経済産業省では、長期的・持続的な日本経済の発展のため、大学や、高専等の機関を中心とした研究拠点より、企業ネットワークのハブとして活躍している産学連携拠点を評価・選抜 (国際展開型と地域貢献型の2類型) する 「J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜事業」 を令和2年度より行っている。また、令和5年度より 「地域の中核大学の産学融合拠点の整備」 についての補助事業終了後から新たにプラットフォーム型としての選抜も始まっている。
令和6年度についても、令和5年6月25日から7月29日までの公募期間中、5件の申請があり、第6回目として地域貢献型1拠点が選抜された。
本連載では、新たに選抜された拠点およびプラットフォーム型の取組等を紹介する。
J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜制度 プラットフォーム型拠点~富山大学 軽金属材料共同研究拠点 先進アルミニウム国際研究センター
富山県はアルミニウム産業の集積地である。この地域特性を活かした研究拠点として、富山大学高岡キャンパスには軽金属材料共同研究拠点が設置されている。この拠点は、先進アルミニウム国際研究センター(Aluminum Research Center: ARC)を中心として、材料工学、特にアルミニウムに関する最先端の材料関連研究を国内外の研究者・技術者と共同して推進し、国や地域の産業振興に貢献することと、さまざまな人材育成の支援を目的に活動している。
また、ARCは、熊本大学先進マグネシウム国際研究センター(MRC)と連携し、先進軽金属材料国際研究機構(ILM)を設立して、全国共同利用・共同研究拠点としても活動している。ほかにも、「富山循環経済モデル創成に向けた産学官民共創拠点」 として、COI-NEXTにも採択され、産学官民が連携し富山県が抱える人口減少や産業の停滞、活力の低下等といった課題を解決し、日本有数の 「ものづくり県」 としての発展を促す取り組みを進めている。
オープンイノベーションの場としての軽金属材料共同研究棟
活動拠点である軽金属材料共同研究棟は、産学官融合を促進・強化し、人・モノ・情報が交わるイノベーション・コモンズとしてデザインされ、オープンラボに入居する企業、内外の研究者による 「オープンイノベーション」 の場として機能している。
全国から共同研究のために訪れた研究者や学生が滞在し研究を遂行できるほか、利用者が気軽に集い、情報交換やディスカッションを行う交流の場としてコラボスペース/コラボラウンジを備えている。また、地域企業等が入居してリサイクル等の共同研究を進めることができるオープンラボ等も設置されている。

アルミニウムリサイクルについての研究開発と人材育成
軽金属材料共同研究拠点は、富山大学の持つアルミリサイクル技術と情報技術を核にして、地域の産学官民が一体となって技術やアイデアを集結させることにより国際競争力を持った高付加価値リサイクルアルミ製品を創り出し、「循環経済型イノベーション都市」 へと社会を変革していくことを目指している。その実現に向け、次のような研究開発と人材育成に取り組んでいる。
研究開発においては、アルミニウム資源のアップグレードリサイクルに係る取組研究を起点として、アルミスクラップから作られる再生地金の利用の幅を広げ、二酸化炭素排出量が大きい新地金の利用を減らすことができるよう取り組んでいる。本拠点の強みとして、アルミリサイクルの各段階 (収集・選別・精錬・合金設計・押し出し加工・複合化) において、アルミ製品の回収~リサイクル研究~製品化を行うための産学官民の共同体制が構築されていることが挙げられ、課題解決のため一気通貫で研究開発を行っている。

また、アップグレードリサイクルは、いまだ開発されていない新しい技術であるため、本拠点でこの技術がスケールアップし社会実装することができれば、富山県のみならず世界のアルミ産業の発展や環境に大きく貢献することになる。また、研究開発にともなう地域貢献としては、富山県におけるリサイクルシステムと循環経済型社会を地域の産学官民の全ステークホルダーと共に構築し、アルミの環境付加価値を向上させ、「産」「学」「官」そして「民」の協働で、富山ブランドの高付加価値リサイクルアルミの100%循環を実現することで地域産業の活性化や新産業創出に貢献していくことを目指している。
人材育成の取り組みとしては、未来を担う次世代への良質な教育環境を提供するため、子供科学教室や、大学生・大学院生へのアルミニウム学の教育プログラムの実施、社会人を対象とした環境塾や技術者への最先端技術の講習などを行っている。
その活動の一環で行われた、市民協働でのリサイクルアルミを使ったアルミパーテーションの制作では、400年の歴史ある金属加工の街、富山県高岡市の中小企業の技術もあり、アルミ素材の幅広い表現方法を引き出した美しい仕上がりとなった。なお、このアルミニウムパーテーションは、大阪・関西万博において8月に開催される 「わたしとみらい、つながるサイエンス展 ~あなたは、未来をつくれる人~」 (主催:文部科学省)にも展示される予定となっている。

循環経済型イノベーション都市を目指して
軽金属材料共同研究拠点は、アルミからはじまる循環経済型イノベーション都市への変革に貢献することをビジョンに掲げている。このビジョンの実現に向けて、ターゲットを2つ設定しており、ターゲット1として「しごと」、ターゲット2としては「くらし」を位置付けている。「しごと」ではアルミ100%資源循環から地域経済活性化を実現させるための研究開発を目指し、「くらし」では100%循環ライフスタイルによる豊かな暮らしを地域の誇りにできる社会構築を目指している。
さらに循環経済型イノベーション都市の実現のため、2028年までに「しごと」では研究開発での実証や事業化を検討、「くらし」では人財育成、市民の意識醸成を行い、二酸化炭素の排出を450万トンの削減を目指す。そして、2033年までには社会変革を起こすため、「しごと」ではアルミリサイクル技術の市場展開、「くらし」では100%循環ライフスタイルの定着によって777万トンの二酸化炭素の排出削減を目指している。
また、本取組が成功した暁には、アルミリサイクル技術により輸入新地金の量を148万トンから74万トンまで削減することができ、経済効果約5900億円を見込んでいる。経済効果の内訳は、カーボンプライシング対応が約950億円、輸入アルミ削減で約3100億円、再生アルミの価値向上で約1800億円。富山県への経済効果も約850億円を見込んでいる。
その実現を目指し、必要な各要素技術に企業と研究者が参加し、研究開発課題を個別最適から全体最適へと進めるとともに、不可欠となる市民の協力を得るため、市民参加型のワークショップや公開シンポジウム、各種SNS等を使った意見交換を進め、社会を変えるための「ビジョン共有」を行っていくという。
“日本一資源をうまく使う街 富山”の実現に向けて
今後に向けて、先進アルミニウム国際研究センター長の柴柳敏哉氏は以下のようにコメントしている。「私たちは、富山にて地域の学術、産業、行政、そして何よりも市民の皆様と共に、役目を終えた製品を“ゴミではなくて、大切な家族と未来への贈り物”となるように活動します。まずは、アルミ製品のリサイクル技術を地域社会の基盤として根付かせ、大切に使い続け、決して捨てること無く再利用していく“アルミを賢く使い続ける街”の創出に貢献します。将来はアルミに限らず、私たちが使用する全ての製品・素材についても賢く使う仕組みを備えた街づくりに結びつけたいと考えています。“日本一資源をうまく使う街 富山”の実現に向けて、皆様の参加をお待ちしております。」

富山大学 軽金属材料共同研究拠点 先進アルミニウム国際研究センター
https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/
Jイノベ選抜拠点の記事一覧はこちら
https://finders.me/series/kqJTU6YwMDMwNTU
