BUSINESS | 2025/04/21

「目立つ」 展示ブースにしたくない。
「戦略的シンプル」 なデザインで
集客を行う考え方とは。

特集:「ありえない」 展示会ブース - 展示会デザイナーが伝える、集客デザインの手法 (第1回/全5回)

竹村 尚久 
SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役/展示会デザイナー

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わずか3日間で集客の結果を出さなければならない “デザイン業務”

今回から5回にわたって、私がこれまで展示会ブースデザインという領域で試してきたことについて解説していきたい。本稿をお読みの方の中には、B to B の商談会である展示会を訪れたことのある方、出展したことがある方は多いのではないだろうか。展示会の多くは、3日間という極めて短い期間のみ開催されている。出展社はそのわずかな期間で何らかのビジネス的な成果を出すことを目標とするわけだが、その舞台となる 「展示ブース」 をデザインするデザイナーは、そのような 「ビジネス的な成果」 を出展者に出していただくために、単にブースの設計をするだけでなく、「キャッチの言葉」 や 「商品陳列」、「壁面グラフィック」 の検討、さらには会期中の 「接客方法」 など、出展に関わる様々なことに対して出展社にアドバイスを行っている。限られた期間の開催であるだけに、展示会デザイナーに期待される役割は、ブースをつくることだけではなく、「展示会への出展を成功させること」 なのである。

わずか3日間で出展の成果を出すためには、どのようにその空間を構築すればいいのか。毎週のように展示ブースに関わる中で、これまで様々な経験をし、試行錯誤を繰り返してきた。その中には成功したものもあれば、当然失敗して猛省したことも多々ある。このような日頃の業務で得た経験や知識は、単に展示会だけでなく、店舗やショールームなど様々な販促空間に活用できるのではないか、と日頃から感じている。

そこで、この特集では、日頃のデザイン活動の中で実際に集客等の成果を出すことに成功した事例を基に、集客に効果がある具体的なデザイン手法、特に通常 「ありえない」 と思われるものを敢えてお伝えしていきたいと考えている。各回の記事は、これまでの展示会業界の慣習に照らせば、「いやいや、それはだめでしょう」 と言われるものばかりだ。特に展示会業界の経歴が長く、経験値が豊富だ、と自負する人ほど否定する気持ちは強いに違いない。しかし、本記事では、実際に自社設計のブースで試してみて、複数回成功したものについて述べる。これまで慣習とされているものが本当に正しいのか。考え方によっては実は最強の結果を生み出す手法になり得る。そんなことを記事にしていければと考えている。

初回となる今回は、昨今会場に増えてきた 「シンプルなブース」 について述べてみよう。

シンプルなブースが増えてきた理由

昨今、形態的にシンプルなブースが増えてきた。少なくとも、以前のようにブース製作にふんだんに金額をかけ、凝ったブースにする、ということはなかなか難しい状況になってきたのではないだろうか。これには社会情勢的な理由がある。展示会業界においても昨今の物価の高騰は大きく影響している。ブースを構成する資材の高騰により、これまでと同じような感覚でブースをつくることが出来なくなってきたのだ。ある設営会社に聞いたところ、ブースを構成する資材となる 「木の棒」 が以前は1本200円だったところが、今は400円を超えている、とのことだ。つまり、ブース全体の資材費が2倍近くになってきている。一方で、企業がブース構築のために掛けられる費用は必ずしも上がってはいない。そうすると設営会社は利益の確保が難しくなり、結果として華美な展示ブースを抑え、結果として 「シンプル」 なブースを出展社に対して提案し、作り上げる、という流れになる。

ここで多くの人は 「そのシンプルにつくったブースでは来場者を集められないのではないか」 と疑問や不安を感じるのではないだろうか。これまでの展示会では、多くの企業がブースを目立たせることによって集客を行うという手法を取ってきた。「できるだけ高さのあるブースにしたい」 「インパクトのある形にできないだろうか」 とはよくあるブースへの要望だ。そのような手法で集客を行ってきた慣習の中で、「シンプル」 なブースにして、本当に来場者が集まるのか。不安になるのは当然と言っていい。

シンプルな形状だが、ブース内部に滞留時間が延びるワークショップの場を作っている。壁面には、何を扱っているのかがシンプルに伝わる文言を分かりやすく表記している。

「シンプル」 が集客に成功する条件

結論を先に言えば、シンプルに製作したブースでの集客は十分に可能だ。いや、むしろ 「派手にして集める」 という手法でブースをつくる時よりも、「高い結果を出せる可能性がある」 と思っていい。

このことは、長く展示会業界にいる人ほど、にわかには信じがたい、いい加減にも感じる考え方だろう。もちろん、このことには条件が付く。それは、「ただシンプルなだけのブース」 では集客に失敗する、ということだ。より高い結果を生み出すブースは、様々なことを計算に入れてつくられた 「戦略的シンプル」 なブースだ。

戦略的シンプル。それは、ブース形状や展示台の位置、キャッチの言葉の内容やその表記方法など、全てのデザイン要素を来場者の 「心理」 を軸に構築したブースとなる。来場者に 「どう思ってほしいのか」 を起点として各部のデザインを考えているので、ただ闇雲に派手にする、目立つようにする、という抽象的なものではなく、全ての部分に 「意図」 がある、つまり 「戦略」 がある、余計な装飾を施さないデザインとなる。

シンプルなブースはこれまでも展示会場では時々見ることができた。その多くにデザイナーが参画しており、余白が多い、シンプルな出来栄えになっている。多くの空間デザイナーはシンプルが大好きだ。特に学校で建築デザインを勉強してきた者ほどその傾向が強い。だから、デザイナーがデザインしたブースは余計な装飾を廃し、極力シンプルに、そしてアーティスティックに作ろうとする。しかし、展示会では、そのようなデザイン性の高いブースが集客の結果を出すとは限らない。見た目は美しくても 「ただのシンプル」 では会場内を行きかう来場者を集めることはできない。

そこで、重要となるのが、「来場者の心理」 をしっかりと考え、ブースに反映することだ。来場者が会場内でどのように考え、どう動くのかを想定し、デザインを考えていく。結果を出すブースとするためには、このような細かな配慮が必要不可欠な事項となる。

ブースの奥に滞留時間が長くなる仕組みを置いておくことで、ブース内は常に賑わっている印象をつくり出すことに成功している。
賑わるブースを見て興味を持った来場者が自然にブースの中を覗き込むようになる。そこへ出展者スタッフがお声がけをすることで、自然に商談が始まる。

2つの 「ブースデザイン思考法」

このような来場者の 「心理」 を起点にしたブースデザインの手法を私は日ごろ 「空間デザイン思考」 によるブース、とお伝えしている。「空間デザイン」 とは本来その空間を利用する人の 「心理」 を考え、その心理を実現する空間を作り上げることを意味している言葉だ。展示会に当てはめれば、来場者が思わず近づいてみたくなる位置に展示台を設置し、気になるものを陳列して引き寄せる。ブース内にはつい長居したくなるような壁面とブース高さを持った空間を設定し、滞留時間を延ばす工夫をする。加えて、何を扱っているかを端的に伝えるキャッチコピーを考案し、自然に目につく位置に掲示、瞬間的に読める表記方法にする。これらの積み重ねが、出展者が望むターゲット層を確実にブースに引き寄せ、商談に結び付け、成果へとつなげる。

一方で、形態的な派手さで来場者を集める手法は、ターゲットとなる来場者の機微を捉えた精緻な検討というより、見た目的なインパクトによって集客をしようとする。この場合、ブースに集まるのは 「見込み客」 とは限らない。不特定多数を集めることとなり、仮に賑わったとしても、そこにどれだけ 「見込み客」 が含まれているのかはかなり曖昧だ。

このような 「目立つようにしてブースを構築する手法」 を、「オブジェ思考」 によるブース、と日頃説明している。これまでの多くのブースがこの手法でブースを構築し、集客を行おうとしてきた。もちろん、この手法が絶対的な間違い、というわけではない。例えば、出展者にとって会場内にいる全ての来場者がターゲットである場合には有効な手段となる。また、会場内での自社の小間位置がよくない場合なども、目立つようにすることはブースデザイン手法の1つとして十分にあり得るだろう。

戦略的シンプルブースが、従来の 「オブジェ思考」 によるブースと比べて、高い成果を出す可能性がある、という理由は、この 「空間デザイン思考」 によってブースをつくり上げるから、と言える。何の戦略もなく、ただただシンプルに、そしてアーティスティックにしただけのブースでは当然、集客の結果を出すことは難しい、と考えてもよいだろう。

一見真っ白で特徴のないシンプルなブース。しかし、形態はシンプルでも、展示台の位置、陳列方法、キャッチの言葉など、詳細な戦略を組み入れている。
商品をメインに置く展示台は通路際に設置し、通りがかる来場者の目に自然に入るようなつくりにしている。
商品の置き方は、商品そのものに視線がフォーカスするように、「背景壁」 を設置し、説明書きも加えている。その商品を見、手に触れることで 「滞留時間」 が延びる。
ブース奥には実際に体験ができる場をつくり、自然に 「滞留時間」 が延びる工夫をしている。これにより、ブース内には常に来場者がいる状況を作り出すことができるため、他の来場者がブースに近づきやすくなっている。

展示会に限らず、全ての社会的な業務は、対象となるターゲット層の心理など細かな機微を反映してこそ、質の高いものとなり、ビジネス的な結果の出るものとなる。このことについては、これまで展示会の経験が豊富な方も同意していただけることだろう。

これまで、展示会業界では 「目立つようにする」 「派手にする」 といった手法でしか集客はできない、と考えられる風潮が存在した。しかし、シンプルでつくられたブースが来場者をより多く集められるのであれば、それは出展者にとっても、設営会社にとっても、そしてデザイナーにとってもよい考えのはずである。そのためには、これまで以上に来場者の心理を緻密に考え、ブースに反映していく必要がある。

これからの残り4回は、この来場者心理をベースにしながら、様々な集客の手法、特に 「慣習的にはあり得ないこと」 について、解説をしていこう。

この記事は、展示会情報メディア 「イベスル」 の掲載記事
「「ありえない」 ブースデザインの工夫」 を展示会業界外向けに加筆・調整したものです。

竹村尚久
SUPER PENGUIN株式会社  代表取締役 展示会デザイナー/一級建築士

1970年生まれ。一級建築士。大学で建築を学び、ゼネコンにて設計業務に携わる。
独立後は、インテリアデザイン事務所として「ディーコンセプトデザインオフィス」を設立。その後、展示会ブースに特化した空間デザイン会社「スーパーペンギン」に組織変更を行い、展示会のブースデザイン専門の空間デザイン会社として業務を特化する。徹底した「来場者心理」を軸にした空間デザインの手法によりブースを構築。ブースデザインに加え、商品陳列手法、キャッチコピーの考案、会期中の立ち方・待ち方、DMの送り方に至るまでの展示会サポートの姿勢は、「デザイナーというよりコンサルタント」との評もあり、デザイナーによってキャッチコピー・商品陳列・立ち位置の設定まで行うのは、日本において唯一と考えられる。これまでの経験を基にした展示会セミナーは常に「満足度100%」を達成。現在、全国の自治体・中小企業支援団体だけでなく、多くの展示会主催者、代理店、設営会社等展示会業界関係企業までにも行っている。代表的な実績として、ギフトショーにおける「石川県産業創出支援機構ブース(石川県ブース)」「東京都中小業振興公社ブース」など、自治体による集合ブースが業界内で認知されている。いずれも、地方自治体が地元も企業を支援する出展形式のブースとなっており、ブースデザインだけでなく、出展対策セミナー、個別のディスプレイ指導を含む総合的な出展支援は、展示会業界でも類を見ない支援方法として、全国からの問い合わせが増え続けている。2023年に著書「集客できる展示会ブースづくり」を発刊。

SUPER PENGUIN株式会社
〒141-0021 東京都品川区上大崎3-10-50 SEED花房山406
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