CULTURE | 2022/10/27

1年で1000人リストラ…情熱と大金渦巻くゲーム業界の「影」と向き合う

【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(18)
エンタメ業界はいつの時代も若者の憧れだ。だが実際に働くとなると長時間労...

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下請けに徹する生存戦略も

最後に紹介したいのが、第9章「犠牲と解決策」だ。その章題通り、ここまで語られ続けた様々なゲーム業界における問題を解決するための各社の取り組みが紹介される。

特に興味深いものは、アウトソーシング専門企業のエピソード。大企業がプロジェクトごとに大量に社員を雇い入れ、それが終わると一斉に解雇するという一連のサイクルに囚われないために、あえて大企業の下請けに徹することで雇用を維持したまま安定した経営を可能にするという取り組みだ。

もちろん下請けである以上、自分たちで陣頭指揮を執って自由に作れるわけでないが、それよりも安定した給与と福利厚生の方が大切だというのは尤もである。

過酷な環境と生みの喜びに揺れ動くクリエイターたち

本書全体を通して感じたのは、創作とビジネスの両立の難しさだ。ゲームに限った話ではないが「便利なもの」「儲かるもの」ではなく、「面白いもの」「美しいもの」でビジネスを成立させることそのものが、まず難しい。何が面白く、美しいものかは全く定量化できないし、定量化できなければ予算も投じられず、現場は延々と働き続けることになる。また現場の中でも「面白さ」を巡って常に対立が起きかねない。

同時にそれは紛れもなく創作の醍醐味であり、実際どれだけ過酷な労働環境でもゲームを作ることを辞めない人間は多数いる。本書には無数のゲームクリエイターたちが登場するが(完全にゲーム作りを辞めてしまった人もいるものの)、その多くは次のステージで次のゲームを作ることを志す。哀れみなど不要、とでも言わんばかりに。

そうしたクリエイターたちの情熱を、一部大企業の経営者が搾取しているのも事実だろう。結局のところ、何故これほど簡単に社員を解雇できるのかといえば、すぐ代わりの社員を雇えるという確信があるからに他ならない。特に第4章「消えたスタジオ事件」、第5章「仕事中毒者たち」は本書でも最高に後味が悪い内容になっているが、それは大企業のあらゆる搾取にただクリエイターが耐えるか、祈るしかないからだ。

こうした創作とビジネスを両立する上での困難さを、実際に体験してきた無数のクリエイターから直接聞きだし、書籍にまとめたシュライアーの力量は本当にすさまじいものがある。大企業や有名クリエイターへの忖度は全くと言っていいほどなく、かといって偏ったアジテーションもない。極めて率直ながら誠実な報道に思える。

日本は無論、中国、韓国を始めとしたアジア、また南米にもゲーム産業は徐々に広がりつつある。こうした国々におけるゲーム産業は一体どのように成長し、また労働者の権利をどう守るべきか、今後改めて検討する必要があるだろう。


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