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オフィスがない、納品もしない、管理もなくしても成長する会社【連載】「遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作りかた」(1)
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  • 2018.04.10
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オフィスがない、納品もしない、管理もなくしても成長する会社【連載】「遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作りかた」(1)

倉貫義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役

大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営など様々な先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。ブログ http://kuranuki.sonicgarden.jp/

オフィスなし、全社員リモートワーカー

ソニックガーデン代表・倉貫義人氏

オフィスがなくて、通勤することもなく、部署がなくて、指示や管理する上司もいない。

全社員が在宅あるいは好きな場所で、誰かに見張られていなくても自律的に働く。しかも、売上目標やノルマさえないのに、コミュニケーションを大事にして、ちゃんとチームで助け合って成果を上げる。そんな会社があるって信じられますか?

私たちソニックガーデンは、2016年にそれまで渋谷にあった本社オフィスを撤廃しました。今はオフィスのない会社です。

社員の半数以上が地方在住で在宅勤務をしているので、東京近郊に住む社員も含めてフェアにするために、全社員リモートワークをすることにしたのです。それ以来、誰も出勤することがなく、1カ所に集まることもなくなりましたが、特に大きな問題もなく過ごしています。むしろ生産性は上がりました。

「リモートワークを導入すると、社員の様子が見えないから管理が大変ですよね?」と聞かれますが、そんなことはありません。なぜなら、私たちは「管理のない経営」をしているからです。管理職がいて社員を働かせるのではなく、全員がセルフマネジメントで自主的に働くことを実現している会社なのです。

管理をする上司がいないので、評価する人もいません。指示命令する人がいないし、勤怠管理や進捗管理をする人もいません。

「果たしてそれで人は働くのか?」と思われるかもしれませんが、実際のところ皆それなりに働いていますし、お客様やパートナーの皆さんのおかげで創業から7年、ずっと成長できています。

一体どうやって、そんなことを実現しているのか。それを解き明かしていくのが本連載のテーマです。

「納品のない受託開発」を続けてきた

私たちソニックガーデンは、2018年1月末時点で社員数が30名強で全員がプログラマー、それにデザイナーやライターさんなど継続的に仕事してくれるパートナーさんを入れて、50名ほどで構成された会社です。

多くは中途採用ですが、毎年最大1名の新卒も採用しており、育成にも力を入れています。

元々は、大手システム開発会社の社員だった私が、自分で社内ベンチャーを立ち上げた後に、その社内ベンチャーを買い取る形で5人の仲間と独立して創業したのがソニックガーデンです。

私たちソニックガーデンの主な事業は「納品のない受託開発」。お客様のシステム開発を受託する会社でありながら、納品をしないというビジネスモデルを採用しています。

具体的には、顧問弁護士や顧問税理士のITエンジニア版だと考えてもらえれば、イメージしやすいと思います。月額定額で、担当のエンジニアが、お客様が抱えている問題や立ち上げたい事業に必要なシステムを相談に乗りながら、ずっと開発を続けていくスタイルです。

私たちのスタイルは、最初に何を作るのか決めるのが難しい新規事業や、会社の成長に合わせて業務改善をしていきたい場合のシステム開発に向いています。そうした場面で大事なことは、事業や業務に合わせて継続的に改善をしていくことだと考えて、「納品をなくす」ということにしたのです。

しかも、働いた時間でなく成果を出す約束をすることで、客先での作業をなくして、打ち合わせもテレビ会議でするようにしました。その結果、どこにいても仕事ができることになり、本社オフィスに来なくても良いし、在宅勤務でも良いということになったのです。

働き方改革で求めるべきは「どうすれば楽しく働けるか」

「納品がない」というビジネスモデルだけでも十分にユニークに思われるでしょうが、本社オフィスを撤廃して、全社員が通勤しない働き方をしていることなど、私たちの就業スタイルについても注目されるようになりました。

特に、ここ最近は「働き方改革」を旗印に見直しを進める風潮の中で、新しい働き方をしている企業の一つとして、全国紙の新聞をはじめ多くのメディアで取り上げてもらいました。

それほど働き方が注目されるのは、今の日本が抱えている生産性の問題、人口減少による働き手不足の問題、過労やハラスメントによる人間の尊厳の問題などがあり、もはや見直さなければ立ち行かないということなのでしょう。

働き方を見直すことは大賛成ですが、そこで短絡的に働く時間を短くすれば良いんだ、ということには賛成できかねます。仕事のすべてが辛い労働だとしたら、短くすべきです。しかし、仕事には「時間を消費して金銭(給料)を得る」ということ以外の側面もあります。

自分で選んだ好きな仕事で、仕事を通じて成長することができたり、仕事そのものが楽しくて仕方ないという人もいるはずです。少なくとも、私は会社員として働いている時から仕事を楽しんでいました。

もちろん、働き過ぎて身体を壊したり、余暇の時間を持てずにストレスを溜めるのは言語道断ですが、情熱をもって自分の意思で働くことを阻害するのは、仕事の楽しさを奪ってしまいかねません。

働く時間を短くするだけが解決の手段ではないはずです。私たちは「遊ぶように働く」というコンセプトで、働くこと自体を楽しむようにすることこそが、これからの働き方に求められることではないか、と考えています。

価値の交換こそ、仕事の本質

「遊ぶように働く」とは、私たちソニックガーデンが働き方を考えるときのキーワードです。仕事そのものを楽しむことで、他の人たちから見て、一体あの人たちは遊んでいるのか働いているのかわからない、そんな働き方を理想としています。

仕事は辛いものだから、なるべく時間を短くしようと考えるのではなく、そもそも仕事そのものを楽しいものに変えてしまう方が、人生はより一層に充実するのではないでしょうか。

仕事を通じてお金が貰えるのはなぜか。苦しいことをするからお金が貰えるのか、長く働けばそれだけたくさんのお金が貰えるのか。どちらも違います。お客様や会社といった相手にとって、価値のあることを提供するからお金が貰えるのです。価値の交換、それが仕事の本質です。

「遊ぶように働く」というのは、ただ楽をするということではありません。価値を提供するためには、努力することも、そのための苦労もあるでしょう。仕事ですから、価値を生み出すためには大変なときだってある筈です。

だけど、大変なことと楽しむことは両立できます。努力をして難しい仕事で成果を出せたり、仲間と力を合わせて大きな仕事を達成することは、大変だけど楽しいことです。

働く本人たちが遊ぶように働くことと、その上できちんと価値を生み出すこと、その両方を両立させる場と仕組みを作ることこそが、これからの経営に求められることなのではないか、と考えています。

ソニックガーデン社の自社ツール「Remotty

「人生の全ての時間を大事にする」という価値観

「遊ぶように働く」を実現するために私たちが実践しているのは、全社員が申請も不要で好きな場所で働けるようにしたこと、指示命令をなくして自律的に働けるようにしたこと、決裁や報告を無くして管理職をなくしたことなどです。

誤解のないように書いておくと、「遊ぶように働く」からと言って、四六時中ずっと働かそうなどと考えているわけではありません。私たちは、IT企業には珍しく、ほとんど残業もなく、休日出勤などすることのない会社です。

働き過ぎずに自分の時間を持って楽しむことは大事なことです。その上で仕事の時間すら楽しくなれば、人生の全部が楽しくなるのではないか、ということです。

私たちの会社には、毎年の達成すべき売上目標や、個人ごとに数字を持たせる目標管理がありません。だから、無理をして働くようなことはしないのです。

会社の成長を追い求めることは経営者として重要ですが、一緒に働く人を不幸にしてまで達成すべきことではありません。まずは自分たちが仕事を通じて幸せになることの方が優先順位としては上なのです。ソニックガーデンにはお金を稼ぐために働きすぎるよりも、人生の全ての時間を大事にするという価値観の人が集まっています。

上場もバイアウトも目指していない私たちは仕事は一生のものだと考えています。自分たちが好きだと思う仕事をずっとやっていきたいし、それはマラソンのようなもので、短距離走ではありません。なので、無理して休むこと無く働いたとしても、そんなことが続けられるわけがないと思っているのです。

働きやすさと成果は両立できる

私たちのワークスタイルの表面だけを見ると、不思議に思えるかもしれませんし、夢のようなことを言っていると思われるかもしれませんが、それだけではありません。

前述の通り、経営者の仕事は価値を生み出す場と仕組みを作ることです。だから、ただ良い人や優しい人でいるためにやっているわけではありません。むしろ経営者として生産性を考えた上で、とても合理的に判断した結果、今の働き方になっているのです。

私たちは、遊ぶように働くとはいっても、ただの仲良しの集まりではありませんし、セルフマネジメントで働くといっても、個人事業主の集まりではありません。お客様にとっての価値を提供し、組織として成果をあげる企業なのです。

『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2018」ベスト10に選出された、完全自動化の電力小売プラットフォームを提供されているパネイル様や、日本経済新聞の「NEXTユニコーン108社」に選出された、外食特化型のグルメ情報メディアを運営されているfavy様といった急成長されているベンチャー企業も私たちのお客様です。

他にも多くのお客様から支持していただいており、契約をして頂いたほとんど全てのお客様が、ずっと顧問契約を続けてくださっています。そのため、新しいお問い合せも多くいただきますが、今は順番待ちしていただいているような状態です。お客様の期待に応えることが出来ているのは、私たちにとって誇らしいことです。

働きやすさを重視し、働く人のことを大事にすることと、生産性を上げて成果を出すことは両立するのです。むしろ、これからの時代の、これからの仕事では、アメとムチで管理して働かせることよりも、自分で働きたいと思う内発的動機を高めることの方が高い生産性を実現するのではないでしょうか。

クリエイティブな仕事での高い生産性を追求し、管理しない経営に辿り着いた

私たちの仕事は、プログラミングという技術を扱いますが、本質的にはお客様の問題解決をする仕事です。お客様の抱える問題は千差万別で、マニュアル通りにこなせばいい仕事とは違います。

これはドラッカーの言葉を借りると「ナレッジワーカー」と呼ばれる仕事です。プログラミングに限らず、昨今の多くの仕事はクリエイティブな要素があります。ルーチンワークがコンピュータやロボットに代替されていく中で、今後さらにクリエイティブな仕事の比率は増えていくでしょう。

クリエイティブな仕事は、指示命令で結果が出せるようなものではありませんし、誰がやっても同じ結果が出せるものでもありません。大量生産の仕事ではないのです。だとすれば、従来のヒエラルキーで構成された組織で、上意下達の指示命令でもって、一斉に同じことをするようなマネジメントは通用しません。

ともすれば、従来のような組織構造は、よくわかっていない上司への説明と確認や、指示待ちでしか働けない人を作り出してしまったり、生産性を阻害することの方が多いかもしれません。

クリエイティブな仕事では、上司の指示通りに手を動かすのでなく、自分の頭で考えたことが成果になります。頭で考える仕事の生産性は、本人のモチベーションに大きく左右されます。しかも、誰かに言われてやる外発的動機よりも、自主的に取り組む内発的動機の方が大きく影響します。

だから私たちは、クリエイティブな仕事で生産性を高めるためにどうすれば良いかを追求し、その結果として、管理をしない経営に辿り着きました。

「非管理型経営」の実験は続く

組織をフラットにして、管理職を無くして、社員の自主性を高めることで生産性を向上する。そうした非管理型経営をしている企業は、まだまだマイノリティですが、無いわけではありません。

ブラジルの産業機器メーカーのセムコ社や、プログラムのソースコード共有サービスを運営するGithubのようなテクノロジー企業のほか、靴の通販を手がけるザッポスも取り入れることを始めましたし、日本でも不動産管理会社向けのWEBサービスを展開するダイアモンドメディア社の取り組みが有名です。最近では、「Teal型組織」や「ホラクラシー」など、中央集権型・階層型のヒエラルキーがない組織運営スタイルが、先進的な経営者やビジネスマンからも注目されています。

私たちの働き方も、おそらくは、そうした非管理型経営に近いものになります。おそらく、と書いたのは、自分たちが実践している経営が何かベンチマークがあったり、確立されたメソッドに則って取り組んできた訳ではないからです。

経営とは、ある意味で実験のようなものです。決まったレールがある訳ではない中で、様々な失敗もしながら、自分たちの考えを証明するために今も新しいことに取り組んでいます。

私は、非管理型経営のコンサルタントではないので、いくつもの会社を並べて分析をすることは出来ませんが、この連載では、私たちが取り組んできた実体験を元にお伝えしていきます。


ソニックガーデン

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