CULTURE | 2020/04/26

「ミニシアター・エイド基金」は経営者にとってどんな役に立つのか。ポレポレ東中野&下北沢トリウッド支配人インタビュー|緊急連載 #新型コロナと戦うミニシアター (3)

ポレポレ東中野の外観
第1回:「ミニシアター・エイド基金」の発起人のひとりである濱口竜介監督のインタビューはこちら
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映画館という「場」の魅力を発信しつつ、新事業も模索する

―― そうした中で、ミニシアターをどうやって存続させようと思っていますか?

大槻:難しい質問ですね。映画館は人が集まる“場所”であって、でも、人の集まるところにちょっと行きたくないな、という観客は増えると思うし、来ても席の間隔やトークイベントなどが気になる人は出てくる。そうすると、座席数の調整も必要になり、売上は確実に減少しますよね。その方々が映画も楽しく見られて、我々も営業を継続できるような形がどういうものなのか、まだ見つけられてはいないです。

小さいことで言うと、ミニシアターの主たる収入はチケットとパンフレットなどの物販くらいなので、プラスアルファの収入を考えなければいけない。例えば映画の製作をするとか、配給もするだとか、チケットの売上だけに頼っていては先細りになってしまうかもしれないので、色々な方法でそれ以外の売上の確保を考えていかなければならないですよね。あと、ネット配信をもっとちゃんと考えなくてはいけないと思います。

僕は、配信と映画館は全く別物であると思っていたので、パイの食い合いは心配していなかったのですが、そこも変わってくる。配信と劇場とがどう折り合いをつけていくかを、特に映画館が意識を変えていかなければいけないのではないかと思います。

―― 近年は配信でも映画を観られるようになりましたが、配信と映画館の違いはなんでしょうか。

大槻:“映画館で映画を上映し、かつその映画に人が入った”というのが話題になって、多くの人がその映画を知り、観ようと思って物理的に動く。これは、映画館でしか出来ないことだと思います。もしネットでこれと同じ現象が起きたら、それは新しい時代になったと思うのですが、今のところは映画館だけだと思います。

映画館で見る映画は、1800円というお金を払って観に来る、かつ暗い場所で同一方向を向いて座らされるというある種、拷問みたいなシステムなので、お客さんも真剣勝負なんです。お客さんは映画について意見を言う権利があるし、監督はそれを受け止めなくてはいけない、批判も賞賛も。そこでぶつかり合いが生まれて、次の作品が生まれるモチベーションにもなるんです。お金を払って真剣に見るからこそ味わえる、皆で一緒に同じものを観ながら笑ったり泣いたりする熱気。それは今のところ映画館という“場”でしか味わえないですから。

―― ポレポレ東中野と下北沢トリウッドが再開したら、ぜひ観て欲しい公開予定の新作映画はなんでしょうか?

大槻:ポレポレ東中野の上映作品だと、『タゴール・ソングス』ですね。4月末から公開予定です。まだ若い佐々木美佳監督の初監督作品で、これを観て勇気をもらって、この映画で歌われるタゴールの詩のように、人に流されず君の思った道を進め、というメッセージが、まさに今の状況にピッタリで、ぜひ、映画館が再開したら観て欲しい映画です。

非西欧圏で初めてノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴール。イギリス植民地時代のインドを生きたこの大詩人は、詩だけでなく歌も作っており、2000曲以上にものぼる「タゴール・ソング」は今も多くの人に愛され続ける。本作は歌が生きるインド、バングラデシュの地を旅しながらその魅力を掘り起こす音楽ドキュメンタリーである

あと下北沢トリウッドでの上映作品だと、『ドロステのはてで僕ら』(同館の営業再開に合わせて公開開始)です。京都の劇団、ヨーロッパ企画とトリウッドが共同製作した映画で、70分という短いSFサスペンスコメディです。これを観て、今なんとなくちょっとピリピリしている人たちが少しでも気楽になってくれたら嬉しいです。どちらも長く上映しますから見に来て欲しいですね。

『ドロステのはてで僕ら』は、合成を一切使わない、長回し撮影によるエクストリーム時間SF。主人公・カトウの部屋と同じビルの1階にあるカフェのPCモニターが突如、2分の時差でつながる「タイムテレビ」に変貌。2台を向かい合わせて、もっと先の未来を知ろうと躍起になるカフェの常連や同じビルの闇金業者などが加速度的に事態をややこしくしていく……というストーリー

―― ミニシアターでしか出来ないことの一つに、「新人監督の初監督作品を上映し、新しい才能を発掘する」というところがあると思います。

大槻:新人だからこそ、小さいところでの上映がスタート。それはそうせざるを得ないんですよ。だって、実績ゼロの人に全国のシネコン300館は空けられないので、まずはミニシアターで上映して、この映画や監督を好きだという人たちと一緒に監督も成長していくんです。そういった意味でミニシアターが新人監督への道を作ることが定着していると思います。次の新海誠監督を待っているお客さんも確実にいるだろうし、次の新海誠を生みだす為にも、ミニシアターは続けなければいけないし、続いていきます。

* * *

大槻支配人は、「映画製作者とお客さんが近い距離感で交流できるのはミニシアターでしか体験できない映画体験だから、この場所は無くならないと信じている」と熱く語る。人と人とが同じ体験を共有し、一緒に映画を応援し、映画監督も含め、映画を育てていくのがミニシアターなのかもしれない。

ミニシアター・エイド基金」は、Motion Galleryのクラウドファンディングで5月14日まで受け付けている。

もし、この世界に娯楽映画しか残らなくなったら。

もし、この世界から映画館が無くなったら。

勧善懲悪の分かりやすい物語しか見られない世界になったら。

私たちの心の機微は養えるのだろうか?

第1回:「ミニシアター・エイド基金」の発起人のひとりである濱口竜介監督のインタビューはこちら

第2回:ユーロスペース支配人の北條誠人氏のインタビューはこちら


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