EVENT | 2023/01/30

2023年はゲーム業界に変化が求められる?ゼルダ、FF大作発売の裏で大手三社が直面する課題

2022年のゲーム業界は激動だった。大企業によるM&Aの連発、『エルデンリング』など国内ゲームの世界的ヒット、テックジャ...

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2022年のゲーム業界は激動だった。大企業によるM&Aの連発、『エルデンリング』など国内ゲームの世界的ヒット、テックジャイアントの頓挫などを鑑みれば、月並みの表現だがもはやゲームはエンタメの領域に留まらない「何か」になりつつあると言っていいだろう。では2023年のゲーム業界は一体どのように変化していくのだろうか。

2023年の表面的な出来事として、まずファンが長らく待望した大作が次々に発売されることが予測される。軽く思いつくだけでも『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』『Starfield』『FINAL FANTASY XVI』『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』『ホグワーツレガシー』などそうそうたる面々で、仮に予定通りに全て発売されれば、2023年は過去5年で最大の激戦となるだろう。

だがここで同時に考えたいのは、こうした大作が販売される裏側、つまり「売る側」であるゲーム企業がどのような戦略を取り、どのような課題に直面しているかという点だ。とりわけコロナ禍前後からゲーム業界における資本、人材、情報の流れが一気に流動化しており、それに伴って2023年はゲーム業界そのものも大きな変化を求められる年になると思う。

そこで具体的に2023年にどのような変化が起きるのか、今回は任天堂、ソニー・インタラクティブエンタテイメント、マイクロソフトというコンソールプラットフォームの三社に絞りつつも、「任天堂のハード」「ハイエンドコンソールの将来」「新興国の流入」という観点から予測したいと思う。

【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(21)

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ

注目点①:任天堂はSwitchに続くハードを生み出せるか

Photo by Alvaro Reyes on Unsplash

2017年、Nintendo Switch(Switch)が正式に発表したとき、まさかこのハードが世界の過半数ものシェアを奪うと、一体業界の誰が予測しただろうか。少なくとも2016年までの任天堂は、主力ハードであるWiiUが伸び悩み(最終的に1356万台)、頼みの綱である携帯ハードもスマホ普及の影響もあってかさほど伸びなかったことで、危機的状況にあったことに否定の余地はない。しかし、2017年にSwitchを発売してからというもの、結果的にSwitchは約1億1000万台、WiiUのおよそ10倍を売り上げ、据置機としては任天堂最大の成功となった

Switch成功の裏にあるのは、任天堂が独自に開発するゲームタイトルだ。日本でもトレンドとなった『あつまれ どうぶつの森』は約4000万本売れ、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は約3000万本、新規IPとなる『リングフィット アドベンチャー』も約1500万本の快挙となった。大半の企業にとって1000万本ですら極稀の大ヒットなことを考えれば、任天堂がいかに規格外のヒットメーカーであるか疑問の余地はない。

裏を返せば、Switchというハードはその豊かすぎるゲームソフトによって現在まで支えられ続けてきたのであって、ハードとしての価値は決して高いわけでない。発売当初こそ携帯機と据置機とをシームレスに「切り替え(Switch)」できる機能は画期的であったものの、ゲームハードとしてのスペックは高かったとは言えない。搭載されているNVIDIA社と共同開発したチップ「Tegra」はGoogle が2015年に発売したタブレット「Pixel C」に搭載されたものの改良版であり、特に近年進化が著しいGPU・CPU事情を鑑みると、時代遅れの評は否めない。

よって任天堂にはSwitchから新しいハードに舞台を変えることが期待されており、業界内では頻繁に「今年こそ”Switch Pro”が発売されるはずだ」という予測も飛び交っている。ただし、すでにPlayStation 5やXbox Series S/Xがぶつかっているような半導体不足はいまだ解決せず、インフレや人件費の高騰により、そもそも新しく製造ラインを設けることが難しくなっているのも事実。任天堂としても無論新型ハードが待望されていることは知っているはずだが、安定供給できる目処をどう立たせるかが大きな課題となっている。この「ハード問題」をどう解決するのか、任天堂は今、重大な岐路に立っている。

注目点②:ハイエンドコンソールの役割は今後どうなる?

Nintendo Switchの大成功によって相対的に苦戦を強いられているのがソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)およびマイクロソフト(MS)がそれぞれ展開するPlayStation 5(PS5)やXbox Series S/X(XSX)のようなハイエンドコンソールだ。2000年代からミドルスペックでありながら個性を一貫する任天堂と、ハイエンドに仕上げてサードパーティを奪い合うSIE・MSの対比は概ね平行線を辿っていたが、2020年に両者が発売したハイエンドコンソールの売れ行きは芳しくなかった。

もっとも、その主たる原因はコロナ禍と半導体不足による供給不足で、この2つが徐々に解決に向かうにつれ、売れ行きも伸びつつある。SIEは2023年1月にPS5の累計販売台数が3000万台を超えたと発表し、XSXも2000万台を超えたのではないかとVGchartzは予測している。ただし、いくら供給が回復したといえ、そもそも過当競争と言えるゲーム市場でトップシェアを取ることは難しい。

だからこそ、コンソール以外の部分で、戦略を立てる必要がある。MSは独自のサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」を展開。最新のゲームを含め数百本のゲームを、月額わずか850円からプレイできるサービスに打って出た。その上、Xbox Game PassはXSXのみならずPC、更にはクラウドを介したスマホでもアクセス可能。つまりXSXはあくまでMSのサブスク「サービス」にアクセスする一つの手段に割り切った大胆な判断を下した。

SIEもまた「PlayStation Plus」としてサブスクを展開する他、2023年にはVR用のヘッドセットとして「PlayStation VR2」を発売予定。2016年にリリースされた初代「PSVR」はあくまで実験的なエントリーモデルという印象だったが、「PSVR2」は4K HDRにアイトラッキング、3Dオーディオと、VR用ヘッドセットとして競合他社に劣らぬハイスペックぶり。スタンドアロンでないことは気がかりなものの、目下ライバルとなるMetaの「Meta Quest 2」や、近年注目を集めるPico社の「PICO4」を上回るポテンシャルを秘めており、XRから撤退を決めたMSと対照的にSIEの意気込みがうかがえる。

今後、コンソールのプラットフォーマーたちはレッドオーシャン化したコンソール市場だけで戦い続けるのではなく、サブスク、クラウド、XR、様々なハードやインフラに合わせて幅広くコンテンツを展開し、独自の市場を築き上げていくことだろう。その初動は2023年にもハッキリするはずだ。

注目点③:新興国による資本・文化の流動化

Photo by Alejandro Luengo on Unsplash

ここまで論じてきた対象が任天堂、SIE、MSであることからもうかがえるように、現状、スマートフォンを除くゲーム市場は日米が中心だった。しかし、すでに中国、韓国を中心にアジアの第三勢力がゲーム市場に本格的に介入し、新たな局面を迎えつつある。

中でも注目するべきは中国・テンセントの動きだ。元々テンセントはスマートフォン向けのカジュアルゲーム、オンラインゲームによって中国国内の市場を支配してきたが、2021年に新ブランド「Level Infinite」を立ち上げると、中国国外、つまりグローバル市場に向けて大々的に展開した。2022年には『勝利の女神:NIKKE』や『Tower of Fantasy』をリリース、今後も『Dune: Awakening』『SYNCED』などAAA級のローンチを控えており、中国は完全にグローバルかつコンソール・PC市場でのプレイヤーとして認知されている。テンセントの他にも、miHoYoの展開する『原神』は2020年にいち早く「中国産大作ゲーム」として大成功を収めている。

こうした中国のゲームはただ経済的な影響のみならず、中国神話や中国大陸の風景を活かした文化的影響も無視できない。「西遊記」の世界観を極めて写実的に再現した『Black Myth: Wukong』、アメリカが日本に侵略されたという設定を中国的な目線でコミカルに描いた『昭和米国物語』、また先述した『原神』にも「璃月」という、さながら仙郷のような世界が用意されるなど、中国ならではの想像力を活かしたゲームは今後も多数発表されるだろう。

もう一つ注目したい国が、サウジアラビアだ。サウジアラビアは潤沢なオイルマネーを用いてゲーム関連企業への投資を続けており、政府系ファンドのPIFが2022年に公的任天堂株式の5.01%を取得した他、2021年には格闘ゲーム等で有名なSNKが、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子によって設立されたMiSK財団により買収されている。これはサウジの中でも若い王族がゲームを愛好している他、根本的に若者が中心であるゲーム市場の成長を考えれば、合理的な判断だと言えるだろう。

この他、アジアや南米の存在感は年々高まってきており、彼らの資本・文化・人材によってゲーム業界はまた新たな変化を迎えることになるのではないかと考えられる。一方、ゲーム市場はますますの過当競争となり、既存の日欧米のゲーム企業は彼らのうちだれと戦い、だれと組むかを考える必要に駆られている。

結論:2023年のゲーム業界は多様化を余儀なくされる

近年のゲーム業界はコロナ禍の巣ごもり需要も相まってかつてない好景気に見舞われた。一方、コロナ禍に国際紛争と政情不安、世界全体ではインフレと物価高が続き、特に庶民は不景気に苦しんでいる。この影響はゲーム業界も無縁ではない。物価高により2022年にはPS5やMeta Quest 2、MSの各ゲームソフトの値上げが起きている。今後は生活苦を理由にゲームのような娯楽への支出を控える人が増えることは容易に想像できるだろう。ゲーム業界の展望を楽観視することはできない。

こうした状況を見据えた上でプラットフォーマーはXR、クラウド、サービス化など別の道を模索し、また新興国からの投資や進出も相まって、ゲームビジネスは今後ますます多様化していくだろう。もちろん、その中で任天堂のようにゲームの面白さ一本勝負で強引に突破口を作り出す例もあるだろうし、誰も知らないスタートアップが新しいゲームビジネスを作り出す可能性も十分ある。

2023年は数々の大作が目白押しだが、その背景で、恐らくプラットフォーマーは焦りを覚えている。そもそも大作が成功するのは当然として、こうした大作を発売し続けることが果たして正解なのか、新たなテクノロジーやプラットフォームとどう協業すればいいのか、次にイノベーションを起こすとすればどこなのか。こうした暗中模索から、ゲーム業界は変化を余儀なくされるのではないかと思われる。


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