肉体的な欠点を女性芸人に求められる時代はもう終わる
―― アヤコさんは2017年に結婚されています。夫も芸人活動とエンジニアの両立にすごく理解があるそうですね。
アヤコ:夫は私の活動に理解があって、いいぐあいに放っておいてくれるのでありがたいです。それから、「ブス・デブ・美人といったことを女性芸人に求められる時代はもう終わるから、君がその筆頭になればいいよ」と言って励ましてくれました。
「自分を落としてナンボ」のお笑いではなく、これからの新しい時代、弱い部分は認め合いつつ、いい部分は伸ばして輝ける社会になるといいねという話を夫とはよくしています。
特に最近は、きちんと自分の意見を持つ第7世代の芸人が増えてきていることもあって、業界の空気が変わってきたように感じます。そうしたいい流れができればいいなと思っています。
―― アヤコさんは経済的な基盤をしっかりさせた上で好きな芸人活動を続けて、しかもパートナーとの幸せも大事にしていて、バランスのよさを感じます。
アヤコ:私も以前は、結婚したら尖った部分がなくなってしまうんじゃないかと思っていました。でも、実際結婚してみたら、意外と何も変わらず、安心しましたね。
実はバランス重視のスタンスは夫の影響が大きくて、お互い幸せでいたいので、安心させるためにも自立していたい気持ちが強くあります。夫婦の未来を考えて組み立てているところもありますね。
―― 女芸人さんの中には、「この芸は彼氏には見せたくない」といった女を捨てた芸もあって、それはそれでパンクではありますが(笑)、アヤコさんのスタイルではないと。
アヤコ:自虐的な芸もありだと思いますが、多様性の時代に向かう中で、社会がよりよくなることを阻むようなネタはやりたくないという気持ちもあります。
それから私はあまり大きな声を出したり、激しい動きをしたりできない方なので、できないことを避けていたら今の芸風に行き着いたところがあります(笑)。
できないことを無理にするよりは、できることだけやって伸ばせばいいかなと思っています。
―― 副業に専念してしまうと、業界内からは「その道は諦めたの?」というふうにネガティブに捉えられる面もあると思いますが、いかがですか?
アヤコ:確かに退路を絶たないと本気じゃないみたいな空気感は未だにありますね。でも、それは労働力を安く使おうとする側の論理のような気もします。そういう意味では、時代とともに自由度が増していくと思います。
―― 芸人やエンジニア以外にも「副業」がテーマのビジネスセミナーに登壇する引き合いもあって、いろんな顔を持つアヤコさんですが、それぞれの活動を使い分けるコツはありますか?
アヤコ:芸人をやっている時は、まるで夢を見ているみたいに現実感がないですね。その数分前まで普通に会社のオフィスで仕事しているので、電車移動中にネタを思い出したり、切り替えたりすることはあります。
芸人って現場でネタ合わせする人も多いんです。でも、私の場合、会社から直接向かうことが多くて忙しいので、すぐに現場で芸ができるように家で練習しておいたり、自分が得意なことだけやったりといったことは心がけています。
―― 芸能界とIT業界を行き来する中で、感じるギャップはありますか?
アヤコ:テレビ局の方に会うと、「結婚して家事もやらなきゃならないのに大変ですね」などと言われますが、夫婦で分担しているので逆に負担は少ないんです。結婚観ひとつとっても、考え方の違いを感じることがありますね。
―― 業界によっては保守的なところもありますよね。副業スタイルでよかったなと思うことはありますか?
アヤコ:依存先が多いところですね。コロナ禍でひとつの仕事が絶たれても、リスク分散できるところがいいなと思います。
―― 今後、たとえば、芸人の仕事が圧倒的に忙しくなったら、エンジニアを辞めて芸人活動に一本化する予定はありますか?
アヤコ:本当に忙しくなったら必然的にそうなるかもしれませんが、エンジニアに片足は残しておきたいという気持ちがあります。
ロボットエンジニアの仕事が面白いというのもありますし、業界にもお世話になっているので、そっちのつながりも大事にしながら、ロボットエンジニアと芸人の相乗効果でやっていけたらと思っています。
―― とはいえ、芸人さんは当たると大きいとも聞きます。しつこいですが(笑)、今後、一気に芸人としてブレイクしたらどうしますか?
アヤコ:たとえ大金を手にしても、そんなに生活は変わらないんじゃないですかねぇ(笑)。夫婦の生活をよくするために使うと思います。海外旅行には行くかもしれません。当分行けそうにありませんが。
―― 本当に地に足着いていますよね(笑)。笙以外のさまざまな楽器を含め、アルゼンチンタンゴなど多趣味なアヤコさんですが、好きなことを突き詰めて仕事にしたいと思う人は多いと思います。そんな読者に、副業につながるアドバイスをお願いします。
アヤコ:ちゃんと食べて寝て、お風呂に入ってといった健康が担保されていれば、基本どんなことをしてもOKだと思います。私の場合は、「嫌だな」と思うことは避けるようにしています。嫌なことをすると明らかに脳が疲れるからです。
必然的に楽しめることばかりやっているわけですが、するとその先にいろいろできるようになることがあるんじゃないかなと思います。
私の場合も、芸人を始めた頃は漫才をやりたくて、学生時代はコントを作りたいと思っていましたが、いつの間にか一方で好きなこととして続けていた笙を芸に取り入れるようになりましたから。
―― 最後に、芸人として、それからエンジニアとして今後やりたいことや目標について教えてください。
アヤコ:雅楽関連のECサイトひとつとっても、まだ古いものが多いこともあって、雅楽界でIT界に強いとことが武器になると考えています。
スキルを活かして、笙の楽譜のプラグインを作るなど、雅楽界に貢献できたらと思っています。それから電子工作と雅楽をかけ合わせたショーもやってみたいですね。
―― 数年後に野外フェスティバルでまったく新しいスタイルのショーのステージにいるアヤコさんが目に浮かびますね。ありがとうございました。