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退職代行サービスを使えば楽勝で円満退社できる?【連載】FINDERSビジネス法律相談所(12)
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  • 2019.06.10
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退職代行サービスを使えば楽勝で円満退社できる?【連載】FINDERSビジネス法律相談所(12)

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日々仕事を続ける中で、疑問や矛盾を感じる出来事は意外に多い。そこで、ビジネスまわりのお悩みを解決するべく、ワールド法律会計事務所 弁護士の渡邉祐介さんに、ビジネス上の身近な問題の解決策について教えていただいた。

渡邉祐介

ワールド法律会計事務所 弁護士

システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚などの家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。

(今回のテーマ)
Q.なるべく早く会社を辞めたいのですが、引き止められそうで退職を言い出しにくく、段取りも面倒です。近年、退職代行サービスなるものもあるようですが、利用すれば簡単に会社を辞められるのでしょうか?(30代・会社員)

会社を辞めたい!

「今の仕事に向いていない」「上司と合わない」「会社のカラーと合わない」「会社になかなか評価されない」「残業が多すぎて辛い」……。会社を辞める理由はさまざまですが、多くの企業で従来の終身雇用型が崩れている現代では、勤めている会社を辞めて何社も転職する人が増えています。

そうした中、退職代行サービスのニーズが高まってきており、最近ではメディアでも取り上げられるようになりました。

時代が求める、退職代行サービスとは?

「会社を辞めたいけれど、上司に言い出せない」「退職の意向は伝えたが、激しい引き止めにあっている」「色々と煩わしいのですべて第三者に任せたい」と要望する人に代わって、退職の意向を会社側に伝える「退職代行サービス」の利用者がここ数年急増しています。

「円満退職」という言葉があるくらいですから、退職という場面では、円満ではない場合というのも数多くあります。場合によってはトラブルに発展するケースも少なくありません。そうなると、退職に関わるやりとりを他人に任せてしまいたい、その分エネルギーを前向きな方へ集中したい、というニーズも多いのでしょう。史上最長10連休のGWとなった今年ですが、GW中からも申し込みは増えているようです。

退職代行サービスを利用すれば簡単に会社を辞められる?

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(社員)「課長、今月末で会社を辞めさせてください」

(課長)「そうですか。残念ですが、了解しました」

このようなスムーズなやりとりだけで会社を退職できるなら何も心配はありませんが、多くの場合、退職という場面では、こんなにあっさりしたやりとりだけで終わるケースは少ないでしょう。そもそもこんなに簡単に済むのであれば、お金を支払ってまで退職代行サービスを頼もうとする人もいません。

現実問題としては、会社側にも言い分がありますから、社員が退職の意向を伝えるだけであっさり終了するケースは少なく、退職時期について話し合ったり、場合によっては会社側から引き止め交渉や、待遇改善を提案されたりすることもあります。こうしたケースになると、退職代行サービスにもさまざまな問題点が出てくることになります。

退職代行サービスは違法なのか?

弁護士法第72条の非弁行為の規定との関係で、実は退職代行サービスについてはその適法性について議論もあるのです。

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」

つまり、弁護士資格のない者が、報酬を得て依頼者と会社の間に入って退職の交渉をすることは、非弁行為として違法にあたります。

退職代行サービスが増える一方で、この規定との関連で、退職代行業者のサービスの適法性が問題になっているのです。この点についての代行業者の言い分は、「自社のサービスは依頼者の代わりに退職の意思を会社に伝えるだけ(=使者)であって、代理人として交渉を行っているわけではない」というものです。

もちろん、さきほどの社員と課長との会話のように、あっさり何事もなく終わるようなケースであれば、退職代行業者が社員の代わりに退職の意思を伝えるだけで問題なく終わります。ですが、退職の場面では大抵の場合、会社側の言い分もあります。会社側から退職代行業者に対して、言い分や反論を伝えたり、引き止めや報酬改善の提案を持ちかけたりすることになれば、退職代行業者のサービス範囲ではこうしたケースに対応できなくなります。

利用にあたって注意すべきことは?

適法な退職代行業者のサービス範囲は、依頼者の退職意思や必要な連絡を会社に伝えることに限られます。利用する側がそうしたサービス内容を理解せずに、「代行業者に任せれば、あとは全部やってくれる」と考えてしまうと、場合によってはトラブルに発展することもあるため注意が必要です。

代行業者に任せたからといって、その後の会社からの連絡を一切無視し続ければトラブルに発展することもあります。状況によっては、会社から損害賠償請求をされる可能性すらあります。たとえば、労働者が退職に至るまでの間、長期間にわたり無断欠勤を続け、退職の際も何ら必要な引継ぎや連絡をせず、代行業者に任せたまま、本人が会社との関りを一切断ち続けた場合、会社に対する義務違反にもなり得ます。また、これによって業務に著しく支障が生じ、取引先との契約解消などの実害が生じることにでもなれば、会社から損害賠償請求される可能性だってあり得るのです。

退職代行業者を選ぶ上で注意すべきことは?

代行業者の選定にも注意が必要です。適法なサービス範囲として退職意思や必要な連絡を伝えるという部分をしっかり守っている代行業者を見極める必要があるでしょう。

退職の場面で会社側から言い分や主張が出た場合、往々にしてなし崩し的に話し合いや交渉に発展するケースがほとんどです。そうした場合に、交渉の部分まで対応してしまっている退職代行業者も現実にはあるようです。こうした退職代行業者のサービスは、非弁行為にあたるため違法です。こうした非弁業者に依頼してしまった場合、依頼者自身もトラブルに巻き込まれることがあるのです。

もっとも、退職代行業者のサービスが非弁行為に踏み込んでいるかどうかの判断は、一般の人には難しいものです。どこまでが意思表示の伝達で、どこからが交渉にあたるのか、という境目の判断が難しく、いわゆるグレーゾーンとされる領域があるのです。

安全な退職代行の方法とは?

退職代行業者に依頼する場合は、その業者のサービス範囲を事前にしっかりと確認しておくことが大切です。まずは会社からのどんな反応に対して、業者がどこまで対応できるのか、どこからが範囲外なのかという点について、しっかりと把握することです。その上で、交渉やトラブルに発展し、退職代行業者のサービスを超えたら、そこから先は自分自身で対応するか、弁護士に依頼する必要があることを認識しましょう。

話し合いや交渉に発展することがあらかじめ予想されるのであれば、安全な方法としては、初めから退職代行を取り扱う弁護士に依頼するのがベスト。会社との間で退職に関わる交渉まで一切を任せることができるため、会社からの主張や反論などがあったとしても、すべての対応を弁護士に任せてしまうことができます。

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手間や工夫を惜しまない幕引きが大切!

会社に退職の意思を連絡することは、欠勤の連絡をするのとは訳が違います。退職には、人と人との関係の解消という意味も含まれて来るからです。離婚などの場面でもそうですが、人と人の関係を解消しようとする場面では、一方的な意思表示だけで円満に終わるケースは少なく、何かしらの交渉やトラブルに発展するケースが少なくありません。そもそも交渉やトラブルが発生しやすい場面だということを認識しましょう。

だからこそ、退職代行業者のサービスを利用して円満退社を望む場合、会社との間で争点になりそうな点をしっかりと列挙し、会社が妥協しそうな内容をあらかじめ固めておくことです。その上で代行業者を通じて会社に提案することで、一発承諾を得られる可能性も高まるでしょう。

人は感情の生き物でもありますから、これまでお世話になった会社の上司や同僚に感謝の手紙をしたため、退職代行業者を通じて渡してもらうことも、円満退社に向けた有効な手段かもしれません。

退職代行業者を利用するにしても、「明日で辞めますと伝えてください」のひと言だけで、丸投げで簡単に終らせようとするのではなく、上記のような手間をかけたり工夫したりすることで、スムーズな退社への途が開けるのではないかと思います。


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