CULTURE | 2020/11/05

「対案なき野党」では自民党に一生勝てない。「リベラルな改憲」を目指す弁護士・倉持麟太郎が語る、健全なオルタナティブ政治のあり方

弁護士の倉持麟太郎氏の初単著『リベラルの敵はリベラルにあり』は、その内容をかいつまんで説明しようとするのが意外と難しい。...

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エリートサークルの集いでも同窓会でもない「政策議論の場」をいかに形成するか

―― 本書では、普段から市民同士が議論を深め、最終的には民間からの政策・立法提案を増やしていくための取り組みとして「カウンター・デモクラシー」の概念を紹介しています。確かにそうした取り組みは必要だと思うんですが、いざ興味を持っても何をどう動き出せばいいのかまったく検討がつかないなと。

倉持:そこがまだ難しいですよね。最近はオンラインのイベントも増えてるので参加しやすくなったとは思いますけど、自分たちがやっている「コクミンテキギロン☆しよう!」というイベントだけ挙げるのもなんだかなと。

左派がやっている勉強会はたくさんありますけど、問題は意見が同じ人しか来ていないということです。なんなら参加者の多くが顔見知りだったりして、異論が出ず「そうだ!」と同調して終わりになってしまうことが多い。本当は対立する意見をどうかき混ぜるかということが重要だと思うんです。

―― そうした党派性も少ない、無料または安価で参加できる優良イベントもあるとは思うんですが、大抵は大手企業やメガベンチャー社員、あるいは公務員といった層だけが参加している印象もあります。ある種のエリートサークルだからこそノイズ少なく貴重な情報が手に入るとも言えると思うのですが、本当はそこにあるようなエッジーな最新情報こそ、左派も含む多くの国民が知っておくべきだなといつも思います。

倉持:確かに意義ある活動をしている団体は多いんですが、本人たちが意識せずとも、どうしても雰囲気として「俺たち格好良いことやってるぜ感」が出てしまうので、入りづらいところはありますよね。ただ逆に僕が参加しているゴー宣道場も固定観念で敷居が高いと思っちゃう人がいたりする(笑)。

僕らがやっている「コクミンテキギロン☆しよう!」の紹介を少しだけすると、過去には石破茂さんとか下村博文さんとかも呼んで、毎回30人ぐらいでとにかく議論しまくるっていうことをやっていました。そうするとメディア経由ではわからない政治家の素顔も浮かんでくるし、お客さんは「政治集会は行きにくいけど、こういう感じなら行きやすいです」「自民党の人の方が話が面白いですね」と帰っていくんですよ。ちゃんと議論をするから。

同イベントはコロナ禍で休止状態だったが、11月15日に久々に開催される

一方で、立憲の山花郁夫さんとか枝野さんとかを呼ぶと、「あなたが言っていることは間違っています!」みたいな、お金を払って話を聞きに来る人を論破しようとしちゃうんです。エリートサークルの集いと左右シニア層の「エイエイオー!」だけしかない現状だと、あまりに取りこぼしてしまう人の数が多いですよね。

この前、宇野常寛さんと話してたんですけど、例えば現役世代の「NewsPicks」を読んだりする読者は、経済的には規制改革と成長戦略重視、安全保障は真ん中より少し右寄り、働き方とか男女平等みたいなイシューはリベラル寄りっていう人たちだと思うんですよ。それもエリートサークルに近いかもしれませんが。そういう人たちに向けて、「法律や憲法を今の時代にアップデートするのって面白くない?」とオーガナイズするやり方はひとつあると思うんです。

―― 「政治の話」とパッケージするのではなくて、ビジネスやカルチャーの話として展開していく方向性ですね。

倉持:そうなんです。さっき少し話した憲法改正の草案も、基本的にテック関連の話を中心に据えています。

例えば国家権力だけを統制するためだけにあった最高法規=憲法を、GAFAのような国家権力よりも強くなってしまっているかもしれないプラットフォーム企業に適用できるのかどうかとか。海外だと都市のスマートシティ化にGAFAが絡んでいるというプロジェクトがすでにあったりしますけど、それってもう地方自治じゃなくてプラットフォーム自治になるよねとか、今回のCOCOAの問題だって我が国のシビックテック団体のCode For Japanが主体で作ろうとしていたのに、Appleなどの巨大プラットフォームに押し切られて「本当にこれで良かったのか?」という状態になってるわけです。こうしたケースが増えてくると、国家対プラットフォーム企業の契約は、国際条約のように国会で議論しないとマズいんじゃないかっていうような話は、ちゃんと話せば刺さるはずなんですよね。

あとは「データ人格権」みたいな話もありますね。今は誰しもがスマホを持っていて、リアル空間にいる自分とは別に、何を調べたか何を買ったかという行動データで構成される、デジタル空間の自分もいるわけじゃないですか。それに合わせて広告が出てくるし、中国なんかではスコアリングをしていたりもする。これを憲法19条の「思想・良心の自由」の話に絡めると、1回目のクリックだけは自分の意思かもしれないけど、2回目以降はパーソナライゼーションが働いてるから「あなたが好きだと思い込まされている情報」の空間に放り込まれている、つまり「ネット空間で形成された考えって、本当に真の自己決定といえるの? その形成過程を保護しませんか?」という言い方もできたりします。

こういう話って、わかりやすくしていけばワクワクできるじゃないですか。若手の憲法学者はそういう取り組みを進めてますけど、おじさんたちはそれを放棄している。昔のままでいいじゃないかっていう。自分のイベントに石破茂さんを呼んだ時にも言ってみたことがあるんですよ。石破さんは防衛オタクのイメージがあって、憲法改正=軍法会議で逃げたヤツは死刑にするみたいな短絡的な印象操作があるので、「石破さんこそ憲法改正論議で、テックとジェンダーを推すべきです」と提案したんです。「ちょっとよくわからないから止めておく」という感じではありますけど(笑)。

―― 憲法改正の議論については、倉持さんが作成しているような試案が複数出てきて、かつ好意的に受け入れられるんだなということがわかった時点でようやく立憲民主党なども重い腰を上げるのではないでしょうか。

倉持:もしかするとそうかもしれませんね。まずは東京から、弁護士やジャーナリスト、IT系の人たちにも登壇してもらう全員参加型のキャラバンもやろうと思ってるんです。あらゆるテーマでこういうものを作り「6割までは作ったので、9割に近づけるために皆さん参加して下さい」という感じでやっていきたいと思います。そのためには政党の力はまだまだ重要だし、選挙ではなくこっちにパワーを使ってくれよと思います。

結論が出ないまま本を書き終えてしまったところもあるので、今後も法律案を出してみたり、色んな人とのコミュニケーションを取ったりする中で、失敗をおそれず、過度に既存の「~イズム」という枠組みにもとらわれず、日本の2020年代にあるべきリベラリズムを模索し、第2弾も書きたいと思っています。


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