第4回/販促空間における「キャッチコピー」の考え方(全7回)
販促空間の「壁面グラフィック」の手法。第4回は壁面グラフィックに書き込む「言葉」についてお伝えしていきたい。展示会に限らず、店舗や公共の場には様々な販促の場が存在するが、その多くに「言葉」は重要な役割を持つ。特に広告にあっては、コピーライターが重要な役割を果たし、秀逸な作品とも言うべき「コピー」を次々と生み出している。このような状況を見ていると、店舗などの空間に設ける「キャッチコピー」も、素人には考案ができるわけがない難しいものだ、と思い込んでしまうことだろう。
だが、販促空間におけるキャッチコピーは実際には簡単でとてもシンプルなものだ。それを今回は説明していこう。そのために、まず展示会におけるキャッチコピーについてお伝えしたい。
展示会における「キャッチコピー」の誤解
展示会において、言葉は集客上とても重要だ。展示ブースを考える際、会社名の掲示とともにキャッチコピーを掲げることとなる。しかし、展示会業界にはこの「キャッチコピー」について、そもそもそれ以前に「ブースに表示するべき言葉」について、大きな誤解が一般化している。それは、「ブースに掲げるべき一番のものは会社名だ」とする考え方だ。これは、集客上この表記が一番だ、と考えられているわけではなく、「展示会に出展するのだから、まずは会社名を表記しておかないと」という程度の慣習のようなものと言える。そして、何かしらの「キャッチコピー」を考案するにあたっては、「企業の理念」やブランディングのタグラインを書き込む、ということが一般的となっている。
「まず会社名を書き込む」。これの何が間違っているのか、とお考えの方もいるに違いない。もちろん、ブースには会社名は書き込むべき内容だ。しかし、よくよく考えてもらいたい。数多くの来場者が自社ブースの前を通り過ぎるのは、実際にはどのくらいの「時間」だろうか。また、周囲に多くの隣接ブースがある中で、自社のブースを「見てくれる」のは、どのくらいだろうか。おそらく、1小間・2小間といった比較的小規模のブースの場合、目の前を通過するのはわずか数秒のことだろう。さらには、自社の方を見てくれるのは、ぱっと見の「瞬間」の時間しかないはずだ。このような極めてわずかな時間に、「このブースに寄ってみよう」と思わせるためには、どのような工夫が必要だろうか。ブース形状や商品陳列の工夫の他に、「言葉としての工夫」に何かができるのではないだろうか。そして、それは「会社名の表記」ではないはずだ。
来場者にはじめに知ってほしいものは何か
「ぱっと見の瞬間」に見てほしい言葉とは何か。ここで、来場者の心理をしっかりと考える必要がある。多くの出展者がいる会場の中で、来場者がまず知りたい情報は、「そのブースが自分に関係があるかどうか」となる。つまり、「何を扱っているのか」「何がいいたいのか」がブースにまず表記するべき言葉となる。人対人であっても、初対面では「私はこのような者です」と自己紹介をする。それはブースになっても同じで、まずは会場内を歩いている来場者に向かって、「このブースはこのことについて展示しています」「当社は、これを扱っています」と伝えることが集客を考える上で極めて大事なこととなる。つまり、展示ブースに掲げる「キャッチコピー」とは、プロフェッショナルコピーライターが考案した「秀逸なコピー」ではなく、シンプルに「自己紹介」の言葉なのだ。展示ブースには、来場者を引き留めるためにまずはこの言葉を掲げることが重要となるのである。
キャッチコピーをどう導き出すか
では、そのような「キャッチコピー」を具体的にどのように考え出せばいいのだろうか。そのためには、日頃営業活動をしている担当者とともに、「1分間説明」を考えてみることをお勧めする。1分間説明とは、展示会場内において、目の前に理想的な見込み客が現れたと想定し、「1分間」という時間があれば何を説明するか、というものだ。これを出展に関わる面々で、早い段階で考えてほしい。営業担当者を交えてほしい理由は、彼らは日頃の営業活動の中で、そのようなことを繰り返しているはずだからだ。どのような言葉なら響くのか、経験があるはずだ。
1分間で話す言葉を作り上げたら、よくよくその中身を確認してほしい。大抵の場合、「キャッチコピー」はその中に入っている。目の前を通り過ぎる初対面の顧客に対して「当社はこのような会社でして・・」と話す、その言葉をそのままブースに掲げればいい、というわけだ。展示会をはじめとする販促空間におけるキャッチコピーとは決して難しい言葉ではなく、自分たちが日常的に口にしているごくごくシンプルな言葉なのである。
瞬間に理解できる「表記方法」を考える
どのような言葉が「キャッチコピー」になるのか。理解が出来たら次はその表記方法を考えてみよう。前項において、「自社が何を行っている会社なのか」、この言葉の目星がついたら、それをそのままブースに掲げればいい、とお伝えした。しかし、実際には少々工夫が必要となる。本稿のはじめに述べたが、広い展示会場を歩く来場者にとって(街中であれば通りを歩く客にとって)、ブースの前を通るのはほんの数秒しかない。そして、こちらを見てくれるのは一瞬となる。そのようなわずかな時間に「何がいいたいか」を理解してもらうためには、長々とした文章では視認してもらえないのだ。
通り過ぎる際の「一瞬」に、どうすれば視認してもらえるのか。私は日ごろのデザイン業務の中で出展者にはこのようにお伝えしている。「英語より日本語にしましょう。漢字よりひらがな。文章では伝わりません。極力短い文字数にしましょう」と。「キャッチコピー」と一般的に言われるものの、実際には文字ではなく「図」のようなものだ、と私の場合認識している。ブースの前を通り過ぎる一瞬で理解してもらうためには、例えば漢字ばかりがずらっと並んでも視認はしづらい。その際は、漢字の一部を強調したり、間に空白を開けるなどの工夫を行い、視認しやすい工夫をする。
このように、同じ内容の言葉であっても、その表記の仕方によって視認性は大きく変わる。それが最終的に集客の結果に大きな影響を与えることとなる。キャッチコピーを掲示する際には、そのような「言葉の形をした図」だと認識し、慣習に捉われず、「視認しやすい表記方法」を模索することをお勧めしたい。
どんな位置に「掲示」すればいいのか。
それでは、キャッチコピーの内容が決まり、表記方法が見えてきたら、次は「どのような位置に掲示すればいいか」を考えてみよう。キャッチコピーはより多くの来場者に一番に気が付いてほしい「言葉」となる。その関係上、なるべく遠くから気が付いてもらえることが重要となるはずだ。そのことから、まずは会場小間位置図をしっかりと見ることをお勧めしたい。周囲の小間の様子を考え、会場内のどの位置からだったら見えるのかを考える。これは前回の連載「デザイン-1」でも述べたが、ブースの高い場所に設置することが適切と言える。
また、もう1つのポイントは、「頭の上」という言葉も覚えておいてもらいたい。キャッチコピーは、頭より高い位置に掲示しておく、というものだが、その意図は、ブースの前が人でにぎわった時に、人だかりに隠れて見えなくなることがないように、という配慮である。せっかく来場者でにぎわっているのに、その賑わいが何なのかが分からなければ、大きな機会損失となる。来場者が賑わいを見て、「なんの人だかりだろう?」と疑問を持った際に気が付いてもらえるように。このことは集客上、重要な役割を果たすことになる。
この「キャッチコピー」を掲示する位置について、よくある誤解がある。それは、キャッチコピーは1か所にのみ掲示すればいい、という思い込みだ。来場者は自社のブースに対してどちらの方向から流れてくるかは分からない。その関係上、キャッチコピーは全方位からの流れに対処できるよう、複数個所に(同じ文言が)あっていい。一見、ありえないように思えるかもしればいが、来場者の立場に立って考えれば、決して間違った考え方ではない。
このように、「キャッチコピー」と表現はされるものの、販促空間における「言葉」とは実はシンプルなもので、その表記方法の方がはるかに難しい、ということがご理解いただけたのではないだろうか。
次回は、このような「言葉」を踏まえつつ、実際に「壁面グラフィック」をどのように構成するべきかを話していこう。
※本記事は月刊 「Signs&Displays」 で2025年2月号から8月号までに掲載された記事から転載しております。
連載:展示会デザイナーが伝える販促空間の「壁面グラフィック」の手法https://finders.me/series/kqJTU8QIxo5Tr4Qqiu0/
Product Planets by Signs&Displays (月刊サイン&ディスプレイ)
https://signs-d.ne.jp/
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