CULTURE | 2021/12/15

「一般人は政府の思うようには動かない」。英・ガリア教授、オードリー・タン氏らが『防災ITイベント』で語る、コミュニケーションと教育の効用

文:赤井大祐(FIDNERS編集部)
フォーラムエイト、という会社をご存知だろうか?
1987年の創業以来、主に構造...

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文:赤井大祐(FIDNERS編集部)

フォーラムエイト、という会社をご存知だろうか?

1987年の創業以来、主に構造物設計や土木・建築設計を支援するソフトウェア・技術サービスの提供を行ってきた日本企業だ。

3次元リアルタイムVRソフトウェアパッケージの「UC-win/Road」をはじめ、バーチャルプラットフォームシステム「F8VPS」、他にも解析支援ソフトウェアや設計・CADシステムなど、一般の認知度こそ決して高くないが、B to B製品として、数十年にわたり業界内で絶大な支持を集め続けている。

UC-win/Roadによるシミュレーション画面 Forum8ウェブページより

そんな同社は、11月17日から19日にかけて、「FORUM8 DESIGN FESTIVAL 2021」を開催。

最終日となるDay3では、午前中に台湾からオードリー・タン氏、避難解析の世界的権威として知られる英・グリニッジ大学のエドウィン・R・ガリア教授らがオンラインで登壇した海外先進事例を紹介するセッションが行われた。午後のプログラムでは「国土強靭化とDXの最前線〜デジタル社会への実装へ〜」と題し、デジタル庁統括官国民向けサービスグループ グループ長の村上 敬亮氏、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 常務理事らが登壇し、DX政策の最前線と今後の展望について語られた。

さらに、フォーラムエイトの解析ソリューションのコンペティションである「第8回 ナショナル・レジリエンス・デザインアワード 各賞発表と表彰式」も行われ、盛況のうちにEVE(前夜祭)を含めた4日間の日程を終えた。

本稿では、Day3に行われたオードリー・タン氏等が登壇したオンラインセッション『DX時代のインフラ強靭化、防災ITの推進』の内容について紹介したい。

「8時間睡眠」と「民主的プロセス」

まず始めに、株式会社フォーラムエイト、代表取締役社長の伊藤裕二氏が登場。創業から34年間を振り返り、国内の3DCG市場においてトップシェアを誇る「Shade3D」や、建設業界に特化したクラウド型会計ソフト「スイートシリーズ」の展開など、日本の建設業界におけるDX化を支える企業としての成長を語った。

伊藤裕二氏

そして特別講演「DX時代のインフラ強靭化、防災ITの推進」がスタート。モデレーターとして建設ITジャーナリストの家入龍太氏が登壇となった。

講演は会場と各国をつないでのオンライン開催となっていた。左上から、オードリー・タン氏、今村文彦氏、エドウィン・R・ガリア氏、家入龍太氏

はじめに登場したのは、「台湾のデジタル大臣」こと、デジタル担当政務委員であるオードリー・タン氏。新型コロナウイルスの抑え込みに最も成功した国の一つである台湾の政治家として、「民主主義」の重要性を強調しながら「“人々のために”ではなく“人々とともに”、この困難を乗り越えていきたいと思います」とオープニングリマークスを始める。

いずれ訪れる次なる危機に対して、「デジタルを通じて発揮されるクリエイティビティを政策の運用などにも用いていく必要がある」としながらも、「まず市民を信じ、台湾を守っていかなければなりません。地震などに対しても、民主的なアイデア、プロセスを反映していきます」「我々は市民がデジタルへアクセスする『道』を作っていかなければならないのです」と、あくまで政府と市民が足並みを揃える民主的なプロセスによって、国家の運営を行っていくことを強調した。

オードリー・タン氏

ここでモデレーターの家入氏から「非常にお忙しい方だと思いますが、いつもどれくらい寝ているのでしょう?」とタン氏へ質問。今回のイベントを含めてさまざまな国で講演などを行う一方、台湾国内では市民やソーシャルセクターとの「対話」に多くの時間を割き、また日々の実務をこなすタン氏だ。当然睡眠時間を大きく削るハードワーカーであることが予想されたが、答えは意外にも「毎日8時間以上は寝ている」というではないか。

曰く「十分な睡眠がなければ、いつも通りのパフォーマンスを発揮できません。普段の仕事において、注意深く周囲のアイデアを取り入れることを意識しています。これはやはり睡眠あってのことです」とのこと。タン氏のタイムマネジメント能力、あるいは他者とうまく協業し、不要な負担を減らすコラボレーション能力の高さを物語るエピソードだ。

3.11で感じた津波検知の難しさ

タン氏のオープニングリマークスに続き、津波研究の第一人者である東北大学の今村文彦教授が登場。2011年の東日本大震災を例に、津波検知の難しさを語る。

今村文彦氏

なんでも今村氏によれば、地震発生後の津波を検知する「警報システム」それ自体は60年以上前から運用されているという。地震発生から3分ほどかけてその規模を計測し、津波の発生とその大きさなどを検知するというものだ。

ところが3.11の際は、地震発生直後には、3mと予測された津波だったが、実際にやってきたのは30mと、津波の大きさを予測しきれなかった。初動1分という早い段階での数値を採用したことで、マグニチュードの計測を誤り、津波を過小評価する結果となってしまったという。

「災害というのは、直後の情報のみでは全体を把握するに至らないんです。しかし早い情報というものは必要。時間が経つと精度は上がるが、避難が間に合わない、というようなことが3.11の課題として残った」と今村氏。情報の精度と避難指示などのスピードがトレードオフにある状況の難しさについて説明した。

一般人は政府が思ったように動いてはくれない

続いて登場したのは、避難解析の世界的権威として知られる、英・グリニッジ大学火災安全エンジニアリンググループのエドウィン・R・ガリア教授。「タン氏が8時間も寝ていることに驚いた」と、話を始めながら、まずどのような災害に直面する際も、何をするか心の準備が大切だと語る。

エドウィン・R・ガリア氏

そして、それを実行するために「堅牢な計画性」が求められる、とも。ガリア氏によればこれには「教育」と「訓練」が必要ということだ。「忘れがちですが、一般人は専門家や政府の官僚が思ったとおりに動いてはくれません。人がどのように自然災害に反応するかを考えたうえで、問題に取り組む必要があると考えています」と、データ解析に、人間の心理的な情報を加味する必要性を語った。

子供への防災教育が社会の強靭性を上げる?

ここで家入氏が新型コロナウイルスによるパンデミックをはじめとする「予測できないこと」への対策のコツについて、それぞれの意見を求める。すると、浮かび上がってきたのは「教育」という言葉だった。

まず答えたのはタン氏。「台湾では、コロナの感染拡大が始まる前から、小中学校などでマスクを配っており、感染予防に有効なインフラとしての認識を共有することができていました。それもあって、今回のパンデミックにおいても自信を持って市民へマスクの着用を推奨することができました」と、子供たちへの教育が後の対応をスムーズなものにしたと語る。

今村氏も、3.11の現場で「教育」の重要性を実感したという。当時、地域の小中学生らには、地震などが発生した際に高台へと避難する防災訓練や教育を事前に受けていたという。結果的に、子供たちが大人たちを巻き込んで率先して避難を行うことで多くの命が救われたということだ。

一方ガリア氏は、1930年代のイギリスでは、小学生の子供たちにガスマスクの付け方を教育したところ、子供から親へ自然とガスマスクの付け方が伝わっていったという例について話す。こちらも子供たちへの教育が期せずして社会の強靭化につながったエピソードだ。

また、ガリア氏は自身の専門分野でもある、災害時などに発令される「警報」についても語った。災害時に警報が鳴った際、それが何を意味するか市民が事前に理解出来ておかなければ意味がなく、さらに言えば、その日初めて訪れた観光客も、その警報、あるいは避難指示の標識がなにを意味しているのかを一発で理解できる必要がある、と話す。日本でも地震発生時に、自治体からのメッセージが街中に響き渡るも、結局一語も聞き取れなかった、というのはよくある話だ。外国語話者はおろか日本人でさえ理解できない警報はまだまだ改善の余地がありそうだ。

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