CULTURE | 2020/08/27

新宿駅前を一変させた現代アートのビジョナリー 松山智一(現代アーティスト)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(15)

(撮影:松島徹)
加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索...

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ニューヨークで認められた実力を、社会へ再び還元する理由

――松山さんは、ニューヨークで街の壁に絵を描き始めるところから、独学でアーティストのキャリアをスタートされました。その頃からずっと、街や社会との関わりを意識されてきたのでしょうか。

松山:いや、最初は単純に選択肢がなかっただけでした。25歳でニューヨークへ渡り、デザイン系大学院のプラット・インスティテュートへ入学。その中でKAWSをはじめとする同世代のアーティストたちの姿を目の当たりにし、自分がやりたいのはアートだと心に決めたのです。とはいえ、何の知識も技術もノウハウもない。人に作品を見てもらうには、街の壁をキャンバスにするしかなかった。1軒1軒、描かせてほしいと頼み込んで描いた絵が、やがて街の人の評判を呼んで雑誌で特集を組まれ、それがナイキの目に留まってコラボレーションの話が舞い込んで、発表の場がギャラリーや美術館へと移っていった。そうやってどんどん敷居の高い場所へ登っていく楽しさは確かにありましたが、でもその一方で、作品を見せる対象が権威主義で閉ざされた世界になっていくジレンマもありました。

絵画作品より、『Heroic Jam in Me』(2018年)© Tomokazu Matsuyama

確かに、最初は自分が生きている同時代のカルチャーとしてスノーボードやスケートボード、ファッションなどの要素を引用していましたが、でも僕はストリートアーティストになりたかったわけではない。絶えず進化し続けることが要求され、より厳しい批評に晒されるアートの世界で新たな価値を打ち立てるにはどうしたらいいか。そう考え、古今東西のアーティストやクリエイターの作品を片っ端から参照する中で、サンプリングやリミックスといったヒップホップの手法にヒントを見出しました。浮世絵からピカソ、現代のハイファッションのテキスタイルパターンまでをマッシュアップし、自分だけの表現を作り上げる。そうやって磨き上げてきた自分のスキルセットやコミュニケーション力を、狭い世界のためだけに使うのではなく、もう一度社会へと還元したいと思ったのです。

ニューヨークを象徴する「バワリー・ミューラル」の壁画作品(2019年)© Tomokazu Matsuyama

――昨年には、キース・ヘリングやバンクシーも描いたことで知られるニューヨークで最も有名な壁画、「バワリー・ミューラル」を描くアーティストに抜擢されました。これまでは現代アートの世界で戦うための武器としてエディット(編集)的な手法を磨き上げてきたわけですが、さらに社会という広い領域を見据えて、新たな展開に乗り出したように思えます。

松山:おそらく多くの人は、アートは意識のチューニングの高い人にしかわからないという先入観を持っていると思いますが、僕はそれは間違っていると思うんです。だから、アートワールドの人々に対しては自分のロジックをさらに研ぎ澄ましつつ、社会に対してはより明快で力を持つものを提示していきたい。その上で重要なのは、スタジオで作ったものをただ外に置くのではないということ。常にその場所の環境との作用によって、アートを作り出すということを意識しています。

(撮影:松島徹)

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