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足立 明穂
ITトレンド・ウォッチャー、キンドル作家
シリコンバレーで黎明期のインターネットに触れ、世界が変わることを確信。帰国後は、ITベンチャー企業を転々とする。また、官庁関係の仕事に関わることも多く、P2Pの産学官共同研究プロジェクトでは事務局でとりまとめも経験。キンドル出版で著述や、PodcastでITの最新情報を発信しつつ、セミナー講師、企業研修、ITコンサル業務などをおこなうフリーランス。
最近、企業からの相談案件が急増している『だれにでもわかるNFTの解説書』の著者、足立明穂です。NFTやメタバースの認知が広がっていくのは嬉しい限りなのですが、一方で、聞きかじりの知識で分かったつもりになって騙される人たちも出てきています。今回は、そんな怪しげなビジネスの一つ「メタバース原野商法」について説明します。注意すべき点についても説明したので、騙されないようにしてくださいね!
元祖メタバース原野商法のエクシングワールド
“原野商法(げんやしょうほう)とは、原野などの価値の無い土地を騙して売りつける悪徳商法のことをいう。1960年代から1980年代が全盛期であり、新聞の折り込み広告や雑誌の広告などを使った勧誘が盛んに行われていた。” Wikipediaより
今から15年近く前、2000年代後半に仮想空間「セカンドライフ」が流行りました。クリエイターが自由に家具や乗り物、建物などを作って販売できるという「経済活動」ができるということで人気を呼びました。それだけではなくセカンドライフ内のバーチャルな土地を購入し、賃貸や売却で利益を得ることも可能でした。セカンドライフで使われていたバーチャルな通貨はリンデンドルと呼ばれ、そのようにして獲得したリンデンドルを現実のドルと換金することが可能であることも、世界中の人々が興味を持った理由です。
事実、海外ではセカンドライフ内の土地を売買し巨額の富を得たユーザーもいました。中でもAilin Graefという中国人実業家はセカンドライフを通じて日本円にして1億円以上の利益を稼いだとも言われており、2006年にはアメリカのビジネス雑誌『Business Week』の表紙に同氏のアバターであるアンシェ・チェンが掲載されました。ビジネス雑誌の表紙をアバターが飾るというのは初めてのことで、遊びだと思っていたセカンドライフに大きなビジネスチャンスがあるということ、バーチャルの土地が売れるという分かりやすい表現が投資先として考えられるようになりました。

By somebody working for the magazine - Original publication: BusinessWeek magazine May 2006Immediate http://images.businessweek.com/mz/06/18/0618covdc.gif, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=36955760
しかし、バーチャルの土地といっても、その本質はサーバの中にあるハードディスクを借りるのとなんら変わらないのですが、何か新大陸を発見したかのような気持ちになってしまう人は多かったのです。そして、そこにつけ込む連中も出てきました。
日本では、セカンドライフ運営開始から6年後の2009年に「エクシングワールド」という仮想空間サービスが始まるというので、数年前から「仮想土地」の先行販売が展開されました。「渋谷」だの「品川」だの「新宿」だのといった全国約2600カ所のランドマークの地名が使われ、日本各地でセミナーも開催されました。セミナーではプロモーション映像が流され、夢のような世界が来ると熱弁していました。
当時、セカンドライフで知り合った知人が、そのセミナーにもぐりこんできたときの話では、テレビや雑誌などで取り上げられているセカンドライフ内の成功者・有名人を紹介し、さも知り合いかのように語ってたそうです。
参加者を見渡すと、明らかに仮想空間、セカンドライフのこともよくわらないどころか、インターネットやパソコンもよく分からないと思われる高齢者や主婦もいたそうで、目をキラキラさせていたそうです。
エクシングワールドは、紹介制度で紹介した人が申し込むとキックバックの報酬が入る仕組みになっていました。その効果で多くの人を集めることに成功し、2007年から2009年の間に、約2万5000人から91億円を集めるまでになりました。
しかしその後、実際のサービスはなかなか始まらず、ベータ版と称して別のサービスにログインすることで誤魔化していました。契約では、サービス開始されない場合は返金ということになっていたのですが実際は返金されることがなく、行政指導が入り業務停止へと追い込まれることに。裁判沙汰になりエクシングワールドの関係者から逮捕者も出るまでになったのです。
仮想空間というなにか新しいビジネス手法、バーチャルな土地という夢のような世界、フロンティア大陸のように先行投資が大きな利益を得るのではないかという思いで一気に広がったのでしょう。
この事件、知らない人も多いので、メタバースという言葉がひとり歩きしている昨今、同じようなバーチャル原野商法が出てきています。
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「今のうちに購入しておくと将来何倍にもなる」と言われたのですが……

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とあるSNSに「知人から『これから始まるメタバースがあって、企業参入も決まっているから、今のうちにメタバースの土地の権利を買っておくと儲かる』という誘いを受けました。どう思いますか?」といった投稿がありました。
先のエクシングワールド事件を知っていれば、すぐに怪しいと思うでしょう。しかし、投稿主は大学生。あの事件は10年以上前の話なので、20代、いや、30代でも知らない人は多いでしょう。当時、セカンドライフなどの仮想空間に関心を持っていない人からすれば、リアルな原野商法とバーチャルな原野商法と区別などつかないので記憶に残っていません。
単純なメタバースでのバーチャルな土地だけでなく、NFTとも組み合わさって「土地の証明書が発行される」「NFTマーケットプレイスで売買できる」とか、「土地の値上がりに加え仮想通貨の高騰もあるので、何十倍にも跳ね上がる」といった巧妙な説明がされているようです。
このような投資話にいきなりなるのではなく、メタバースやNFTの解説やトレンド紹介などのセミナーとして集客し、そのセミナーの最後で投資話として勧められることもあります。最近は、オンラインで簡単にセミナーが開催できるので、実態は見えにくくなりつつあります。
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どうすればメタバース原野商法などに騙されないで済む?
これから増えてくると思われる怪しいビジネスに引き込まれないためには、どうすればいいでしょうか?
メタバースなどをよく理解していればすぐに見抜けるかもしれませんが、初心者にはそんな知識もないので、ここでは誰でも分かる注意すべきポイントを3点、お伝えしておきます。
1.まだ始まっていないサービスはそもそも完成するかどうか分からない
「まだ公式には発表されていないけれど……」、「密かに開発されているメタバースがあって……」のように出来上がっていないサービスへの投資話は、かなり危ないです。もちろん、ベンチャー企業で頑張っているところもありますが、うまくいくかどうかなど誰にも分かりません。ベンチャー投資家の専門家であっても、「千三つ」と言うように1000案件に3件程度しかうまくいかないと言われています。ましてや、ハイテク業界の動向や技術情報、エンジニアの開発スキルなどについて判断できない素人にはリスクが大きすぎます。まだ、登場していないサービスに対しての投資は控えた方が無難です。
2.NFT、メタバース、Web3に「投資(ビジネス)」を絡めたセミナーは要注意
メディアでよく目にするので興味を持っている人が多く、また何かこれから新しいビジネスが急激に広がりそうなキーワードが、NFT、メタバース、Web3といった言葉です。これらをセミナーのタイトルに入れれば、かなりの人を集客でき、また投資やビジネスに関心のある方々が集まります。ところが、そのようなセミナーに参加してみると、中には途中から「NFTを買うにもまとまったお金が必要です」とか「メタバースの仮想の土地を買うにも元手が必要です」とか言い始めて、副業の話や少額投資の話に。最初から、その商材を売りたいがためのセミナーということもあるので要注意です。
3.サービスの魅力より「カネ儲けしよう」のメッセージを強調する
メタバースでのサービス運営がメインではなく、「この企業に一緒に投資しましょう」「有料会員を紹介してくれれば紹介料を払います」などと勧誘することで収益が得られるというパターン。昔からあるマルチ商法といわれる手法です。友達や知人に紹介して新たに会員になると収入が増えていくので、最初の段階で会員になった人は確かに収入を得ています。だからこそ、「自分も簡単にお金が入るのではないか?」と思ってしまいます。クラウドファンディングのように「開発費をサポートしてくれたらお礼にグッズを渡します」といったスタイルなら問題ないですが、「あなたも一緒にビジネスで成功して豊かな人生を歩みましょう」というようなメッセージが入っている場合は非常に危険です。実際には、新しい会員を増やすのも大変ですし、そもそも途中でその会社がなくなる、あるいは上層部が雲隠れすることだって起きます。どのような収益構造でビジネスが成り立つのか、今後何十年も続けられるビジネスになっているのかをよく見極めることが重要です。
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より面倒なのは「なんちゃって専門家」
ビットコインが広がりだしたころ、その内容がよく分からないので、にわか知識を仕込んだ「なんちゃって専門家」が増えました。NFTやメタバースなども同じく、「なんちゃって専門家」が増えています。中途半端な知識で教えているので、間違った知識が拡散されて、その結果、先のような怪しげなビジネスの被害者になることも。
「なんちゃって専門家」は、とにかく難しい言葉を使って煙に巻こうとします。カタカナ用語やアルファベット略語が多い。ただ、こういう人達は、それらしく専門用語を使ってはいるのですが、意味を理解できていない場合が多いので、「〇〇というのは、どういう意味ですか? よく分からないので教えてください」と質問すると、本人も理解していないので説明に詰まってしまいます。それを誤魔化すかのように、「知らなくても問題ありません。やっていれば分かるようになります」といった回答をするでしょう。
ではよくわからない情報に振り回されたり、騙されないために、私が「信頼できる」と考える人をご紹介します。業界の動向を追うのであれば、ご紹介する方々の発言は、ぜひチェックしておいてください。
国光宏尚氏
Thirdverse代表取締役CEO、FiNANCiE代表取締役CEO
非常に早い段階から、メタバースやNFTなどWeb3関連の会社への投資も行っており、業界動向を古くから知っている数少ない日本人の1人です。3月に『「メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)」を出版し、すぐに重版にもなりました。こちらの書籍も合わせて読んでおくとよいでしょう。
https://twitter.com/hkunimitsu
安宅 基氏(paji.eth)
Tokyo Otaku Mode共同創業者兼COO
日本のオタク文化を世界に発信する会社をやりながら、NFTやWeb3、DAOなどを実践しています。まずご自身で実践してから理解することを常にやっているので、体験から出てくる言葉はとても説得力があります。
https://twitter.com/paji_a
バーチャル美少女ねむ
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メタバースで活躍する美少女アバター。Eテレの「令和ネット論」にも出演し、また、近著『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(技術評論社)では詳細なデータに基づいた読み応えのあるメタバース論を展開しています。
https://www.youtube.com/c/nemchan_nel
伊藤穣一氏
千葉工業大学・変革センター所長
長年に渡って米・MITメディアラボ所長や同校での教授を務めた伊藤穣一氏は、最新の海外の情報についても発信しています。投資家でもあるので、ビジネス面からも技術的な面からも考察されている正統派の意見を知ることができます(なお2019年、MITメディアラボ所長時代に、複数の少女への性的虐待と児童買春で有罪判決を受けた実業家ジェフリー・エプスタインから資金提供を受けていたことが発覚したのち同職を含む複数の役職を辞任しています。その後日本でもデジタル庁の「デジタル監」への起用が見送られたこと含め、同氏の起用についてはさまざまな見解があることは付記しておきます)。
https://joi.ito.com/jp/
NFT、メタバースなどWeb3は、ツールであり使い方次第
詐欺のようなプロジェクトが増えてしまうと、Web3関連は下火になってしまい日本が世界から取り残されることになりかねません。日本政府も禁止しようとしているわけではなく、前向きに取り組もうとしています。
3月には、自民党の平将明議員が中心となって、「NFTホワイトペーパー案」を30ページほどにまとめました。ここには、広範囲に渡って現状の課題と政策・法律・税制に関する提言が書かれています。まだ、「案」の段階なので自民党内で検討し、国会に提出することになります。
また、日本政府もかなり本気の取り組みを検討していて、Web3を成長戦略として取り込むという可能性が高くなっているという話も聞きました。政府が動き出すと規制が入って、つまらなくなるという声もありますが、それよりも多くの人が安心して関われるようになることの方が大きいと思っています。そうしないとビジネスとして立ち上がらないですからね。
NFTやメタバースといったWeb3に関する用語は、なんとなくキラキラして最新の技術、新しいビジネス手法のように見えるかもしれません。しかし、これらは、あくまでもツールであって、使い方次第で面白いビジネスになることもあれば、人を騙す道具にもなります。だからこそ、NFTやメタバースがどういうものか、Web3と言われるものの本質がどこにあるのといった情報を正しく身に着けておくことが重要です。