CULTURE | 2020/11/05

「対案なき野党」では自民党に一生勝てない。「リベラルな改憲」を目指す弁護士・倉持麟太郎が語る、健全なオルタナティブ政治のあり方

弁護士の倉持麟太郎氏の初単著『リベラルの敵はリベラルにあり』は、その内容をかいつまんで説明しようとするのが意外と難しい。...

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立憲民主党のどこが問題なのか

―― そのような成功体験を重ねるためのキーポイントはどこにあるのでしょうか?

倉持:短期的には「自民党政権のここが問題です!」と追求することにも意味はありますが、中長期的な視点で解決しなければならない課題が日本には数多くあるわけですし、自分の頭で考えて真に我が国や市民のためになる政策を出す必要があるということです。「政府・自民党がこう言ってるから我々はこう」ではなくて、議論の結果が自民党とまったく同じでもいいんです。むしろ「我々の案をパクってください」と言えばいいし、「提案を受け入れてくれました!」とアピールすればいい。

ただ正直、個人的には今の枝野さんが総理になるぐらいだったら自民党政権の方がまだマシだと思ってしまっています。

―― それはなぜですか?

倉持:自民党は第二次安倍政権になってから相当締め付けが強くなり独裁色が増したとはいえ、それでも一応党内でも議論しますし、世代交代という意味でも河野太郎さん、次に小林史明さんみたいな新しいプレイヤーが出てくるわけです。

一方、立憲民主党は「外部の勉強会に行くな」「行ったことも言うな」という感じですし、若手議員のSNSも締め付けがすごいです。国会でも上層部の方針と違うことを質問しようとすると、「テレビが入らない日にしろ」なんて言われてしまいます。馬淵さんのようなベテランですらそれをされるんです。国対が全部決めていて、世代交代もさせない。

―― 旧民主党はどうだったんですか?

倉持:10年ぐらい前の話ですし、彼らもまだ若かったっていうのもあるでしょうね。党内で議論も喧々諤々やって、場当たり的でも政策がいくつも出てきましたよね。

この前も合流新党ができるタイミングでNHKの記者が枝野さんに看板政策を聞いたら「医療従事者の待遇を上げることです」みたいな個別論から始めてしまう。「共生社会」というコンセプトがあるなら、どういう国家像があって、税と社会保障に関する考えがあって、あとはAIみたいなテックの話とかも踏まえた国家論があって、その下にこういう政策がぶら下がっていますという話なのに、医療従事者の給料アップが「看板」だったらバラマキと変わらない印象を与えてしまいかねません。

―― 若手といえば、9月には立憲民主党・国民民主党・無所属の超党派若手議員による政策提言「新党への緊急提言」が出ていましたが、あれはどう評価していますか?

倉持:結局マスコミでは減税の話しかクローズアップされませんでしたね。この提言作成に参加したメンバーと、毎週憲法の勉強会をやっていたことがあるんです。だけど全然意味がないと思って途中で参加を止めてしまいました。ただ来ているだけで、例えば山尾さんが「憲法議論をしましょう」と言った時に、「憲法議論を一切するな」と上から言われるんですが、若手が「議論ぐらいさせろ!」と詰め寄ってもいいじゃないですか。そういう時もずっと沈黙していて。

―― 加えてこうした提言を野党側が出すと、特にアンチ野党層からは「実現性はあるのかよ」と批判されることが多いですよね。

倉持:憲法でも同様に、「議席が揃ってないのに議論したってムダじゃないか」とすごく言われるんですよ。だったら議席で勝てないうちは自民党が出す法案の批判もするなよ、ってなっちゃうじゃないですか。実現可能性が無いと言われたら野党は何もできないですよね。

―― 一方で、実現性はさておきこうした提言で示される方向性が正しいものであるかと判断するのも中々難しいですよね。

倉持:最近ではシビックテック(Civic Tech)やクラウドロー(Crowdlaw)といった、一般市民による参加型で法制度のあり方を議論し提案・実行するという実例が諸外国でも増えてきましたが、これが当たり前の社会になってくれるとよいですね。いきなりパッと政策提言を出されても良し悪しがよくわからない人が多い、というのは仕方ないと思います。私は、そういう市民とプロとの中二階みたいなかたちで政策や法を翻訳する作業もしたいなと思っています。

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