CULTURE | 2020/07/31

「こんな時期でもホストはやりたい放題」は本当か。行政・保健所とも連携を始めた「夜の街」コロナ対策事情を手塚マキさんに訊く

手塚マキ氏(写真中央)とホストたち。写真は2019年にドイツのアパレルブランドと音楽家がコラボした「NOTON &tim...

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悪者にされてしまったホスト業界のリアルな声

―― コロナ対策をしているにも関わらず、メディアなどから一方的に悪者にされてしまっていることについてどんな思いを抱いていますか?

手塚:一部メディアでネガティブな報道をされることで、来訪者だけでなく実際に働くホストまでも必要以上に不安に煽られています。

「仕事場」とひと口に言っても、人によってはお金を稼ぐ場だったり、人格形成の場として重要な位置づけをしていたり、さまざまです。

ビジネスの観点から言えば、100年に一度の世界的なパンデミックが起きて仕事にならないことは、仕方ありません。でも、それを個人に当てはめると、急に自分の仕事の価値が下がり、ないがしろにされることは本来あり得ないことです。

飲み屋にはいろんな価値がありますが、基本的には日常から逸脱し、本来の自分に戻れる場だと思っています。つまり、「ハレ」と「ケ」の「ハレ」の部分。昼間働いている人だってみんな夜の街に遊びにいくわけです。

それから、自分のダメな部分に向き合う場こそが、飲み屋。たとえば殺したいほど憎い上司を心の中では殺せても、実際には殺せません。その境目にあるのがハレの場である飲み屋だと思うんです。

ホストたちと開催した歌会。7月に刊行されたばかりの『ホスト万葉集』(講談社)にホストたちの魂の声が収録されている

―― リアルで騒いだり、楽しんだりする価値ってやっぱり大きいですよね。

手塚:なんでもかんでもルールに縛られるのは楽しくないということはみんな知っています。刹那的な時間、明日のことを考えない瞬間にアドレナリンが分泌される気がします。

最近、バイク好きの友人が、「スピードを出してスリルを味わう時、その瞬間にしか集中しなくなる」と言っていました。今いる瞬間に集中している時って、確かに気持ちいいなと思います。また、ある人は、「人間の幸せというのは、この瞬間に没頭すること」と言います。

飲み屋もそういう部分があると思うんです。自分の肩書きやこれまで生きてきた歴史を投げ捨てて、ただの1人の人間として扱われる瞬間が、実は意外とリラックスできるんですよね。

―― 都や世間から槍玉に挙げられたことに対して、現場のホストの心境はいかがですか?

手塚:新型コロナという未知の感染症に対して軽く考えている人、脅威に感じている人など、世間にはさまざまな意見がありますが、ホスト業界に照らしても、世間の考えるグラデーションとそう変わらないと思っています。

基本的にはホストクラブには「自ら稼いでやる」という野心のある人間が集まっていて、自分の価値が値踏みされるので、もともと楽な仕事ではありません。

自分が500円の価値なのか、500万円なのかを容赦なく決められてしまうので、メンタル的にも辛いし、毎日自分自身の価値を突きつけられる仕事です。普段からネガティブに捉えられやすい上に、コロナ禍でさらに世間からこの仕事をクソだと言われたら、ホスト自身にとっても「自分の価値とは一体なにか」について改めて考える機会になると思っています。

―― 最後に、今後の課題や注力していきたいことについて教えてください。

手塚:まずは地道に1人1人の意識を変えていく努力を続けていくこと。それから、最近感じているのは、ホストってだらしない子たちが多いとイメージされますが、公衆衛生だけはものすごく意識が高くなっていくとしたら、すごくイケてるなと思っています。

これまでのホストは、不健康が美学みたいなところがありましたが、これを機に衛生観念を高めて、健康なホストがたくさん増えるといいなと考えています。


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