CULTURE | 2020/08/27

新宿駅前を一変させた現代アートのビジョナリー 松山智一(現代アーティスト)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(15)

(撮影:松島徹)
加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索...

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巨大モニュメントとカラフルなグラフィックが映し出すもの

ーー広場を訪れてみて印象的だったのは、中央の彫刻作品はもちろんのこと、足元にあしらわれたグラフィックの鮮やかさが、この空間だけの文脈性を際立たせていることです。

松山:まず、この広場に使われている色は、ただの“にぎやかし”ではありません。すべて、周囲のビルや看板など、街自体をカラーパレットとしてサンプリングしたものです。中央には周囲の風景を映し出す鏡面のモニュメントを置き、その土台を覆うように植栽をしています。全体のコンセプトは、都会を意味する「Metro(メトロ)」に、自然を意味する「Wild(ワイルド)」と当惑を意味する「Bewilder(ビウィルダー)」を掛け合わせた造語「Metro-Bewilder(メトロビウィルダー)」。都市の喧噪と、その対極にある自然の融合を表す言葉です。

建築家や都市計画家はよく「都市の中の自然」という言葉を使いますが、ただ植物を植えるだけではそれは単なる「コンクリートの上の植物」に過ぎません。そうではなく、都会と自然という二律背反を人工的な図象や空間を通して共振させることで初めて、驚きや感動が広場の機能と一体化し、確固たる意味を放つはず。そのビジョンを建築家でsinato代表の大野力さんと共有し、デザイン設計面で協働しています。

広場中央に立つモニュメント『花尾』。キャラクター性を感じさせる命名には、訪れる人々に親しまれる存在になってほしいという想いが込められている。(撮影:松島徹)

——中央に立つモニュメントの巨大さにも驚かされました。足元の台座部分には、実は地下街の換気口が隠されているそうですね。

松山:台座を含めて高さ8メートル、花束を持った人物像です。名前は『花尾(はなお)』。手には花を、尾の形も花を象った人物の姿で、この場所を行き交う人々を受け入れ続ける不変の存在です。造形的には平面を複雑に組み合わせており、広場へ入る場所によって印象が大きく異なります。それぞれの平面には、仏像の光背(こうはい)や中世ヨーロッパのダマスク柄、現代のファッションのテキスタイルなど、古今東西の文様を透かし彫りしてあり、世界中から集まる多様な価値観や文化を象徴しています。

こうした表現を、お金を払って四角い箱の中で見るのか、世界中からあらゆる人々が訪れる場所で体感するのか。どちらにも意義があるでしょう。もちろん、僕自身もギャラリーや美術館で作品を発表し、アートの権威主義とアカデミズムの中で戦ってきた人間です。でもだからこそ、アーティストとして圧倒的に不利な状況をいかに転化させるかという気概で、このプロジェクトに挑みました。

(撮影:松島徹)

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