CULTURE | 2020/04/30

さよならコメント欄。相次ぐ閉鎖に見る「ウェブ2.0」という理想と現実【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(11)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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意外と秩序の保たれている5ちゃんねる

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そして最近でもBLOGOSと東洋経済オンラインがコメント欄の運用を停止した。PVは稼げるものの、もはやリスクになったと感じたのだろう。場合によっては誹謗中傷を放置した、ということで損害賠償請求を食らうかもしれないし、デマの発生源になるかもしれない。BLOGOSの田野幸伸編集長は、廃止の理由について「このような場を放置するのが忍びなかった」と語っていた。

ヤフーニュースはまだコメント欄は装備しているが、「ヤフーニュース個人」のように著者本人への罵詈雑言が寄せられるものについてはコメント欄を実装していない。また、明らかに差別的なコメントが殺到することが見込まれる記事にもコメント欄はない。ヤフーの場合はPVが稼げることもあり残しているのだろうが、正直どんな記事にもクソみたいなコメントがあるものだ。

4月25日に私は「飲食店にとっての家賃の重み」という記事を出した。これは私がスナックの存続のために家賃を170万円貸し、20万円はあげ、そのうち50万円は戻ってきた、という話だ。コロナの時代、家賃が相当な足かせになっていることを受けての記事であり、これは「マネーポストWEB」からヤフーに配信したもの。すると、多くのコメントは「最初から家賃なんて分かってるだろ。バカか。公務員のオレ、勝ち組」「飲食店なんかいらないし儲からない業態だからやるヤツがバカ」といった意見だ。

さらには、「著者が自慢したいだけのクソ記事」なんてことも書かれる。要するに「190万円を払えるオレ、すごいでしょ?」と解釈されたのだ。まぁ、ヤフーがいつまでこのクソ肥溜め空間を維持するかには注目しているが、イライラしていたり、とにかく文句をつけたい人間というものは一定数存在するのだから、オープンなコメント欄というものはもはや時代の趨勢とはかけ離れたものであろう。

そういった意味でいえば、ネットの善意なるものに期待することは無理だし、そのつもりでサイトは運営していくべきである。

一方、運営者がどこの誰かもよく分からず、アングラな世界で新参者が入るにはハードルが高い5ちゃんねるはある程度の秩序があると感じられる。何しろ空気感が20年前とあまり変わっていないのだ。さすがに「半年ROMれ」や「詳細キボンヌ」「今北産業」などの言葉を使う者は絶滅危惧種になっているものの、シニカルで罵倒合戦が時に発生し、しかしながら冷静な意見も散見されるというネットリテラシーが高い者達の空間である。彼らは往々にしてツイッターユーザーやヤフーのコメント欄ユーザーをバカ扱いする。特にツイッターの場合は、バカッター等で「身バレ」して人生が破壊に追い込まれたバカに対して「5ちゃんでやればいいのになwww」なんてことを書かれてしまう。

かつては2ちゃんねる(現5ちゃんねる)は怖い、修羅の国、といったイメージがあるが、よっぽどヤフーニュースのコメント欄とツイッターの方が修羅の国である。多分それは「バカ率」の低さによるのだろう。今では私は世間の意見や反応を知るにはツイッターとヤフーのコメント欄よりも5ちゃんねるの方が参考になると考えている。何しろツイッターではいい年こいた男女が極論を述べて怒り狂っているし、かつて憧れたようなライターが完全に老害に成り果てている様などを見て一抹の寂しさを覚えてしまったりするのだ。


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