EVENT | 2020/11/24

影響力増す「ハッシュタグの政治運動」にはリアルの軸も必須。津田大介と「ウェブと政治」の10年【後編】

前編はこちら
津田大介氏の「ウェブと政治」にまつわるロングインタビュー後編をお届けする。
文中で少し触れてもいるが、...

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政治を変える力も宿した「ハッシュタグデモ」の功罪

―― 話は少し変わりますが、今回津田さんにお話をうかがいたいと思った1つのきっかけが、三浦瑠麗さんがAmazonプライムのCMに出演した際の批判に対して「あいトリを攻撃されたロジックと近い(公共と民間という大きな違いはあるにせよ最終的には不快感によって駆動されているという点で共通する)部分があるのでこのハッシュタグには複雑な思いがありますね」とツイートしていたことでした。この件も最終的にCMが取り下げとなりましたが、SNSでの運動が現実に影響力を持って何かを変えることが最近本当に増えたなと。

津田:実際、このツイートで左派の人からはすごく批判されました。

―― 津田さんのように「批判する気持ちはわかるけど、その上でのアクションがこれで本当に良かったのか?」と逡巡する人も増えてきたような気がします。

津田:まず前提として、僕は三浦さんのスリーパーセル発言(※)を肯定するわけではないし、あの時は本人に直接「絶対に撤回したほうがいいし謝罪した方がいい」と伝えています。

※三浦氏が『ワイドナショー』に出演した際、「東京や大阪にはスリーパーセルと呼ばれる北朝鮮の工作部隊が潜伏している」といった趣旨の発言を行い、差別を助長すると批判を浴びた一件。後日、三浦氏のブログで批判に対する反論文が掲載された

だから、あのCMに三浦さんが出て、それが嫌だから解約しようということの表明までは自由だと思うんです。ただ、「#Amazonプライム解約運動」というハッシュタグを作ってAmazon社全体に圧力をかけようという運動が盛り上がったときに、強い違和感を感じたんですね。

スリーパーセル発言は確かに問題だと、僕は今でも思っています。でも、それは三浦さんとともにあれを生放送ではない収録の『ワイドナショー』で流したフジテレビにも同等の責任があるわけで、あの発言を問題視するのであれば、三浦さん個人とともにフジテレビに向けられるべきだろうと。しかも、AmazonプライムのCMは三浦さんが何か喋っているわけじゃなくて、ただ単に数秒映っただけでした。

差別的発言と捉えられる発言をした人間を起用する企業の社会的責任はあるだろうというロジックは分からないではないけれど、Amazonに対してのボイコットをするというのであれば、なんでプライム会員を辞めるだけなの?という疑問もあり、筋が通っていないんじゃないかとも思いました。

個々人で意見を表明しあっているだけならまだしも、ハッシュタグでみんなつながって「俺も私も」とスクラムを組む。そしてそれの対象が個人になると、単なるいじめになってしまうんじゃないかと思うんですよね。お手軽にハッシュタグでつながるだけでなく、案件の特徴を捉えたうえで、ネットでやるのか、リアルで署名を集めたり陳情したりするのか、そういう調整作業が必要だと思うんですよね。

ソーシャルメディアの一番良くないところはコントロールが効かないことだと思います。人が見える組織対組織であれば、そういうことをやりつつもお互いに顔を見ながら話をして、落としどころを探ることができる。ただ、SNSでコントロールが効かなくて怒りが怒りを呼びどんどん拡散していくと、潰すまでそれが止まらなくなってしまう。米国の社会運動は、かつての激しかった消費者運動の反省から今はスタンスも変わっていて、近年は社会運動によって問題のある企業を「潰す」のではなく、一緒に問題を解決するパートナーになるという方式を取るところが多いそうです。ツイッターのハッシュタグデモは問題提起にはいいのですが、その後相手方と対話する回路をつくるところまでやらないと結局ガス抜きで終わってしまいます。

ただ、それも案件ごとに判断するしかないんですよね。例えば検察庁法改正案のように法律をあとから閣議決定でねじ曲げるようなおかしい決定は、まず潰す――まではいかないまでも見直しを迫る必要はあり、緊急度から考えればあのハッシュタグ運動は有用でした。しかし、そのパワーが政治家でもない特定の個人に向けられてしまった時のことも考えないといけません。

―― 左派に限らないでしょうが、ネットだと実態以上に「敵」が巨大な存在に見えてしまうという部分もあるのかもしれませんね。

津田:ただ僕は、安易に「右派も左派も両極化しててどっちもどっち」みたいなことは言いたくないんですよね。だってそこには非対称性があるから。ネット右翼の人たちは、どんなに酷いことを言っても自分たちと価値観を同じくする人は擁護してくれます。擁護してくれて、さらには共通する敵を叩くというある種のエコシステムができている。

ただ左派の場合、最近で言えば安倍政権が終わった際の白井聡さんや石垣のりこさんの発言が批判されましたが、失言をすると右派からはもちろん叩かれるけど、左派からも叩かれる。総攻撃になっちゃうんですよ。杉田水脈さんなんか典型的ですが、右派は何度同じことをやってもずっと守ってもらえる。でも、左派は一度のそういう失敗で大きなダメージを負う。しかも「リベラルのくせに寛容さが足りない」とか言われちゃうわけで。理性的に発言したほうがいいのは確かですが、それでもこの非対称性を無視して左派・リベラルだけ批判するのはフェアではないなと思います。

他方で、そういう愚痴みたいなこと言ってても建設的じゃないなとも思うんです。確かに今は左派にとって辛い時代ですが、そう感じるのはネットだけで考えているから厳しいわけで。ネットはあくまでネットであって、リアル社会とイコールではない。ちゃんとリアルで自分のことを理解してくれる人とつながって場所をつくって、10年ぐらいのスパンでコミュニティ、組織を大きくしていくことが大事じゃないかと思います。

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