフが立たないエリア)だと、その壁面は「来場者に自由に読んでもらうための壁面」として、文章を多めに入れた壁面グラフィックとなる。一方で、近くに常に出展社スタッフがいる場合、「来場者に読んでもらうための壁面」ではなく、むしろ「出展社スタッフが解説に使う資料を掲示しておく壁面」となる。これは、連載第2回で解説した内容だ。もし、その壁面が「出展社スタッフが常に立っているエリア」の場合、ここにはその出展社スタッフにとって「説明に使いやすい使用頻度の高い図や写真、キーワードを掲示しておくこと」が重要になる。来場者がその場所(壁面)に寄ってきた際に、その「壁面の資料を指さしながら説明を行う」というイメージだ。
このような方法で壁面を構成していくと、来場者にとって分かりやすく、出展社スタッフにとって伝えやすい壁面構成となってくる。
決められた枠内に情報が入りきらない場合の対処法
さて、このような方針を取った場合、1つの心配事が出てくるかもしれない。それは「この方法でも結局限られた範囲に多くのことは書けないのでは?」という点だ。ここで、先ほど説明した「伝える」ことを目的にした「全体的な発想」が活かされてくる。伝えたいことを確実に来場者に伝えるためには、壁面だけでなく、日頃営業で使用しているパワーポイントの資料等を活用すればいいことを既に述べた。そのことから壁面に記載する項目は、伝えたいことを全て書き込むのではなく、「会話のきっかけ」になるような言葉や、「重要なポイントのみ」で十分と言える。壁面には最小限のことを書き込み、手持ちの資料で補足説明を行う。この手法だと、伝えたいことを確実に伝えることができる壁面になる。さらに、壁面に書き込む内容は最小限となるため、見た目のデザイン性も整えることが可能だ。クライアント(出展社)から、いろいろと書き込んでほしいという要望に対して、どう対処すればよいか悩んでいるデザイナーの方は是非この方法を試してほしい。
対応しきれない来場者への対応を備えておく
最後に、もう1点、私がこのような解説系壁面を考える場合にいつも書き加えておくことを説明したい。ブース内で接客をして、来場者が増えてきた場合、どうしても対応しきれず待たせてしまう場合がある。手持ち無沙汰になった来場者は、自然に離れて去ってしまう、そんな可能性が出てくる。そんな時のために、解説系壁面の下の方には、最小限の説明文を記載しておくようにしている。ほんの200~300文字程度だが来場者が「待ち状態」の時にさりげなく読んでいただけるように、その壁面の全体解説を書いておく。小さなことだが、わずかな文字数なので、ブース内にいる来場者がさっと目を通す場面も見受けられ、意外に効果がある、と感じている。
以上、解説系壁面グラフィックにおける5つのポイントについて解説を行った。次回は、これらの内容を踏まえて、より踏み込んだ壁面グラフィックの構成手法を解説してみたい。
※本記事は月刊 「Signs&Displays」 で2025年2月号から8月号までに掲載された記事から転載しております。
連載:展示会デザイナーが伝える販促空間の「壁面グラフィック」の手法https://finders.me/series/kqJTU8QIxo5Tr4Qqiu0/
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