壱岐島の美しい「砂」を売らなくて済むためにも、デザインの力を使ってほしい
ウジさんお気に入りの道
―― ありがとうございます(笑)。でも僕、何もない場所、結構好きだったりします。むかし秘境専門旅行会社に勤めていましたが、目的地に何もない場所は多かったです。もちろん、あるにはあるのですが、一般的基準で言うと何もない場所が多かったですね。
ウジ:いいですよね、何もない場所。
私、最近リノベーションやDIYにも興味が湧いてきていて…。抜け感のある「いわゆる何もない場所」にある廃墟施設とか空き家を見るとめっちゃ「萌え」ます。劇的ビフォーアフターみたいなことがすごくやりたいです。それも、あんまり費用をかけてなくて、知恵と工夫とデザインの勝利みたいなの(笑)。
―― 僕は最近奄美に仕事でよく行くのですが、奄美出身の建築家の方が奄美式古民家をリノベーションして宿泊施設にしている「伝泊」というブランドの映像を継続的に撮っているんです。その建築家の方がめちゃくちゃ丁寧に島中の集落をまわって、先陣をきってリノベーションされてるんですよね。元々住んでた方の落書きがそのまま残ってたり、一軒一軒のストーリーがすごく面白いです。ウジさんの切り口の場合は、ビジネス的な方法論を使って島を良くしていくというな姿勢が、独自のストーリーを生み出していますよね。
ウジ:私が今、どうしても壱岐を離れられない理由のひとつは「壱岐島の美しい砂を売ってほしくない」ということなんです。
つまり、売り物が何もないならまだしも「砂を売らなくても豊かになれる素材」が壱岐には山ほどあって、ぜひそれを売って欲しいなと。それは私がデザインとかコンテンツ制作とかでだいぶお手伝いできそうな気がしてるからなんですが。
―― 砂、ですか?
ウジ:はい、砂です。白砂。
もちろん、島民の方の生活がかかっていますから、外部があれこれ言う話ではもちろんありません。でもこれを続けると魚は減ってしまうということも、別の島の方からは聞きました。
あともう一つは、海沿いをやたらコンクリートで固めちゃうのも悲しいですね。色々理由があるのはわかりますが、せめて今からのタイミングだったら、雨水を通す自然に優しい素材を使うとか。環境への配慮を最優先してくれる方が、イメージもいいですし。
ただ、あんまり良くないことだと分かっていても、地元の中の関係があって表立って意見を言いづらいのでしょう。なので私みたいなよそ者が「こういうやり方の方が、儲かりそうだし、楽しそうですよ!」「ついでに自然も守れますし、一石二鳥ですね!」みたいな提案を示すことで、自主的に乗り換えてもらうしか方法はないんじゃないかと思っています。
あと、これを抑制できるのは、もしかしたらメディアの力じゃないかと思ってとても期待してます(笑)。
―― そうなんですか。それはぜひ議論のきっかけにするために、取り上げなければいけないですね。最後に移住に話を戻しますが、地域社会・島社会で役に立てる人の条件というのはあると思いますか?
ウジ:「地域に(理解を示せるけれども)無いスキルを持つ人」「一芸に秀でた人」がいいですよね。地域おこし隊の制度がありますけど、うまくいってるパターンとしては、東北から来た海女さんの女将がいます。元々アパレル会社で働いていた方なんですけど、こっちでも海女さんをやって、その後地元の漁師さんと結婚してやってるゲストハウス「みなとや」さんはすごく人気です。
逆に、神様にすがるような感じで来られると、一般的に都市部よりも労働条件は厳しいはずなので、路頭に迷ってしまう可能性もあります。
人生の新天地を求めて、例えば「移住先に割のいい仕事があるから一攫千金」という感じで移住するのではなくて、自分で仕事を持ってこられる人、その地域に求められる職能を持っている人が自身のスキルを高めたり感性を豊かにするために移住してみるというのが、移住される側の地方の人にとってもいいと思います。
―― 僕は1本目の長編映画を小規模ですが劇場公開して、それがきっかけで名古屋で有名なシネマスコーレという映画館に短編を1本プロデュースしてもらって、その作品も国内外で上映できたという、ちっぽけですが一応「監督キャリア」を歩み出せたくらいで福岡に移住したら、結構功を奏したタイプですね。福岡だと映画監督という肩書の人が皆無で目立つので。あと、映画監督や映像編集・執筆の仕事は、どこでも仕事できるのがラッキーでした。
ウジ:そう。なので、IT企業とかメディアとか、ぜひ、壱岐に来てください(笑)、最高です。
壱岐は砂浜がそこら中にあってて、しかもほぼ誰もいない。仕事求めて行くんじゃなくて、仕事を携えていくっていうのがやっぱりいい気がしますね。「ワーケーション」っていうとちょっとなんかが違う気もするけど。「移動しながら仕事」に近いのかな。何か新しい言葉ってありますかね?
―― 「二拠点」とかが、一番説明としてはわかりやすいですかね。移動して働いてるだけみたいな。あとは「アドレスホッパー」みたいな人もいますよね。「旅するフリーランス」とかも。
ウジ:景色で脳みそいっぱいにすると、もともとあった古い考えやイメージは浄化されやすく、新しいアイデアが湧いてきます。例えば「FINDERS 1カ月壱岐移住」みたいなのあっていいと思うんですよね。
―― お!(笑)。
ウジ:そして、たぶん誰かが「やっぱり、船舶免許取りたいよね?」とか言い始めます。旅行じゃなくて滞在型の島ツーリズム。そういうのはすごく意義があるなって思いますね。
―― お話を聞かせていただいて、ウジさんが今どういう時間・空間の流れにおられるか、かなりイメージがつきました。「何もない場所で、検証・実験の日々」という感じですね。
ウジ:例えば、島の方は「壱岐は冬は寂しい、何もない」みたいなことを特に年配の方がおっしゃいますけど、そんなことないですよ。星も綺麗だし、荒涼とした景色にも歴史を感じたり、島ならではの不思議な風情があります。
それはいわば「今は名前がない宝物」ですよね。こういった今はまだあまり取り上げられていないものを、きちんと磨き上げるっていうか、わかりやすく伝えていきたいですし、そこから何か生み出していきたいですね。
そのためにも、みんなで「やっぱりこれだよね!」って確信を持ってることがすごく重要だと思うんですよ。原理・原則とか法則とかって、そう言うふわっとした気持ちをあと押ししてくれます。そういうことを自信を持って皆が思ってもらえたらいいなと思って、『人を動かすデザイン22の法則』を書きました。
島の人はみんな、「本読む暇がない」って言いますけど(笑)。
17時10分。「夕ジェット」の時間まで、ウジさんには色んな場所を案内してもらい、道中でたくさんの出会いがあった。予報通りの大雨は、帰りの港に向かう道中で降り始めたし、お寿司屋さんに行ってみるとラッキーにもウニやスズメダイ(通称「あぶってかも」)など、タイミングが合わないと食べられないネタが入荷していたりして「今こそウジさんに会いにいかなければ」という直感が後押しされたように感じた。
18時20分、日が落ちかけた博多港に戻って北西の方角を眺めると、島での体験によって、約80km先にある壱岐の輪郭を脳内に鮮明に思い浮かべられるようになっていた。移動せずにさまざまなことが実現するようになってきている昨今の時勢の中で、やはり移動・移住には人の考えや感覚を根本的に変える力があるのだと実感する旅となった。